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陛下の復帰
しおりを挟む王宮に行くと謁見の間へと案内された。
王妃様に呼び出されて、殿下との婚約の話をされるのだと思っていたから、少々驚いた。
謁見室ってことは、国王陛下から王命を言い渡されるの?
私はそう思って身構えていたけど、両親は何だか余裕そう。
「ここの天井画も色褪せてきたわね」なんて二人でのんびり謁見室を見上げて話をしていた。
「あれ?」
壇上の王座には既に国王陛下が座っていたが、隣の王妃様の席は空いている。
ふと、私達と同じ壇上から見下ろされる位置に、王妃様とデーヴィット殿下が立たされているのに気が付いた。
ん?どういうこと?
いつもなら王妃様とデーヴィット殿下は、壇上の陛下の隣の椅子に座っているはずなのに……。
本人たちにもその理由は知らされて無いらしく、落ち着かないのか不安そうに、陛下を見ていた。
「スターリー公爵、アイティラもわざわざすまなかったな」
低く威厳のある話し方は変わらないけれど、陛下の声には幾分力が失われている気がした。
そういえば、外見も少しお痩せになった?
かつては旺然としていて、エネルギーに満ち溢れた人だった。
「実はな、少し病気をして王都を離れておったのだ。もちろん、そこにいる王妃とデーヴィットは知っている話だが……」
陛下はチラリと王妃様と殿下を見た。その無機質な目からは感情は読み取れない。
本当に国王陛下がご病気で王都を離れていたのなら、トップシークレットだ。お父様は情報を掴んでいたかもしれないけれど、私は全く気が付かなかった。
「儂が留守にしている間のデーヴィットの行動には大いに失望させられたよ」
こっそりと視線を動かして殿下の方を見ると、それはそれは可哀想なほど真っ青な顔で陛下の話を聞いていた……。そんな殿下を心配そうに見つめる王妃様。
「デーヴィット、お前は儂の執務の代行をほとんど側近たちに任せ、色事に現を抜かしておったそうだな。あろう事か、アイティラとの婚約を一方的に解消したそうではないか!本来ならスターリー公爵が激怒しても不思議では無い。お前はこの国の建国以来の忠臣であるスターリー家を敵に回すところだったのだぞ?」
デーヴィット殿下は項垂れてしまって、全く口を開こうとはしない。そういえば、殿下は元々、厳格は陛下が苦手だったっけ……。
意気消沈してしまった息子を見かねた王妃様が、殿下を庇うように前に出た!
「デーヴィットは次期国王として、重圧に耐えてきました。若さ故の過ちもありましたが、今はもうアイティラさんに正妃として戻ってきてもらうことに決めております。ねぇ、アイティラさんも許してくれるでしょ?デーヴィットは、マリアーナに騙されたのよ?」
王妃様は笑顔で私を見た。口元は笑ってるけど、目の奥からは否とは言わせない凄まじい圧を感じる。
同時に陛下と殿下も私を見た。
王族それぞれの思惑の篭った視線が肌に突き刺さるようで……。
「アイティラ、戻ってくるよな?」
デーヴィット殿下は縋るような口調でそう言う。
「い、いいえ……私は……」
「アイティラさんっ、正妃は貴女よ。デーヴィットから聞いているでしょう?分かっているわよねっ!」
王妃様が怖い!
昔からお妃教育の時、王妃様に威圧され、その目を真っ直ぐに見返すことは出来なかった。
強者に逆らえない、野生の本能かもしれない。
王族三人に怖いほどに見つめられて、中身が庶民の私は、身体が氷みたいにカチンコチンに固まってしまった。
陛下は理不尽な事はしない人。貫禄があり過ぎて怖いけれど、理由を話せばきちんと理解してくれる。大丈夫。
そう思うのに、何故か声が出ない!
断らなきゃ
もう、王妃様の思い通りにはなりたくない。
その時ーー
陛下の斜め後ろに立っていた鉄仮面と甲冑を着けた近衛騎士が動いた!
「えっ……?」
鉄仮面の騎士は真っ直ぐ私に向かって歩いてくると、私を軽々と抱き上げた。
「ひいぃ~っっ!」
「たーー」
『助けて』と叫ぼうとした瞬間、耳元で「俺です」って声がして……。
え……パーシヴァル様……??
鉄仮面の騎士は、くるりと振り返って陛下に一礼すると、私を抱えたまま謁見室を出て行った。
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