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はち!
しおりを挟むラティオー伯爵視点
俺は昔から女にモテたことは無い。
厳つい大男。それだけでも女性には敬遠されるのに、さらに口下手で無愛想。恋愛だなんて縁のない人間だ。
俺は早々に結婚を諦めて軍に志願し国境沿いに配属された。
軍での生活は自分に合っていた。国のためと思えば命を懸けることにだって躊躇は無かった。
しかし、兄の急逝に伴い俺は爵位を継ぐため領地に戻ることになった。これは全く予想外のことで……。
領主になるなら結婚した方が良いと、宰相でもあるウイズリー侯爵から何枚もの姿絵を渡された。
「お前宛の姿絵が何枚もある。好きに選ぶといい」
「いえ……。自分は……ん?これは」
見覚えのある令嬢が一人。それがフローレンスだった。
☆
暑さに弱かった俺の両親は、昔からウェントスの湖の畔にある別荘で夏を過ごしていた。
何もない避暑地で過ごすことが退屈だった俺は、その当時よく屋敷から抜け出して遊んでばかりいた。ある日、俺の話し相手になってくれていた船頭の爺さんが腰を痛めて、しばらく俺は船頭の真似事をしていた。
その時出逢ったのがフローレンス。
彼女はとても変わった少女ですごく印象に残った。
一般的な貴族令嬢は舟遊びの時、日傘を差して大人しく座って景色を楽しんでいる。けれど、フローレンスは水鳥を触るために手を伸ばしたり、俺の持っている櫂を漕いでみようとしたりと、活発な性格で、俺は危なっかしい彼女から目が離せなかった。
案の定、彼女は湖に落ちて俺が助ける羽目になったのだが……。
別にその時恋に落ちた訳ではない。
ただ、感情表現が豊かでよく喋り、楽しそうに笑うフローレンスを可愛いと思った。
☆
フローレンスの姿絵をしみじみと眺めた。
そんな危なっかしい彼女が、婚約者を選ぶような年齢になったのか……。
「なんだ、ヴィンスはこの令嬢が気に入ったのか?」
彼女が気になる。それは事実で。
俺は否定しなかった。
「ええ、可愛いらしいとは思いますが、年齢のこともありますし……」
「女っ気の無いヴィンスの選んだ令嬢だ。早速オクリース子爵に連絡しよう」
急に張り切りだしたウィズリー侯爵によってトントン拍子に話は進み、俺はオクリース子爵令嬢と婚約することが決まった。
無骨で愛想のない俺に、フローレンスみたいな可愛い婚約者が出来るなんて夢のようだ。
爵位を継いで領地に戻るなんて考えただけでも気が重い。面倒な手続きに忙殺されている俺は、フローレンスとの再会だけを楽しみにしていた。
彼女は俺を覚えているだろうか?
溺れた彼女を助けたことがある……が。
あの時のことは、覚えていない方がいいか……。
☆
俺が業務の引き継ぎに忙しくしていると、仲の良い部下からオクリース嬢に関して話したい事があると言われた。
「ん?なんだ?」
「あの……オクリース嬢が親しくしている男がいて……その男の評判がその……」
言いにくそうにしている部下を促し、キースという男がタチの悪い遊びに手を出していることを聞いた。
「そうか……。一度俺の方で調べてみる」
「はっ」
なんとなくだが、好奇心旺盛で活動的な彼女なら、キースのふしだらな集まりに図らずも参加してしまう恐れがある、そんな予感がした。
案の定、彼女はキースに拉致されかけていて、俺は彼女を救う事が出来た。間一髪だった。
やっぱり相変わらず目が離せないな……。
調べたところキースには、他にも婦女暴行や違法薬物の使用などの疑いがあり、俺はその全ての証拠を王都の警察隊に渡した。
直ぐに捕縛されるだろう。
フローレンスはそれでも奴の事が好きなのだろうか?
面食いか?
きっと彼女は俺との婚約を断り切れなかったのだろう。オクリース子爵はこの縁談に二つ返事をくれたと聞くが、フローレンス自身は気が進まないのかもしれない。
正式に婚約者になった後、彼女を何度かデートに誘った。
意外にも彼女は嫌がる素振りは一切なくて……。
フローレンスは明るくてお喋り。些細なことで驚いたり笑ったり、くるくると表情が変わる。
幼い頃と全く印象が変わらなくて、一緒にいると楽しかった。
☆
結婚を控えたある日、王宮で挨拶回りをしていた際、俺は急遽若い兵士の剣の相手をすることになった。
俺を心配してくれる所までは可愛らしかったが……。
彼女は初めて来た王宮で医務室を探し当て、面識の無い医師から蘇生薬まで借りてきた。蘇生薬は高級品。普通なら、王宮医務官が初めて会った人間に渡すことなんて無いはずなのだが……。
彼女の行動力に驚くとともに、俺は天を仰いだ。
危なっかしいところは全く変わっていない!
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