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に!
しおりを挟む私はずっと家族以外の男性とはほぼ関わりがない生活だったせいか、恋愛や艶事には興味津々。想像だけが膨らんでいった。
そして私は、ある日とうとう令嬢の間で密かに貸し借りされているエッチな内容の大衆小説を手に入れた!
「フロウ、頼まれていた『アレ』よ」
「え?『アレ』!」
「そう、私が一生懸命作ったのよ。是非使ってね」
お茶会帰りに侍女たちの前で堂々と渡されたのはクッション。
エッチな大衆小説は、侍女にも従者にも気付かれないよう、手作りのクッションの中に忍ばせてあった。
夜こっそりと起きてクッションの縫い目を裂き本を取り出すと、ひと目で大人向けと解るような刺激的なタイトル。深夜に一人で読むのは背徳感がある。
ベッドサイドのランプの灯りだけを頼りにこっそりと読んじゃう。
内容はとっても破廉恥で、読んでいるだけで顔が赤くなり、一人でキャーキャー騒いでた。
えー!そんなに気持ちよくなっちゃうの?気絶するほど?
身体が痙攣するってどういうこと?
喘ぎ声って自然に出るものなのかしら?練習した方がいい?
試しに小さく声を出してみる。
「あ、あーーーっ?」「いっくぅ?」
ダメダメ。
思ったより夜は声が響いちゃう。
みんな、どこで練習するのかしら?
小説から得られた情報はまとめるとこう。
○女性は絶頂する時に痙攣を起こして気絶する。
○女性の膣は絶頂の時に締まるから男性も気持ち良いらしい。
○感じやすい女性を男性も好む。
へぇー、そんなに気持ち良いんだ。
早く経験してみたいなぁ……なんて、私淫乱なのかも。
☆
私には好きな人が居る。
相手は、デビューしてすぐに出逢ったキース様。彼は男性とは思えぬ綺麗な顔立ちと柔らかい物腰で、社交界の女性たちの憧れの的だった。
(あんな素敵な人が恋人だったらいいな……)
いつも遠くから眺めるだけ。
キース様は伯爵家の次男で、いつも派手で綺麗な令嬢に囲まれていて、私には手の届かない相手だった。だけど、私の妄想相手はいつもキース様。
そんなある日ーー
夜会でキース様と目が合った。すると、彼はずんずん私の方に近づいてくる。
「可愛いお嬢さん。私とダンスを踊っていただけませんか?」
「え?わ、わたし?」
すぐ目の前に立ったキース様は、爽やかな微笑みを浮かべながら私にダンスを申し込んでくれた。周囲の視線が集中し、緊張で顔が熱くなる。
「は、はい。お願いします?」
こんな私が?
いつもきらびやかな集団の中心にいるキース様に誘われるなんて!
私は身長が低くて童顔で、スレンダーとかマーメイドラインの大人っぽいドレスは似合わないし、胸も控えめ。だから、そんなに目を惹くような美女では無いのだけど……。
「貴女を見つけた時、あまりにも可憐で。他の男性に取られないよう急いでこちらに馳せてきました。こんなに余裕がないと嫌われてしまわないか心配ですが……」
キースさまは自信なさげに睫毛を伏せるけれど、その整った顔はどんな表情でも絵になる。
「いえ、そ、そんなことありません。いつもかっこいいなって思ってましたっ」
勢いよく話す私を見て、キース様は緩やかに口角を上げた。笑っても崩れない顔、女性のような滑らかな肌、涼やかな目元。本当に素敵過ぎてため息が出ちゃう。
スカイブルーの双眸にじっと見つめられ、顔は熱くなるし、胸はドキドキするし……もうっ、もうっ、
スマートに差し出された手。
自分の手を重ねると、彼はふわりと綺麗に笑い、彼に預けたその手の甲に唇を落としてくれた。
その瞬間、キャーキャーと悲鳴を上げる女性たち。
夢見心地のままステップを踏む。私の耳には、令嬢たちの声も、会場のざわめきも、楽団の演奏も、全てが遠くに聞こえた。
それからも、キース様は夜会で会う度にダンスを申し込んでくる。男性に免疫の無い私はその事で有頂天になった。
どうして自分なんか?と思うと同時に、ダンスが始まるとスムーズやリードや耳元で囁かれる低い声に胸がどきどきと高鳴る。
頭の中はキース様でいっぱい。
ああ、なんて幸せなんだろう。
初体験は彼がいいな。
けれど、人生は無情で。
18歳になり、父に婚約相手が決まったことを告げられた。
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