30 / 34
番外編②※R18微
しおりを挟む寝室への扉を開けると、ベッドに座って、握った拳を膝に置いたノヴァが……。
ノヴァは入ってきた私を見ると、少し驚いたように目を見開いた。目元を赤くして、白目のところが血走っているようにも見える。
やっぱりこの格好、恥ずかしい。
その透けた胸を見られて反射的に腕で覆い隠した。
「緊張……するね。それに……恥ずかしいわ」
「うん、俺も緊張するよ。……出来るだけ優しくする……」
ノヴァは立ち上がって、ゆっくりと近づいて来ると私の手を取りベッドへと誘った。
その仕草はぎこちなくて、ちょっと余裕が無さそうで。……不安になりながらも後ろをついていく。
彼はベッドのそばまで来ると、私の方を振り向いて、足先から頭まで視線を動かした。ガウンがあるからそんなに全部は見えていないと思うけど、無言の時間が重くて……身体が強ばり、息が詰まる。
「フェリ、可愛い」
「き、貴族って、こんな下着をつけるらしいの。ちょっと大胆だね。あはは……。」
照れ隠しのように笑うと、ノヴァもつられてクスリと笑った。
ノヴァが笑った事で、その場の緊張した空気が少し和らいだようでホッとする。
恥ずかしくて、ガウンの前身頃を重ねるように胸を隠したら、ノヴァは私の手をとって「隠さないで。見せて」って熱っぽく言うから、彼にされるがまま身を任せた。
「……は、恥ずかしい……。」
「全部……綺麗だ。本当に……フェリが俺のものになってくれるなんて、今でも夢みたいだ」
視線を感じてお腹の奥がきゅんとする。ノヴァがずっと見ているから、その視線を躱そうと身を捩ると、ぐいっと引き寄せられた。
「あっ……」
ノヴァは片手を私の頬に添える。いつも剣を握っているその指は硬い感触で……。熱を孕んだ碧の瞳がゆっくりと近づいてくる。
「待って」
「もう、待たない」
いつの間にかしっかりと抱きすくめられていて、逃げられる気がしない。
ぎゅっと強く眼を瞑ると、唇に柔らかい感触が。
「……んっ……」
結婚式のぶつけるような口づけとは違う。
唇の柔らかさと体温を直接感じて、身体中に幸せが滲みていくみたい。
そんな風に思っていると、不意に唇が離れていく。瞼を上げると、真剣な顔で私を見つめるノヴァと視線が絡んだ。僅かに上げた眉が『どう、大丈夫?』って聞いているみたいな気がして、ねだるようにもう一度目を閉じた。
再び合わさる唇。
伝わる熱は、確かに彼が生きていることを感じる。体温が重なる喜びと、心地よさと、彼への気持ちがないまぜになり、もっと溶け合いたくて、彼の背中に手を回して力を込めた。
「……ぁん……ン……」
緩んだ私の口元を彼の舌がくちゅりと割り開き、舌先をねっとりと絡めてくる。口腔内を舐め回され、舌の裏をなぞられる。
なに?これ?気持ちいい。
与えられる感覚の気持ち良さに浸っていると、チュッと可愛い音と共に唇が離れた。
少し潤んで熱の籠った左目で見つめられる。
唇が触れるか触れないかの至近距離。恥ずかしくて顔が熱い……。
湿った吐息と共に「はぁ、フェリ……大好き」と呟くとノヴァは私をぎゅっと抱きしめた。
真っ直ぐに彼の気持ちが伝わって胸の奥から愛しい気持ちが溢れる。
「……うん……私も……」
彼に横抱きにされ、そうっとベッドに下ろされる。私に覆い被さる彼の眼には、肉食獣のような獰猛な光が見えた。
「ごめん、フェリを壊しそうでこわいんだ」
「大丈夫。壊れないわ。ノヴァになら、痛くされても酷くされてもいい」
私が言い終わらないうちに噛みつくような強さで唇全体を食まれた。彼が私を強く求めてくれているのが伝わる。
長い、長い口づけ。ノヴァは加減を覚えたのか、軽いキスと深いキスを織り交ぜ、じゃれ合うように、私にキスの気持ち良さを教え込んだ。
キスの合間に髪を梳かれたり、耳朶を擽られて、身体の力が抜ける。
「……はぁ、ノヴァ、キスしたことあるの?」
ノヴァのキスが気持ち良くて、思わず聞いてしまった。だって上手いと思う……。
彼はずっと騎士団に所属していた。騎士たちは戦闘後の昂ぶった気持ちを鎮めるため、そういう場所を利用する事もあると聞いていたから……。
束の間の静寂。ノヴァは少し困惑したような表情を浮かべた。
「……全部、はじめてだよ。……でも、ずっと想像してた。どうやってフェリを抱こうか、そんな事ばっかり想像してた。俺……ずっと、こうしたかった」
こんな風に思っていてくれたことが嬉しくて、彼の首に腕を回して耳許に唇を寄せた。
「良かった。……ノヴァが誰かとキスしたら……いやだ……」
「しないよ。フェリだけだ……」
再び、深く口づけられる。
背中に回された手が臀部を撫でスルスルと肌を滑るように移動する。もう私の身体は敏感に成り果てていて、いつもの皮膚感覚と全然違った。ノヴァの手が触れる所がピリピリの痺れるみたい。
「……ァん……だ、だめ」
大きな節くれだった手が、胸を包みやわやわと揉みしだく。何だか擽ったいような疼きが胸の中心部に溜まるような心地がした。
「フェリ、全部見せて。」
彼は身体を起こすとスルスルと私の着ていたガウンも、ベビードールも全てを剥ぎ取り、自らの夜着も脱ぎ捨てた。
「……はぁ……、綺麗だ……。」
熱っぽい視線、艶のある声。彼の鍛え上げられた身体には大きな傷痕が残っている。
「ノヴァ、傷が……。」
「これは大きな傷だったからな。痕が残った。」
この傷を受けた時、ノヴァはどんな気持ちだったのだろう?
大きな傷だ。
きっと死を覚悟したに違いない。
彼への気持ちが溢れ、皮膚がいびつに引き攣れた傷痕に指を這わせると、身体を起こしてその傷痕にそっと口づけた。
「もう聖魔法は使えないから……。」
もう癒すことは出来ないからせめて……。
そんな私をノヴァは愛おしげに見つめる。そして、今までよりずっと強い力で抱きしめられた。息が出来ないほど強く。
遮るものの無いノヴァの肌から、彼の体温が伝わる。確かに今、生きている証。
男らしい匂いと逞しさに包まれて、鼓動が高まり、胸を熱くする。その時、この人と繋がりたい、そう強く思った。
12
お気に入りに追加
745
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる