私が大聖女の力を失った訳

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私への期待

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 金ピカの装飾が施された扉が開き豪奢な衣装を着た男性が二人、大広間に姿を表した。

 輝く黄金の髪に整った顔立ち。均整の取れた身体つき。
 こんな格好良い人たちが王族なんて、神様も随分贔屓したものだな、なんて思う。
 あんなに男前なら、毎日鏡を見るのがさぞかし楽しいに違いない。

 周りの令嬢たちはうっとり。目がハートになっている。

「ちょっと此方の方まで話し声が聞こえてきたよ。君たちに誤解があるようだから伝えておきたい。魔力の無い平民の両親から神聖力がある子供が産まれるのは非常に稀だ。だが、桁違いな神聖力を持つことが多く、歴代の大聖女には何人かの平民がいる。特異的に神聖力を持って産まれた女性は、その能力も高いと歴史的に証明されている。私は今回、そこに居るフェリチュタスに大きな期待をしているんだ」

 ええ?
 王太子殿下が私の名前を知っているっ!!

 周囲の令嬢たちがギロリと私を睨んだ。

「君たちもどうか、フェリチュタスを仲間として共に学んで欲しい。我が国の歴史を振り返っても、大きな転換期には必ず平民の中から聖女が現れて我が国を導いてきた」

 そんな王太子殿下の声は彼女たちには聞こえていないらしい。
 突き刺さるような視線が心を抉る。
 本当に全然歓迎されていないみたい。

 それに私が本当にそんな大きな神聖力があるのかしら?変にハードルを上げると期待外れと思われそうで怖い。
 困っている私のことなんて殿下は気付かないみたいで、どんどん話を進めた。

「今から君たちに聖女候補の証となるペンダントを渡す。訓練のために必要な施設へは、そのペンダントを翳して認証すれば入ることが出来る。くれぐれも紛失しないように」

 渡されたペンダントは黄金の台座に白い石が嵌め込まれていた。きっと特別な魔法が付与されているのだろう。

 殿下たちが、これから聖女の塔での修行が始まることと、国民のために奉仕の心を持って修行に励んで欲しいというお言葉を述べて退室した後、早速私への言いがかりが始まった。

「ファーガス王太子殿下はああ仰ったけれど、こんな子に本当に神聖力があるの?今年の魔力検査に手違いは無いでしょうね?」

「はい、ムスカン公女。そのような事はございません」
 
 さっきのキラキラ王子様はファーガス王太子殿下とビクター第2王子殿下。そして一際豪華な衣装を纏った令嬢はムスカン公爵令嬢らしい。私も名前は聞いたことがある。ムスカン公爵家といえば、モエニウム王国で一二を争う名門貴族。
 そんな名門貴族のご令嬢ならば、この尊大な態度も頷けた。
 
「わたくし、マナーも知らない方と一緒に食事をするなんて耐えられませんわ」

 ムスカン公爵令嬢の周りには取り巻きらしき令嬢たちがいて、彼女たちはムスカン公爵令嬢の言葉に直ぐに同意した。

「わたくしも」
「わたくしも嫌ですわ」

 取り巻きの令嬢たちは、不躾な視線で私をジロジロと見回すと、眉間に皺を寄せた。
 そうした仕草をすることで、ムスカン公爵令嬢に追随する姿勢を示しているのだろう。

「フェリチュタスさんでしたわね。貴女、食事は私達の後にしなさい」
「後……ですか?」
「ええそうよ。私達皆がダイニングから退室した後に食事をするといいわ」

 別に、一緒に食事をする人に不快な思いをさせるほど汚い食べ方をする訳でも無いのに……。
 けれど、私には頷くほかに選択肢はなかった。
 実際、一緒に食事をするのは針の筵のようで辛いのかもしれない。

「はい。そうします」

 マナー教育を受けていないという理由で私は皆の後で一人で食事をすることになった。

 そうして全く歓迎されず私の聖女候補としての生活が始まった。
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