私が大聖女の力を失った訳

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行方不明

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 敵国の兵士団総督が国境近くまで来ているとの情報が入った。
 国王の右腕として好戦的な性格で知られる人物。

 そして、我が国は一気に敵国の中心人物を討つための奇襲作戦を決行したらしい。

 そしてその後方部隊。殿しんがりとなったのはノヴァ。
 彼は敵将を討ち、味方を逃がして最後まで残り……そして、捕まった。

 もう命はないかもしれない……。

 私たちは奇襲作戦があるなんて知らなかった。だから朝、いつも通りの時間に起きたら、既に部隊は出陣した後で……。

 昨日のノヴァはどんな顔してた?
 何を話した?
 必死に記憶を辿る……。
 いつもよりたくさん目が合ったっけ。私はそれが嬉しくて……。

 ああ、最後は笑顔で別れた。「また明日」って……。私はきっと笑ってた。ノヴァは少し淋しそうだった。
 
 これが最期だなんて思いたく無い。






 そして突然戦争は終結に向かうことになった。

 兵士団総督という最強の味方を喪ったインサニア国王に、弟が剣を向けた。所謂クーデター。
 一夜のうちに王宮を制圧した新しいインサニア国王は、我が国に停戦を持ち掛けてきた。

 国民の犠牲を無視したインサニア国王の領土拡張計画は、フギオー総督に唆されたもの。
 決してインサニア王国に戦争を起こすだけの余裕は無かった。だからこそ、新しい国王は戦争を終わらせることを即断した。

 戦争が終わるーー

 ノヴァが、捕虜として捕まったという情報は、シレークスの街に衝撃をもたらした。

 王都にいた時のように、ノヴァを呪われているとか、気味悪いなんて言う人は、此処にはいない。騎士も兵士も皆が彼に守られていた。

 全ての人が彼を心配していた。
 この戦争を終結に導いた最大の功労者を。その帰りを待っていた。

 捜索部隊が国境まで彼を探しに行ったが、ノヴァは見つからなかった。

「フェリ、これが落ちていたそうよ。きっとノヴァの持ち物じゃないかって。」

 アリアナ様に渡された血のついたハンカチには私の差した刺繍が……。
 
 ずっと持っててくれたんだ……っ。

「……ノヴァ……。いやだ……いやだ……いやだ……。ノヴァ……ノヴァ……。」 

 ノヴァと一緒に王都に帰りたかった。

 彼の怪我は全部私が治してあげたかった。

 美味しい食事を作ってあげたかった。

 くだらない話で笑い合ってみたかった。

 もっともっと一緒にいたかった。

「フェリ……。」

 ハンカチを握りしめて泣きじゃくる私をアリアナ様は痛ましそうに見つめていた。

 悲しみの中にあっても、無事に戻ってきた騎士たちへの治療は休むわけにはいかない。
 彼が命をかけて守ってきた人々。
 
「フェリ、大丈夫?休んでて」
「いえ。出来ます」

 目を腫らしたままで、治療を続けた。
 みんなが私を心配してくれる。

 けれど、
 涙が止まらなくても、
 ご飯が喉を通らなくても、 
 眠れなくても、
 私は彼の守ろうとした人たちを守りたい。

「フェリ、何日も眠ってないでしょう。酷い顔よ。こっちは任せて」
「お願いです。治療を続けさせてください」

 心がバラバラになりそうだった。
 聖女としての役割を果たす、それだけが私に出来る事。

 彼が戻って来ないまま、私たちには帰還命令が出た。
 王都から和平条約の締結と賠償金の交渉のために王太子殿下が来るらしい。

 ノヴァの安否は不明のまま。遺体も見つかってはいない。

 私たちは王太子殿下一行と入れ替わるように王都へと帰還した。




    
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