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友人
しおりを挟むノヴァの会話するようになってから、嫌だった修行も頑張れるようになった。
彼とお喋りするのはいつも早朝の洗衣所。
何気ない挨拶だけの日もあるし、悩みを相談する日もある。
けれど懸命に頑張る彼の姿は、私に勇気を与えてくれた。
私は、大好きな両親が住むこの国を守るために、そして、早く聖魔法を覚えてノヴァの傷を治療することを目標に頑張った。
そうして忙しく日々を過ごすうちに、何人かお喋り出来る友人も出来た。
一番最初に私に話しかけて来てくれたのはエレーナ。聖女の塔での友人第一号。
「フェリって呼んでいい?私の事もエレーナって呼んでね」
彼女は貴族令嬢とは思えないぐらい人懐っこい少女。他の聖女候補が私を遠巻きにしているのにも関わらず、彼女だけは話し掛けてきてくれた。
「フェリの神聖力ってどれくらいあるの?」
「さあ?詳しくは知らないの」
「殿下が期待してるって仰ってたし、きっと多いのでしょうね」
「全く制御出来ないから意味がないわ」
感覚だけに頼る魔力制御は難しくて、私は連日課題をクリア出来ずに残って練習していた。
「やっぱり、平民だし、神聖力が多くても何も出来ないんじゃないの」
「そうね、あまりお荷物になるようなら、聖女修行も辞退していただきたいわ」
そんな影口が聞こえてきたけど、私は絶対に辞退だけはしないでおこうと思っていた。
ノヴァだって、頑張っているもの。私だって……。
私に冷ややかな視線が向けられる中、エレーナは私のそばに来て、にっこりと微笑んだ。
「今度のお休みの日、フェリのお部屋に遊びに行ってもいい?」
「いいけど、何もないわよ?」
「いいの、たくさんお喋りしましょう!」
エレーナは他の貴族令嬢とは違って積極的に私と仲良くなろうとしてくれた。やっぱりお喋り出来る友達がいるのは嬉しくて……、私はほとんどいつもエレーナと行動を共にするようになった。
☆
そして一年半が過ぎた頃、私はようやく魔力制御を覚え修行にもついていけるようになっていた。
「フェリチュタスっ!!どーして平民の貴女の神聖力が高いのよっ!あなた、何か細工してるんじゃないの?」
今日、一年ぶりに神聖力の測定があり、私の神聖力が大幅に増えていることが確認された。
それを知ったムスカン公爵令嬢のキャロライン様に呼び出され、私は強い口調で詰問されていた。
「いいえ、私は何も……。」
「お黙りなさいっ!!平民のくせに逆らうつもりっっ!」
キャロライン様が私へと熱い紅茶の入ったカップを投げつけた。
「いたっ!」
床に落ちたカップの破片が私の足へと突き刺さり、私は痛みで蹲った。
「何よ!そんな所に立ってる貴女が悪いんでしょ?」
「は、はい。申し訳ありません。」
理不尽な仕打ちが悔しくて……。唇を噛み締めて頭を下げた。彼女はムスカン公爵家の令嬢だ。聖女候補の中で、一番身分が高いし逆らうなん許されないだろう。
『いつもの癇癪だわ。』
誰かがこっそり囁くのが聞こえる。けれどその場にいる人は誰も助けてはくれなかった。周りにいる聖女候補もキャロライン様が怖くて、目を反らせていた。
包帯を貰いに医務室に向かって歩いていると、気の弱そうな五人の聖女候補たちが話し掛けてきた。
「あ、あの……。ごめんなさい。助けてあげられなくて……。怪我をさせるなんてあんまりよね。私たち、ムスカン公爵令嬢に逆らえなくて……本当にごめんなさい」
五人とも俯いて、泣きそうな顔をしている。本当に悪かったと思っているみたい。
「いえ。貴族社会ではキャロライン様は影響力があるんですよね?」
「そうなの。逆らって家に影響があると怖くて……。表立っては誰も庇えないの。次に選ばれる聖女が殿下の婚約者になるって噂があるから、キャロライン様は焦ってらっしゃると思うわ」
話してくれたのはシエラ様。伯爵令嬢だそうだ。この国の王太子殿下は既婚者だが、第2王子のビクター殿下がそろそろ婚約者を決める年齢になっていた。そして年頃の近い聖女から婚約者が選ばれるという噂があるらしい。
今いる候補のうち、聖女として残るのはせいぜい一人か二人。
だから、他の聖女候補はギスギスしているのかと納得した。そして、私は神聖力が高くて、嫉妬の対象になりやすいのだという。
平民である私が、殿下の婚約者になるはず無いのに馬鹿らしくなった。私は殿下の婚約者になりたくて頑張っているんじゃないのに……。
「殿下の婚約者が早く決まればすっきりするんですね。きっと身分も高いし、神聖力も高いキャロライン様が婚約者だわ」
私が王族の婚約者になんてなるわけない。
第一、ビクター殿下だなんて、お話したこともないもの。
「それが……。ビクター殿下は貴女の事を気にされているって噂があるの。だから、キャロライン様も不安なのだと思うわ。」
はあ?なんでそんな噂が……?
それから私は、着替えの服を破られていたり、自分の持ち物が失くなることが頻繁にあった。誰かの嫌がらせだと思うけど、誰が犯人かなんて分からなかった。
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