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ビビアン様の反撃

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 あー、いい天気ね。
 雲がゆっくりと流れていくわー
 


「フラヴィア様、聞いてます?」
「……え?ああ、もちろん聞いてるわよ」
「酷いですよね、それでアンドレア様ったらその女性に貰ったブレスレットを着けて私と一緒に夜会に参加してたんですよ」

 私は今、ビビアン様の愚痴を聞いていた。
 公爵夫人教育はお休みだし、今日はゆっくりとしようと思っていたのに……。
 ビビアン様の突撃からお話を聞き始めて1時間が経っていた。
 
 アンドレア様が他の令嬢と続けてダンスを踊ったとか、女性からのプレゼントを受け取って自分も贈り返したとか……。アンドレア様は誰と婚約してても、その八方美人ぶりは変わらないのだろう。

「でも、婚約解消は出来ないんでしょ?我慢するしか無いわよ」

 アンドレア様は決定的な浮気はしていないらしい。ただ、女性みんなに優しいだけだから、婚約破棄する事由にはならないと思う。

「そんなぁ~」

「ビビアン様はアンドレア様に自分のお気持ちを伝えたのですか?」

「何回もいいましたぁー、でも、、勇気を出して俺に声を掛けてくれた女性を無下には出来ないって言うんですよ!!」
 
「うーん」

 何故……。
 私がこんな相談に乗らなきゃいけないのかしら?

 そう思う反面、ビビアン様は狩猟会で私の代わりに襲われそうになった事もあって、そんなに冷たくあしらう事も出来なかった。

 ゆっくり休みたい……。どうやったらビビアン様に帰ってもらえるのかしら……。  
 
 そんな事を考えていたら、突然背後から抱きしめられた。ふわりと優しい感触に、振り向かなくてもそれが誰だか分かってしまう。

「……シリル?どうしたの?」
「今日は仕事が早く終わったから、ヴィアに一目でも会いたくて来たんだ」

 自分の気持ちを自覚してから、彼と目が合うのも恥ずかしい。今振り向いたら絶対に顔が近いって分かるから振り向かないまま、言葉を繋いだ。
 
「ごめんね。今、ビビアン様の相談に乗っていたの」

「フラヴィア様、いいなー。シリル様ってフラヴィア様だけに優しいですものね。女の子の理想ですよ」

 可愛らしい唇を小さく尖らせて、ビビアン様は頬づえを付いた。彼女は今アンドレア様の八方美人に悩んでいるから尚更そう思うのだろう。

「あーあ、アンドレア様も他の令嬢ひとにあんまり優しくしないで欲しいなー」

 はぁーっ深く溜息を吐くビビアン様にシリルは容赦しなかった。

「ビビアン嬢、早く帰ってください。僕とヴィアの時間を邪魔しないでいただきたい」

 シリルってばハッキリ言い過ぎ。『帰って』とか『邪魔』とか、普通はなかなか使わない言葉だ。

「シリル、ビビアン様も悩んでいるのよ?」

 私も早く帰って欲しいけど、お客様だから一応ビビアン様を庇った。
 帰ってもらうには、何か良いアドバイスが出来るといいけど……。

「あっ!そうだ!ビビアン様も他の男性と仲が良いふりをして、ヤキモチ妬かせちゃえば?」
 
 そうよ!
 アンドレア様にも婚約者に蔑ろにされる苦痛を味わってもらえばいいのよ!

 するとーー

「では、僕の友人たちにしばらくビビアン嬢をちやほやしてもらいましょうか?」

 シリルがこんな幼稚な作戦に付き合ってくれるなんて意外だった。

「シリル、いいの?そんな事お願い出来るのかしら?お友達にもご迷惑なんじゃ?」

「いいんだ。ビビアン嬢にはアンドレアを掴まえておいてもらわないといけないからね」

 この作戦が気に入ったのか、ビビアン様は急に元気を取り戻した。

「シリル様、私のためにありがとうございます」

 ビビアン様がお礼を言うと、シリルは私に向けるのとはまるで違う冷たい視線をビビアン様に向けた。

「別に貴女のためじゃありません」
「え?」

 まるでブリザードのような冷たさ。凍えてしまいそうだ。

「アンドレアを貴女がしっかりと掴まえておいてくださらないと、彼がヴィアの魅力に気が付いて再び婚約だなんて言い出したら大変ですから……」

 何言ってるの?
 
「シリル?そんな事、あるはずないわ」  
「ヴィア、君は殿下ですら一目で虜にしたじゃないか……あの男が間抜けで君の価値に気づかなかっただけだよ」

 いやいや、殿下は虜になんてなってないからね?シリルの私への評価が高すぎて重い。

「さあ、協力を約束するからビビアン嬢にはとっとと帰っていただきたいですね」

「そんな言い方……」

「僕に言わせれば、横恋慕してヴィアの婚約者を奪った貴女が相談に来ることも非常識ですね」

「だ、だって……アンドレア様が……」

「まあ、僕としては貴女がアンドレアを誘惑してくれたお蔭で、ヴィアの婚約者になれたのですから良しとしましょう。僕の友人に貴女をチヤホヤするように頼んでおきますよ。ただし、本気にはならないでくださいね。貴女には、アンドレアをしっかりと掴まえておくという命題があることを忘れないでください」

 シリルは畳み掛けるように早口でそう言うと、手際よくビビアン様を追い出してしまった。







「はあ、やっと二人きりだ」

 想いを伝え合ってからの彼は更に容赦が無い。
 その麗しいお顔は凶器だと思う。整い過ぎて冷たく見えるのに、目が釘付けになってしまう。だけどそんな芸術とさえ思える美麗な顔が、私にだけは柔らかく崩れる。その瞬間を見るのが大好きだ。

「今日はどうしたの?」

「今度の夜会ではお揃いの服を仕立てませんか?」

「いいの?嬉しい!楽しみだわ!」
 
 アンドレア様とは長く婚約していたけれど、そんな仲良しアピールみたいな事した事なんて無かった。政略結婚だからと割り切ってはいたけれど、心のどこかでお揃いの服やアクセサリーには幼稚な憧れがあった。

 シリルは私に似合いそうなデザインのドレスを何枚か選んでくれた。
 本当に仲良しの恋人同士みたい。

 私は珍しくウキウキした気分で夜会の日を待った。

 
 
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