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9.二人の決断
しおりを挟む「もう、朝か……。」
瞼に眩しさを感じて目を覚ますと、窓から白みがかった青空が見えた。
いつもは外が明るくなるのと同時に目を覚ますアウラだが、今日は全く起きる気配を見せない。
仕方がないと思う。無理をさせたのは自分なのだから……。
彼女の髪に指を差し込んで、その滑らかな感触を楽しむ。柔らかな髪はするすると俺の指を溢れ落ちていった。
アウラは健やかな寝息を立てていて気持ちが良さそうだ。彼女の無垢な寝顔を見ているだけで幸せになる。俺の全てをかけて、彼女を守りたいと……そんな気持ちが自然と湧き上がってくる。
「ユースティア様……?」
「ああ、アウラ。おはよう。身体が辛いだろう?ゆっくり眠っていてくれ。」
「……はい。」
寝起きでぼんやりしているアウラの髪をかき上げ額に口づけを落とすと、安心したように再び目を閉じた。
昨夜の情事を思い出す。
アウラにとっては初めての行為。俺の身体に必死にしがみつく彼女が愛しくて愛しくて……。
彼女は俺の名前を何回も呼んでいた。
痛かっただろうに、その声が、切ないその響きが耳に残っている。
こんな気持ちになったことは初めてだ。俺は今までそこそこモテてきたし、女に不自由したことなんて無い。恋愛だって初めてじゃない。初恋の甘酸っぱい気持ちだって知っている。だが、この飢餓感は今までに感じた事が無いものだ。
強く抱き締めても、足りなくて……。アウラの小さな身体を俺の中に閉じ込めておきたいと思ってしまう。
飢えにも似たその焦燥感は抑え難い感情だった。自分の独占欲の強さを改めて感じてしまう。
軽くつまめるような朝食を用意していると、物音に気が付いてアウラが目を覚ました。
「お、おはようございます~~。」
ぎこちない足取りでベッドを降りてきたアウラが危なっかしくて、急いでそばに行って抱き上げた。
「今日は1日ベッドでゆっくりしていてくれ。」
抱きかかえたまま、アウラに顔を近づけてそう言うと彼女はみるみる顔を赤く染めた。
「あわわ、あわ……はい……。」
「ん?」
「は、は、恥ずかしくて……ユ、ユースティア様のお顔が見れませぬぅ~~。」
「あ、ああ。」
昨夜の情事を思い出したのだろう。彼女があまりにも恥ずかしがるから、こちらも自然と照れてしまう。
彼女に気の効いたことも言えずお互いに目を反らし、ほとんど無言で彼女をベッドに戻した。
彼女が不安にならないように、そのピンク色の頬に唇を寄せる。ぴんっと張って艶のある頬が、可愛くて美味しそうでかぶりつきたくなる。
アウラはぎゅっと力いっぱい目を閉じていて、震える睫毛を近くで見つめた。
もう、愛らし過ぎる……。
「昨夜は可愛かったよ。愛してる。」
そっと耳元で囁いた。
……緊張で声が掠れた自分に驚く。
なんだこれ?
恥ずかしい。童貞でもないクセにどう振る舞っていいか分からないのか?
可愛いアウラの顔を見たいのに見れなくて……。
俺はくるりと踵を返してキッチンへと向かった。
しっかりしろ!
初めての二人の朝なんだ!
俺は用意したフルーツとパンをトレイに乗せてベッドまで運んだ。
「アウラ?フルーツなら食べれるか?」
布団にもぐり込んで顔を隠している彼女に声を掛けるが反応がない。
「……。アウラ?」
そっと布団を捲ると、想像以上に全身真っ赤に染まったアウラが……。
「あ、合わせる顔がーー。きのう……私……あんな恥ずかしこと……。」
可愛すぎて辛い。ちくしょう。
今日はまだ痛いはずだ。我慢しなきゃいけない日なのに……。
可愛くて……ただひたすら愛しくて……。
彼女の身体を労ることも、忘れてその小さな身体に覆い被さった。
顔を隠している手を取り、その手のひらに口づける。
「あ、あああ……。見ないでくださいませ~~。」
「ダメ。見せて。アウラが可愛い過ぎるのが悪い。」
アウラのこんなに可愛らしい姿を見られないなんてもったいない。照れてる場合じゃないんだ。
自制の糸が切れたように俺はアウラの唇を奪った。
(キスだけだ、キスだけだ。)と、我慢するよう心の中で唱えながら……。
結局、俺はアウラの「いいですよ。」の言葉に甘えて再び彼女の身体を貪った。
☆
それから、俺達は深淵の森で穏やかに暮らしていた。
家の中に漂う甘い雰囲気はすっかり新婚家庭。アウラは俺にベッタリと甘えてきて、俺は幸せだった。
そんなある日、ナーヴァとケヴィンと一緒に、西の森に魔物討伐に出掛けていたはずのリリアが家に訪ねてきた。
「おー、リリア!討伐から戻ったのか?」
「ええ。それよりも貴方たちに朗報よ!アウラちゃんが飲んだウイータエ・アエテルナエの効果を消すかもしれない秘薬があることが分かったの!」
「え?それは本当か?」
「ええ、西の森に住むエバの一族が知っていたの。魔王城近くの森にしか生息していないレスティンギトゥルの葉が必要らしいわ。」
魔王城近くの森って……あの?
魔王討伐の旅で訪れたことがある。魔物が強くて危険な場所だ。俺も再び無事で戻れる自信は無い。
「リリア、ありがとう。レスティンギトゥルの葉だな。覚えておくよ。」
「カカ様とババ様が探せなかった方法が見つかるなんて凄いです~~。リリア様、ありがとうございます~~。」
「ええ。私はまたギルドへの報告が残ってるから行くわね。」
リリアは忙しいのか直ぐに帰っていった。多忙の中、これだけの用事のために来てくれたことが有難い。
実は他にも、アウラのために色んな方法を街の人たちが教えてくれた。その中には俺とアウラの命を繋ぐような呪術もあった。
無垢で素直なアウラはすっかり街の人の人気者だ。彼女の不老不死に同情する人も多い。
けれど、アウラの作る丸薬を必要とする人たちもいて今アウラは迷っているようだった。
「急ぐことは無いから。ゆっくり自分で考えるといい。ウイータエ・アエテルナエの効果が消え去る方法は手に入れておくから。」
「ユースティア様が一人で魔王城近くの森に行くんですか?」
今、アウラのお腹には俺達の赤ちゃんが育っている。妊娠中のアウラを置いてどこかに出掛けるつもりは無かった。
「今は行かないから。安心してくれ。」
膨らんだお腹にそっと手を当てる。この中で我が子が成長していると思うと感慨深い。
アウラに対して抱くのとは別の愛情がじわじわと湧き上がるようだ。アウラはこの子の母となる。
今後彼女がウイータエ・アエテルナエの効果をどうしたいのか、それはアウラ自身の決断に任せようと思っていた。
俺は今この手にある幸せを壊さないように彼女を守れる準備をしようと心の中で誓う。
「あっ、赤ちゃんがお腹を蹴りました!」
アウラが嬉しそうに微笑む。彼女は妊娠してから少し頬がふっくらして、ますます美しくなった。
「ずっと座ってると足が冷えるぞ。少し横になるといい。俺は街まで木材を買いに行ってくる。」
俺は今、産まれてくる我が子の部屋を作っていた。あの寂れていた魔女の家は、今ではすっかり小綺麗になり、部屋も増えた。
幸せが一つずつ増えていくことを感じながら、今日もアウラは俺に向かって微笑みかける。
そんな毎日がこれからも続いていくのだろう。
深淵の森の孤独な黒き魔女はもういない。
ーーー(完)ーーー
※更新遅れて申し訳ありませんでした。
※不老不死の設定の魔女ですが、どれが最善の結末なのか迷った挙げ句このような形となりました。
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(35件)
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本日も、こちらの世界を、楽しませていただきました。
体調。一度経験してしまうと、どうしても不安になりますよね……。
医療のプロではありますが、なにかのお手伝いは、できるかもしれませんので。何かありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね。
柚木ゆず様~💖
ご心配くださりありがとうございます🎵
今ポチポチ書いてまーす😆
今、こんな婚約破棄小説読んだんですが、知ってます?
まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!
部外者無双が面白かったんです( *ˊᗜˋ)ノꕤ*.゚
penpen様~💖
すっきり面白かったです😆
完結、お疲れ様でした😊🌼
アウラちゃんの話し方が
可愛かったです💝
これからも幸せに暮していくんだろうなぁ
という温かい終わり方でほっこりしました✨🌷
青空様~💖
感想ありがとうございます🎵
体調は大丈夫ですが、またあんなにグルグルすると怖いので、暫くはボチボチ書いて行きたいと思います(>.<)