【R18】伯爵に買われた奴隷でしたが、暗殺者に助けられました

9.

 オプス王国に来て何年もの歳月が流れた。
 私たちの間には息子と娘が一人ずつ。

 長い間避妊薬を飲まされてきた私は、子供を授かることが出来るか不安だったけれど、結婚して二年目にあっさりと妊娠した。

 息子の産声を聞いた時、その無垢な声に涙が止まらなかった。

 私の小さな赤ちゃんは、真っ赤になって自分の存在をアピールするように喉を震わせ泣いていた。それは一人では生きていくことが出来ない未熟な存在が貪欲に生き抜こうとする力強い姿。
 そんな我が子を見て、フィンも涙を流していた。

 私もフィンもかつては手放そうとした生への執着。

 祖国は長い動乱の末に、ダプネ神教国に平定された。敬虔な宗教国家として知られるダプネ王国では『子殺し』が最も重い罪とされていて、過去まで遡り子供を奴隷として売った親たちも『子殺し』に次ぐ重罪を犯した罪人として厳しく裁かれたそうだ。

 信仰心の薄い国に住む民たちにとっては、盲信とも思えるような強い信仰心は、宗教上の罪を犯した者たちを迫害することでも知られている。
 私やフィンを売った親たちがどうなったのかは知らないし、知りたいとも思わない。
 長く続いた内戦で既に命を落としている可能性も高かった。
 冷たいのかもしれないが、私は彼らがどうなろうと興味は無かった。ただ、祖国の現状からいって、両親が今も平和に暮らしていることは考えられないそうだ。

 







 目の前には愛しい子供と夫が幸せそうにお喋りしていた。

 長男のニールはお父さんと一緒に収穫のお手伝い。
 妹のミアはフィン特製の移動ベッドで眠っている。これはフィンが荷物を運ぶ台車を改造して屋根を取り付け、中にたっぷりと柔らかい毛布を敷き詰めたもの。

 まだ４歳のミアは遊び疲れるといつもそこでお昼寝している。今もご自慢のお人形をその細い腕に抱きしめスヤスヤと夢の中。

「そろそろ休憩にしましょう！」

「ああ」
「はーい！」

 畑から少し離れた木陰に敷物を広げて休憩スペースを用意すると、フィンとニールが汗を拭いながら歩いてきた。
 収穫したばかりの野菜やフルーツの皮を剥いて渡すと、二人とも勢いよくかぶりついて美味しいねって笑い合う。
 瑞々しい野菜は作業の合間の水分補給にぴったり。

「今度みんなでピクニック行かないか？」
「え？やったーーっ！！ピクニックだ！！」

 フィンの提案にニールは大喜び。その騒がしい声にミアも目を覚ました。

「ミア、お父さんがピクニックに連れてってくれるんだって！やった！ミアも嬉しいだろ？」

「ピ……ニッ……？あ……やったー！おにーちゃーうれしーねー」

 ミアは目を覚ましたばかりでボーッとしてる。だけど、お兄ちゃんが喜んでいるからつられて両手を挙げて喜んだ。

 お兄ちゃんが大好きなミアは、起きている間はずっとニールの真似っこで忙しい。

 そんな兄妹を見て、私とフィンも目を見合わせて笑う。
 もう私たちは奴隷じゃない。自分たちの意思と力でしっかりとこの世界を生きている。

 どこにでもいる、ありふれた普通の家族だった。


ーー(完)ーー