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しおりを挟むフィンが出て行った後、ずっと家の中で息を潜めて過ごしていた。外からの情報は無いし、何が起きているのかも分からない。
ただ、不安だった。
「……フィン、無事でいて」
もうすぐ彼と約束した時間になる。日が傾き部屋の中に西日が差し込んできた。窓の外を眺めても、まだ人影は見えない。
かなり危険な仕事なんだと思う。出ていくフィンの後ろ姿がいつもと違ってた。
居ても立ってもいられず、部屋を歩き回る。
胸に何かどろりとした物が渦巻いていて、ひどく気分が悪い。
ザッザッーー
外から足音がした。
「フィン?」
不安に押し潰されそうだった私は、我慢出来ずにフィンを出迎えるため扉を開いた。すると、向こうの方からあのドリーって女の人が歩いて来るのが見えた。
「ひ……っ!」
危険だ。本能的に分かった。
目が合った瞬間扉を締めて鍵を掛け、部屋の奥に逃げ込んだ。
ヤバい、見つかった……。
ドンドンと扉を叩く音。そして男性のダミ声が聞こえた。
「嬢ちゃん、開けてくれや!開けねーとドア、蹴破っちまうぜ」
「中に居るんでしょ?見えたわよ、早く開けなさいよ」
「おいっ!こら!開けろっ!」
男を連れてきたみたい。何の目的で?
目的は分からないけど、ピンチだってことは分かる。
私が返事をしないでいると、男たちがドアを蹴破り中に入って来た。
バンッーー!!
ここには隠れる場所なんて無い。男は逃げようと窓枠に足を掛けた私を背後から羽交い締めにした。
体格の良い男にそうされれば私に為す術は無い。
男たちは全部で三人。最後にドリーがニヤリとした笑みを浮かべ部屋に入ってくると、私の目の前に立って手を大きく振り上げた。
そしてーー
バチーーーン
羽交い締めされ動けない私の頬を思い切りはたいた。衝撃で頭がくらりとする。
「な……?」
「あんた邪魔なのよ。フィンはね、この世界では有名な暗殺者なの。報酬だって桁違いだわ。私、どうしてもフィンと組みたいの……だから……ね、あんたは」
ドリーは私に顔を近づけ「消えてよ」と言うと、唾を吐き掛けた。
「わ、私は……何も……」
私はドリーと組むことを反対したことなんて無い。
「そうね。あんたからフィンに近づいた訳じゃ無いのは知ってるわ。フィンが勝手にあんたを匿っているだけよね。だから、自分から姿を消したくなるようにしてあげる」
「……」
恐怖で言葉が出ない。
どうしてこんな目に……
「今からあんたはこの男たちに輪姦されるの。その綺麗な顔もぐちゃぐちゃにされるといいわ」
「……いや……」
「大丈夫、薬も使ってあげる。こいつらのモノはデカイからきっと気が狂うほど気持ち良くなれるわよ。もう戻れなくなるかもね」
男は私を軽々と持ち上げ、ベッドにどさりと投げ落とした。
「どうせ、どこかの貴族の奴隷だったんだろ?ヒッヒッヒ……この女、顔もえれー綺麗だしな、きっと夜伽の相手もさせられただろうぜ。お貴族様の房中術を楽しもうぜ」
男は私にのし掛かると顔を近づけてくる。生温かい息が顔にかかる。
「……い、いや……」
必死に顔を反らせるけど、手足は別の男たちに押さえられて抵抗出来ない……。
「……たすけて……フィン……」
すると、会いたかった人の声が聞こえた。
「ドリーっ!!何してるっ!」
「え?あ、あ、あ、……フ、フィン……
ごめんね。冗談よ。」
「冗談?これが?」
「いつも冷徹なフィンがどうしたの?女一人のためにそこまで怒るなんて、らしくないわ」
フィンの声。『大きな仕事』を終えて帰って来れたんだ。
さすがにまずいと思ったのか、ドリーは何か言い訳をしながらフィンを宥めようとしているみたい。
「フ……フィ……ン……うそ」
バタリと人が倒れる音。
フィンがドリーを倒したの?押さえつけられている私には部屋の様子は見えない。
「ヤロウっ!!」
そしてーー
私を組み伏していた男が目を見開くと同時に、私の視界は真っ暗になった。
「僕だよ。セレサは見ない方が良いからそのままでいて」
私の頭から大きな布が被されていた。
そして怒声と激しい物音ーー
きっとフィンは男たち相手に戦っている。一対三だ。いくらフィンが強いっていっても、この男たちも巨漢で強そう。
嫌な汗が出る。聞こえるのは背筋の凍るような嫌な音。人間の肉が切り裂かれる音だと本能的に分かった。
そして、部屋全体が揺れるような騒音は静まり、誰かが近づいてきて布の上から私を抱きしめた。
その腕はよく知る感触。
「フィン?」
「遅くなってごめん。間に合って良かった」
フィンは急いでいるみたいだった。
「急ごう。僕は返り血を浴びたからちょっと着替えるね。セレサはそのままで居て。部屋の中は見ない方がいい」
「急ぐって?」
「革命が起きた。国境は封鎖されると思う。その前に国境を越えたいんだ」
「え?か、革命?」
フィンの仕事と関係あるんだろうか?彼は以前『この国は変わる』って言ってた。
色んな事を考えたけど、急いでいるフィンに私は何も聞かなかった。一緒に居ればいつか聞けるもの。今は生きてこの国を出るんだ。
そして私たちは商人の振りをして国外へと逃げた。
フィンは本当に用意周到で、偽の身分証も焼き印を隠すための落ちないクリームも全て用意していた。
「街道を避けるルートもあるけど、それだと山越えになっちゃうから」
きっとお屋敷生活で体力の無い私のためだと思う。旅の間もフィンはいつも私を気遣ってくれた。
途中、治安の良くない国を通ったり、破落戸に絡まれたりしたけど、フィンと一緒だから不安なんて無かった。
そして、私たちは遠く離れた奴隷制度の無い国、オプス王国に着いた。
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