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4.フィン視点
しおりを挟む※過去話ですが、児童虐待の表現があります。
人身売買の島として有名なセルウス島に連行される船で、僕はセレサに出逢った。透き通るような白い肌。痩せてこけた頬に大きな空色の瞳が印象的な、少し年上の少女。
船の中で、セレサだけが優しかった。
僕は母の再婚相手の男に売られた。飴を買ってあげると連れて来られて、僕は訳の分からないまま船に乗せられた。
船の底にある部屋のドアを開けると、10人以上の子供が居て、一斉に僕を見た。僕と同じ奴隷として売られた子供たちなのだろう。その目は虚ろで、子供らしい活気なんて無い。
皆恐怖で震えながら息を潜めてじっとしていた。
僕は一番最後に連れて来られたらしく、子供たち中でも一番身体が小さくて幼かった。僕を縛っていたロープをほどき、男は「反抗するんじゃねーぞ」と言い残して部屋を出て行った。
ドアの鍵がガチャリと掛けられると、不安と恐怖が押し寄せてきた。幼かった僕は泣きじゃくることしか出来なくて……。
ママを思い出して泣いていた。
今なら僕は愛されていなかったんだと分かる。けれど、当時幼かった僕はママが恋しくて仕方なかった。
もっと僕が小さい頃のママは優しかった。最近は家を空けることが多かったけど、時々優しい日もあった。
『私の可愛いフィン』
ママの優しい声を思い出す。
船に乗って初めての夕食の時、僕は手に力が入らなくて……皿を落として割ってしまった。長く縛られていたせいかもしれない。
「誰だっ!?」
皿の割れる音を聞いて見張りの男たちが部屋に入ってきた。部屋の空気がピリッと張りつめる。
男は皆の前に並んでいる皿を見て、セレサの皿が無いのに気が付いた。
「おめーか?」
「は、はい。手が滑ってしまって……も、申し訳ありません。」
「駄目だ。そんな事をすればどうなるか見せしめにならねーとな。」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
セレサは男たちに引き摺られ、隣の部屋に連れていかれた。
そしてーー
パァーン、パァーン、パァーン
鞭で肌を打たれる音とセレサのくぐもった悲鳴が聞こえた。きっと大きな声を出せないように、布か何かを口に押し込まれていたのだろう。
戻ってきたセレサはぐったりとしていて、両脇を抱えられて部屋に戻ると、そのままどさりと床に崩れ落ちた。
きっとセレサは男たちが部屋に入ってくる前に咄嗟に自分の皿を僕の所に置いてくれたんだ。僕の目の前には落として割れたはずの皿があった……。
僕は駆け寄ってセレサに謝った。
「ご、ごめんなさい。僕のせいで……」
セレサは力無く微笑んで、気にしないでと言うように僕の頭を撫でた。
「まだ小さいもの。仕方ないわ。それよりあまり泣いてると『うるさい』って私と同じ目にあっちゃうわ」
彼女は小声でそう教えてくれた。
セレサはそれから数日間、傷の痛みで食事も食べれない状態で……。不思議な事に僕以外は誰もセレサを心配しなかった。
心が恐怖で麻痺していたのかもしれない。
皆が起きている時は泣かないセレサだけど、夜中こっそり声を押し殺して泣いていた。
心が引き裂かれそうな悲しい声。
僕だけじゃない。彼女も悲しくて不安で、まだ子供だ。なのに僕を助けてくれたんだ。
セルウス島に着くと、僕らはみんな奴隷の証として焼き印を押された。一人ずつ悲鳴を上げ、焼き鏝を押し付けられていく。順番を待つ間、怖くて怖くて……震えが止まらない。
「怖いね。でも生きていればきっと良いことあるわ。耐えましょう」
セレサそう言って僕を宥めてくれた。気休めの言葉。だけど、セレサに言われると生き抜いてやろうと思えた。
あの船の中、みんな心を麻痺させていた。
そんな中、優しさを失わないセレサだけが僕の希望みたいに綺麗に見えた。
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