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8.学園へ
しおりを挟む今日から王立プリティキューティ学園に通うことになる。
この学園は貴族息女しか通う事が出来ない伝統のある学園。
なのに何だか前世で通った日本の学校に近い雰囲気。
「ヴァネッサ、待たせたな。」
この国の第1王子の到着に、周囲の視線が一斉に集まるのを感じた。
私はオースティン殿下の婚約者として、この学園では皆の規範にならなければいけない。何かと注目を浴びることになる立場だから、学園に通うのは正直気が重かった。
「殿下、おはようございます。」
私たちは貴族子女の注目を浴びる中挨拶を交わすと、気を引き締めて揃って講堂へと向かう。いつもとは違い少し離れて歩いていると、背後から女性の可愛らしい声が聞こえた。
「すいませぇーん。入学式の会場は何処ですかぁ?」
何この話し方っ!?
驚いて振り向くと可愛い少女が私たちの後ろに立っていた。
ピンク色の長い髪は輝くように波打ち、エメラルドグリーンの瞳はクリクリしていて庇護欲をそそる。
少女漫画のヒロインみたいに可愛くて、彼女の周りだけエフェクトがかかったみたいにキラキラしてる!
「私たちも今から向かうんだ。君は新入生だね?案内しようか?」
ティンの笑顔に見とれて、少女はぽぉっと頬をピンクに染めている。
ティンは人前では王子様らしい言葉遣いと態度。よくここまで素敵に成長したなぁ、なんて感慨深くなっちゃう。
いつもの話し方は学園の中では封印!
私たちの愛称呼びも二人だけの時という約束にしている。
「オースティン様が案内してくれるなんてぇ、嬉しいっ!お願いしまぁす。」
え?
この女子生徒の言葉遣い……。
こんな子がこの学園で上手くやっていけるのかしら?
私はそう思ったけれど、ティンは私が念を押した通りに、王子様スマイルを崩さなかった。
「さぁ、案内しよう。」
「はい!」
見つめ合う二人はまさに少女漫画のヒーローとヒロインみたいだった。
「ヴァネッサは担任の先生に呼ばれているのだろう?私がこの生徒を案内するからヴァネッサは職員室に行くといい。」
「は、はい、殿下。ありがとうございます。」
ティンは完璧に王子様らしく振る舞っている。
だけど、なんだか寂しくて……。
理由も無いのに、何だか私はこの世界で脇役だと感じてしまった。
本当のヒロインはあの可愛らしい少女なのかも……。
私がそんな事を考えている間に、殿下と少女は会話を交わし、講堂へと歩いて行った。
ここは身分問わず皆が平等であるとの教育理念に基づいて設立された学園。
だが実際は皆が身分を弁えて行動する。
貴族令息にとっては将来自分の上司や同僚になるかもしれない人間を見極める場ともなるし、令嬢にとってもこの学園は小さな社交界。
その事を踏まえた上で、私は殿下に将来仕えたい人間だと思われるように様々なアドバイスをしてきた。
だから殿下が彼女を案内するのは間違ってない事なのに、胸にすきま風が吹き込むような感じがした。
だって二人は何だか本物の恋人同士みたいにお似合いだった。
心の中にぼんやりとした不安を抱えて二人の背中を見送っていると、ティンは突然振り返り『褒めて!』って感じで微笑んだ。
よく知るティンの屈託のない笑い方。
私が軽く頷いて合図すると得意そうにほんの少し胸を張る。
人前では理想の王子様みたいに振る舞うのに、中身は変わらない。
不安になることなんてないわ。ティンは変わらないもの。
彼の仕草一つで不安が消え去り、私は急いで職員室に向かうべく踵を返した。
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