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サーフィス視点

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僕は兄のような社交的な性格では無かった。
同じ年頃の子供たちと一緒にいても、絵を描いたり、庭で花を眺めているような少年だったそうだ。 
年が近いアーヴァイン殿下との交流があったが、殿下の話す国の未来が嫌で、僕は王宮への出仕に興味を失った。
国を大きくする事になんの意味があるんだ。

気が弱く、直ぐに泣いてしまう僕を、両親は貴族社会から遠ざけ好きな事をさせてくれた。

そんな僕にも八歳の時に、コルン伯爵家の令嬢との婚約話が持ち上がった。
僕のような貴族社会に溶け込めない人間と結婚してくれるなら誰でも良かった。
初めて会った時、セレナ嬢は凛として美しく僕には勿体無いような気がした。

「貴族として、勉学と社交は義務ですわ。」

彼女はプライドが高くて努力家だった。
僕はそんな彼女についていく自信が持てなかった。


花や絵やを眺めてばかりいる僕を馬鹿にする貴族令息もいたが、気にならなかった。
それが彼女にとって歯痒かったのだろう。

「サーフィス、あなたは貴族としての矜持は持ち合わせていませんの?」
「どうして言い返さないの?」

僕が馬鹿にされると彼女はいつも代わりに怒っていた。

「僕は綺麗な絵や花や音楽が好きなんだ。あまり貴族らしく無くてごめんね。」

彼女は心底呆れたように溜め息を吐く。

「女々しい。男性として生まれた以上、出世を目指し国のために務めるのが貴族の努めですわ。」
「男のくせに直ぐに泣くなんて……。」

その声には侮蔑が含まれていた。
僕は彼女が好きだったから、ショックで恥ずかしくて……そう言われたのが辛かった。

僕も変わりたい、………けど目的が分からないんだ。
戦争して国を大きくするのが良いことだと、どうしても思えない。

僕が13歳の時にとうとうセレナ嬢との婚約は解消され、彼女の妹のミアと婚約する事になった。
一つ年下のミアは可愛くて天真爛漫という言葉がぴったりだった。

婚約が決まった後、彼女と初めて顔を合わせた時、年下の彼女がセレナに振られた僕を気遣うような素振りを見せた。
僕の背中にそっと手を置いて
「そのままのサーフィス様でいてください。」
そう言ってくれた。
その言葉が衝撃的で………。僕のそのままを受け入れて貰えた、そう思った。
そして、彼女のために強くなりたいと初めて心から思った。


それから彼女からネリング王国の事を教えて貰った。
随分遠い国で名前くらいしか知らなかった。
けど、ネリング王国には僕がやりたいことのヒントが沢山詰まっていた。
僕は貴族として生きる目的を見付けられた気がした。

「父上、僕は今から王宮への出仕を目指したいと思います。猛勉強するので、15歳になったら父上の元で働かせて貰えませんか?」
「本気か?」
「遅いのは充分承知しています。私が使えないと判断した場合は捨て置いてください。」
「分かった。」
重々しく頷いく父は、それでも嬉しげで、随分長い間待たせたのだとその時に初めて分かった。

今まで勉強してこなかった分取り戻すのは大変だ。

「芸術家が何の用だ?この部屋にはピアノも絵画も無いぞ。」
アーヴァイン殿下は僕の出仕を歓迎していないようだ。

空いた日には父の手伝いに王宮に来て見習いをする僕を邪険にする。
小さな嫌がらせは日常茶飯事だ。

我が家とは派閥が違うので、仕方無いがあからさまな態度で僕を貶めるので、傷つく………。
殿下の側近達も、ニヤニヤと僕を見ていて僕は逃げ出したくなった。
けれど………ミアさんもこれから僕のために社交界で頑張ってくれてるんだ。
僕が弱いままじゃいけない。

「失礼します。昨年の第二騎兵隊の帳簿を調べているんです。」
「な、なんだ!どうしてそんなものが必要なんだ!」

急に焦りだしたアーヴァイン殿下には違和感しか無い。
不自然すぎるだろう。

「財務部からです。内容を調べているのではありません。書式を統一したいので……参考に。」
ほっとした様子で一旦息を吐いた殿下は、それでも警戒しながら帳簿を渡してくれた。

王宮で殿下の護衛騎士に囲まれる事もしばしばだ。
凄むように眉間に皺を寄せ、目を吊り上げて僕の目を見る騎士達は怖くて、廊下を戻ってしまいたくなる。

「絶対に手は出せない。王宮内でそんな事をすれば、アーヴァイン殿下の地位が危うくなる。」

そう父には言われていた。
なるべく冷たい表情を作り、騎士の間を抜ける。
そんな事をする度に寿命が縮むようだ。
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