8 / 20
サーフィス視点
しおりを挟む
僕は兄のような社交的な性格では無かった。
同じ年頃の子供たちと一緒にいても、絵を描いたり、庭で花を眺めているような少年だったそうだ。
年が近いアーヴァイン殿下との交流があったが、殿下の話す国の未来が嫌で、僕は王宮への出仕に興味を失った。
国を大きくする事になんの意味があるんだ。
気が弱く、直ぐに泣いてしまう僕を、両親は貴族社会から遠ざけ好きな事をさせてくれた。
そんな僕にも八歳の時に、コルン伯爵家の令嬢との婚約話が持ち上がった。
僕のような貴族社会に溶け込めない人間と結婚してくれるなら誰でも良かった。
初めて会った時、セレナ嬢は凛として美しく僕には勿体無いような気がした。
「貴族として、勉学と社交は義務ですわ。」
彼女はプライドが高くて努力家だった。
僕はそんな彼女についていく自信が持てなかった。
花や絵やを眺めてばかりいる僕を馬鹿にする貴族令息もいたが、気にならなかった。
それが彼女にとって歯痒かったのだろう。
「サーフィス、あなたは貴族としての矜持は持ち合わせていませんの?」
「どうして言い返さないの?」
僕が馬鹿にされると彼女はいつも代わりに怒っていた。
「僕は綺麗な絵や花や音楽が好きなんだ。あまり貴族らしく無くてごめんね。」
彼女は心底呆れたように溜め息を吐く。
「女々しい。男性として生まれた以上、出世を目指し国のために務めるのが貴族の努めですわ。」
「男のくせに直ぐに泣くなんて……。」
その声には侮蔑が含まれていた。
僕は彼女が好きだったから、ショックで恥ずかしくて……そう言われたのが辛かった。
僕も変わりたい、………けど目的が分からないんだ。
戦争して国を大きくするのが良いことだと、どうしても思えない。
僕が13歳の時にとうとうセレナ嬢との婚約は解消され、彼女の妹のミアと婚約する事になった。
一つ年下のミアは可愛くて天真爛漫という言葉がぴったりだった。
婚約が決まった後、彼女と初めて顔を合わせた時、年下の彼女がセレナに振られた僕を気遣うような素振りを見せた。
僕の背中にそっと手を置いて
「そのままのサーフィス様でいてください。」
そう言ってくれた。
その言葉が衝撃的で………。僕のそのままを受け入れて貰えた、そう思った。
そして、彼女のために強くなりたいと初めて心から思った。
それから彼女からネリング王国の事を教えて貰った。
随分遠い国で名前くらいしか知らなかった。
けど、ネリング王国には僕がやりたいことのヒントが沢山詰まっていた。
僕は貴族として生きる目的を見付けられた気がした。
「父上、僕は今から王宮への出仕を目指したいと思います。猛勉強するので、15歳になったら父上の元で働かせて貰えませんか?」
「本気か?」
「遅いのは充分承知しています。私が使えないと判断した場合は捨て置いてください。」
「分かった。」
重々しく頷いく父は、それでも嬉しげで、随分長い間待たせたのだとその時に初めて分かった。
今まで勉強してこなかった分取り戻すのは大変だ。
「芸術家が何の用だ?この部屋にはピアノも絵画も無いぞ。」
アーヴァイン殿下は僕の出仕を歓迎していないようだ。
空いた日には父の手伝いに王宮に来て見習いをする僕を邪険にする。
小さな嫌がらせは日常茶飯事だ。
我が家とは派閥が違うので、仕方無いがあからさまな態度で僕を貶めるので、傷つく………。
殿下の側近達も、ニヤニヤと僕を見ていて僕は逃げ出したくなった。
けれど………ミアさんもこれから僕のために社交界で頑張ってくれてるんだ。
僕が弱いままじゃいけない。
「失礼します。昨年の第二騎兵隊の帳簿を調べているんです。」
「な、なんだ!どうしてそんなものが必要なんだ!」
急に焦りだしたアーヴァイン殿下には違和感しか無い。
不自然すぎるだろう。
「財務部からです。内容を調べているのではありません。書式を統一したいので……参考に。」
ほっとした様子で一旦息を吐いた殿下は、それでも警戒しながら帳簿を渡してくれた。
王宮で殿下の護衛騎士に囲まれる事もしばしばだ。
凄むように眉間に皺を寄せ、目を吊り上げて僕の目を見る騎士達は怖くて、廊下を戻ってしまいたくなる。
「絶対に手は出せない。王宮内でそんな事をすれば、アーヴァイン殿下の地位が危うくなる。」
そう父には言われていた。
なるべく冷たい表情を作り、騎士の間を抜ける。
そんな事をする度に寿命が縮むようだ。
同じ年頃の子供たちと一緒にいても、絵を描いたり、庭で花を眺めているような少年だったそうだ。
年が近いアーヴァイン殿下との交流があったが、殿下の話す国の未来が嫌で、僕は王宮への出仕に興味を失った。
国を大きくする事になんの意味があるんだ。
気が弱く、直ぐに泣いてしまう僕を、両親は貴族社会から遠ざけ好きな事をさせてくれた。
そんな僕にも八歳の時に、コルン伯爵家の令嬢との婚約話が持ち上がった。
僕のような貴族社会に溶け込めない人間と結婚してくれるなら誰でも良かった。
初めて会った時、セレナ嬢は凛として美しく僕には勿体無いような気がした。
「貴族として、勉学と社交は義務ですわ。」
彼女はプライドが高くて努力家だった。
僕はそんな彼女についていく自信が持てなかった。
花や絵やを眺めてばかりいる僕を馬鹿にする貴族令息もいたが、気にならなかった。
それが彼女にとって歯痒かったのだろう。
「サーフィス、あなたは貴族としての矜持は持ち合わせていませんの?」
「どうして言い返さないの?」
僕が馬鹿にされると彼女はいつも代わりに怒っていた。
「僕は綺麗な絵や花や音楽が好きなんだ。あまり貴族らしく無くてごめんね。」
彼女は心底呆れたように溜め息を吐く。
「女々しい。男性として生まれた以上、出世を目指し国のために務めるのが貴族の努めですわ。」
「男のくせに直ぐに泣くなんて……。」
その声には侮蔑が含まれていた。
僕は彼女が好きだったから、ショックで恥ずかしくて……そう言われたのが辛かった。
僕も変わりたい、………けど目的が分からないんだ。
戦争して国を大きくするのが良いことだと、どうしても思えない。
僕が13歳の時にとうとうセレナ嬢との婚約は解消され、彼女の妹のミアと婚約する事になった。
一つ年下のミアは可愛くて天真爛漫という言葉がぴったりだった。
婚約が決まった後、彼女と初めて顔を合わせた時、年下の彼女がセレナに振られた僕を気遣うような素振りを見せた。
僕の背中にそっと手を置いて
「そのままのサーフィス様でいてください。」
そう言ってくれた。
その言葉が衝撃的で………。僕のそのままを受け入れて貰えた、そう思った。
そして、彼女のために強くなりたいと初めて心から思った。
それから彼女からネリング王国の事を教えて貰った。
随分遠い国で名前くらいしか知らなかった。
けど、ネリング王国には僕がやりたいことのヒントが沢山詰まっていた。
僕は貴族として生きる目的を見付けられた気がした。
「父上、僕は今から王宮への出仕を目指したいと思います。猛勉強するので、15歳になったら父上の元で働かせて貰えませんか?」
「本気か?」
「遅いのは充分承知しています。私が使えないと判断した場合は捨て置いてください。」
「分かった。」
重々しく頷いく父は、それでも嬉しげで、随分長い間待たせたのだとその時に初めて分かった。
今まで勉強してこなかった分取り戻すのは大変だ。
「芸術家が何の用だ?この部屋にはピアノも絵画も無いぞ。」
アーヴァイン殿下は僕の出仕を歓迎していないようだ。
空いた日には父の手伝いに王宮に来て見習いをする僕を邪険にする。
小さな嫌がらせは日常茶飯事だ。
我が家とは派閥が違うので、仕方無いがあからさまな態度で僕を貶めるので、傷つく………。
殿下の側近達も、ニヤニヤと僕を見ていて僕は逃げ出したくなった。
けれど………ミアさんもこれから僕のために社交界で頑張ってくれてるんだ。
僕が弱いままじゃいけない。
「失礼します。昨年の第二騎兵隊の帳簿を調べているんです。」
「な、なんだ!どうしてそんなものが必要なんだ!」
急に焦りだしたアーヴァイン殿下には違和感しか無い。
不自然すぎるだろう。
「財務部からです。内容を調べているのではありません。書式を統一したいので……参考に。」
ほっとした様子で一旦息を吐いた殿下は、それでも警戒しながら帳簿を渡してくれた。
王宮で殿下の護衛騎士に囲まれる事もしばしばだ。
凄むように眉間に皺を寄せ、目を吊り上げて僕の目を見る騎士達は怖くて、廊下を戻ってしまいたくなる。
「絶対に手は出せない。王宮内でそんな事をすれば、アーヴァイン殿下の地位が危うくなる。」
そう父には言われていた。
なるべく冷たい表情を作り、騎士の間を抜ける。
そんな事をする度に寿命が縮むようだ。
2
お気に入りに追加
1,495
あなたにおすすめの小説
死に戻り王妃はふたりの婚約者に愛される。
豆狸
恋愛
形だけの王妃だった私が死に戻ったのは魔術学院の一学年だったころ。
なんのために戻ったの? あの未来はどうやったら変わっていくの?
どうして王太子殿下の婚約者だった私が、大公殿下の婚約者に変わったの?
なろう様でも公開中です。
・1/21タイトル変更しました。旧『死に戻り王妃とふたりの婚約者』
──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。
ふまさ
恋愛
伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。
「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」
正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。
「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」
「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」
オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。
けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。
──そう。
何もわかっていないのは、パットだけだった。
《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜
本見りん
恋愛
───恋に落ちる瞬間を、見てしまった。
アルペンハイム公爵令嬢ツツェーリアは、目の前で婚約者であるアルベルト王子が恋に落ちた事に気付いてしまった。
ツツェーリアがそれに気付いたのは、彼女自身も人に言えない恋をしていたから───
「殿下。婚約解消いたしましょう!」
アルベルトにそう告げ動き出した2人だったが、王太子とその婚約者という立場ではそれは容易な事ではなくて……。
『平凡令嬢の婚活事情』の、公爵令嬢ツツェーリアのお話です。
途中、前作ヒロインのミランダも登場します。
『完結保証』『ハッピーエンド』です!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから
よどら文鳥
恋愛
私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。
五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。
私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。
だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。
「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」
この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。
あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。
婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。
両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。
だが、それでも私の心の中には……。
※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。
※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
どうして私にこだわるんですか!?
風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。
それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから!
婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。
え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!?
おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。
※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。
婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました
Blue
恋愛
幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる