初恋の人が妹に婚約者を奪われたそうです。

文字の大きさ
上 下
14 / 19

14.夜会②

しおりを挟む



「シャルロッテ!貴女が何故ここにいるの?」

「止めてください。ソレイクス夫人。」

 シャルに詰め寄ろうとしたソレイクス夫人と彼女との間に身体を滑り込ませた。堂々として見えるシャルだが、内心は怯えているはずだ。
 やっと癒えた傷。シャルの心を守らなければ。

 シャルの姿を見て平静さを失っているソレイクス夫人は目を吊り上げている。
 このような夜会の場で淑女が見せていい表情ではない。

「ソレイクス夫人、今、ご自分がどのような顔をしているかご自覚ください。俺の大切な婚約者にそのような目を向けられては困ります。」 

 「え、ま、まあ、おほほ。」

 ソレイクス夫人はサッと表情を変えて扇で口元を覆い取り繕うように笑った。

「まさか、ソレイクス夫人はご自宅でいつもシャルにそのような態度を?」

「まさか!勘違いよ。その子がわたくしたち親子を虐めていたのに……。ただ、王都に居るはずのないその子がどうしてこの場所にいるのかと思って、驚いただけで……。わたくしたち親子の方がシャルロッテには傷つけられてきたのに……。」

  周囲へのアピールなのか……。ソレイクス夫人は悲しそうに目を伏せた。
 白々しい演技だ。
 もう既に本性はバレている。もうすでに会場中の視線がこの場に集まっていた。

「シャルロッテお嬢様がセリーナ奥様を虐めたことなどありませんよ。」

 いつの間にか近くにいたミアがきっぱりと声を上げた。周囲には他にもソレイクス伯爵家に勤めていた使用人たちが集まってきて、ソレイクス夫人を取り囲む。

 会場の入り口に向かっていたソレイクス伯爵は、自分の妻が注目を浴びているのにやっと気が付いたようだ。   
 慌てて方向転換し、此方の方に向かってきた。
 ハリスンに気を取られていて、騒ぎに気が付くのが遅かったようだ。
 しかし、すでに夫人は醜態を晒した後。
 周囲の人々の目は冷たい。
 
「お、お前たち、何をしているんだ?」

 ソレイクス伯爵の声を聞いた夫人は、幾分ほっとしたような表情を浮かべ、伯爵に向かって助けを求めた。

「わたくしたち親子を虐げていたシャルロッテが戻って来たのです。わ、わたくし……また酷い言葉を浴びせられるのかと不安で……。だから、どういうことか尋ねようとしていたのですわ。」

 証言者が揃っているのにも関わらず、夫人はまだ被害者のように振る舞った。
 どうにか出来るとでも思っているのか?

「また嘘を吐くんですか?逆です。貴女たち親子が来てお嬢様に暴力を振るったんです。わたくしたち使用人も、貴女たちに暴行を受けました。」

 ミアやその場にいた使用人たちが、腕や手についた傷痕をソレイクス伯爵に見せつけた。

「シャルロッテお嬢様も同じです。ソレイクス夫人やパメラ様に言葉が話せなくなるほどの暴行を受けていました。」

 話を聞いたソレイクス伯爵は真っ赤な顔。怒りが爆発するのをギリギリのところで抑えているようだ。

「お前たち、そんな事をしていたのか……。使用人とはいえ、暴行したのなら罪に問われる事になる。離婚だ。直ぐに屋敷を出ていってくれ。」
 
 ソレイクス伯爵は厳しい顔で二人を睨み付けた。
 
「え?」

 庇ってくれると思っていた伯爵に、切り捨てられた二人は慌ててソレイクス伯爵にしがみついた。

「ギデオン様、……そ、そんな……出ていけだなんて……。」
「お父様!酷いわ。私たち住むところも無くなってしまうわ!」

 夫人とパメラは涙目で必死にソレイクス伯爵に許しを乞うが、謝る相手が違う。周囲に居る元使用人たちは冷ややかに二人を見ていた。

「愚かなのは伯爵も同じです。同じ屋敷に居ながら、シャルロッテお嬢様の窮状に気が付かなかったのですから。そして、ルピナス奥様の死も不自然でしたねぇ。」

「ハリスン……。誤解を招くような事をこの場で言うのは止めてもらおう。」

 入り口にいたはずのハリスンもいつの間にか移動して、シャルを守るように私の隣に立っていた。

「アルヴィン様が色々とお調べになって証拠を集めたようですよ?私も少々協力はしましたが……。お金を払って口止めしても、更にお金を積めば人間すんなりと秘密を話すものです。 」

 ハリスンの言葉にソレイクス伯爵はサッと顔色を変えた。自分自身もすでに窮地に追い込まれていることをようやく理解したようだ。

「ルピナス奥様付きの侍女だったハンナを覚えていますか?彼女……何かの罪で自首したようですよ。ねぇ、伯爵。何かご存知ではありませんか……?」

「な、な、な、何のことを言っているのか、わ、分からないな。わ、私は気分が悪い。もう失礼しよう。」

 『ハンナ』という名前はよほど効果があったのだろう。
 ソレイクス伯爵は妻子を置いて、逃げるように会場を出ていった。
 恐らくは証拠隠滅のために……。
 けれど、既に遅効性の毒の取引記録は商会から提出されているし、実行犯の証言もある。

 そして、ハリスンはソレイクス伯爵家を辞める時に証拠を持ち出していた。
 
しおりを挟む
感想 100

あなたにおすすめの小説

氷の公爵の婚姻試験

恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

愚者(バカ)は不要ですから、お好きになさって?

海野真珠
恋愛
「ついにアレは捨てられたか」嘲笑を隠さない言葉は、一体誰が発したのか。 「救いようがないな」救う気もないが、と漏れた本音。 「早く消えればよろしいのですわ」コレでやっと解放されるのですもの。 「女神の承認が下りたか」白銀に輝く光が降り注ぐ。

“代わりに結婚しておいて”…と姉が手紙を残して家出しました。初夜もですか?!

みみぢあん
恋愛
ビオレータの姉は、子供の頃からソールズ伯爵クロードと婚約していた。 結婚直前に姉は、妹のビオレータに“結婚しておいて”と手紙を残して逃げ出した。 妹のビオレータは、家族と姉の婚約者クロードのために、姉が帰ってくるまでの身代わりとなることにした。 …初夜になっても姉は戻らず… ビオレータは姉の夫となったクロードを寝室で待つうちに……?!

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

処理中です...