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3.シャノン視点
しおりを挟む俺にはシャルロッテという名前の美しい婚約者がいた。
幼い頃はニコニコ可愛らしかった彼女は、成長して変わってしまった。
彼女が変わってしまったのは……そう、母親が亡くなってからだと思う。
筆マメな彼女から連絡が来なくなって、心配になった俺は彼女に会いに行ったんだ。
「久しぶり、シャル。」
「シャノン、申し訳ないけれど、忙しいの……。」
久しぶりに会ったというのに、彼女に笑顔は無くて……。俺に早く帰って欲しそうな素振りを見せた。
「あらぁ、シャルロッテ!お客様なら教えてくれないと駄目じゃないの!」
「お姉ちゃんっ、素敵な男性ね。私にも紹介してよぉ!」
奥から出てきたのは、ピンクブロンドの髪をしたの花のように愛らしい少女と、その少女にそっくりの女性。
曇ったような表情のシャルロッテとは対象的に、二人はニコニコとした笑顔で俺を歓迎してくれた。
その後、俺は二人の誘いに応じて四人でお茶を飲んだ。
「まあ!シャノン様はトレスレー伯爵家の長男ですのっ??しかもシャルロッテと婚約してるなんて……。」
「お姉ちゃんが羨ましいわ。こんなに格好よくて身分も高い人が婚約者なんて……。」
二人はソレイクス伯爵の再婚相手と連れ子らしい。二人は平民だったそうだが、初対面の俺に臆すること無く常に笑顔で話し掛けてきて、人懐っこい印象を受けた。ソレイクス伯爵もそういう人柄に惹かれたのだろう。
一方のシャルロッテは何も話さずにずっと俯いていた。そんなシャルロッテに俺は話し掛け難くて……。
帰る時に見送ってくれた夫人が、俺に悩みを打ち明けてくれた。
「シャルロッテは伯爵が私たち平民の親子と再婚することに反対なんです。あの子は気位が高くて、どうしても打ち解けてもらえなくて……。」
確かにお茶を飲んでいる間、シャルロッテは二人と目を合わせようとしなかったしほとんど喋らなかった。
彼女は相手の身分によって態度を変えるような女性だったのか……。
「……シャルロッテも母親の急逝から間もない。心の整理もつかないんだろう。もう少し待ってあげて欲しい。彼女は本当は明るい、笑い上戸な女性なんだ。」
夫人は少しの逡巡の後、大きく頷いた。
「ええ、私も努力してみますわ。」
★
それからもシャルロッテからの連絡は一切無くて、俺は彼女の誕生日に花束を持って伯爵邸に会いに行ったんだ。
「シャルロッテは誰とも会いたくないと……。」
「そんな……誕生日なのに?彼女に花束を渡して『おめでとう』とだけでも伝えてもらえないか?」
「折角来ていただいたのに申し訳ありません。花束を渡してきますね。」
ソレイクス伯爵夫人が花束を持ってシャルロッテの部屋へと持って行ってくれた。直後、奥から物凄い大きな物音がして……伯爵夫人が困ったような表情をして戻ってきた。
その手には俺が渡した花束が……。無惨にも手折られてぐちゃぐちゃになっていた。
「申し訳ありません。プレゼントはいらないと……。私はもうどうしていいか……。」
伯爵夫人は頬に手を当てて大きくため息を吐いた。きっとシャルロッテと上手くいってなくて疲れているんだろう。俺がどうしようもなくやるせない気持ちになって佇んでいると、パメラがぴょこりと廊下の奥から顔を出した。
「シャノン様!お久しぶりです。」
彼女は無邪気な笑顔で俺に挨拶すると、夫人の持っていた花束を見て驚いた。
「まあ!綺麗な花束を誰がそんな風に?」
「シャルロッテだそうだ。」
「お姉ちゃんはお花より宝石の方が好きですものね。シャノン様、私はお花が大好きなんです。良ければその花束いただけませんか?」
「これを?」
「ええ、まだ大丈夫なお花もありますし、茎を切ってやれば水を吸うと思うんです。」
ボロボロになった花束を抱えて、パメラは嬉しそうに笑った。
あー、なんて心の清らかな女性なんだろう。
俺はそれから時々ソレイクス伯爵邸に通ってパメラと共に過ごした。パメラと夫人はシャルロッテとの不仲に悩んでいて俺はいつも相談に乗っていた。
そして、暫くしてシャルロッテから書面で婚約を解消したいとの申し出があった。俺はそれを受諾し、そのままパメラと婚約を結び直した。
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