初恋の人が妹に婚約者を奪われたそうです。

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1.変わった婚約者

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 幼い頃はいつも三人で無邪気に笑っていたんだ。


  こんな事になるなんて……。

 俺には二人の幼馴染がいた。
 一人はシャノン・トレスレー伯爵令息
 そしてもう一人はシャルロッテ・ソレイクス伯爵令嬢。

 俺たち三人は王都の屋敷が近かったし、母親同士も仲が良かった。

 十二才で国を離れるまでの間、お互いの家にある庭園でいつもコロコロ笑いながら遊んでた。

 俺とシャノンは男同士。いつも庭園で折った木の枝を剣に見立てて戦いごっこをしてた。あの頃は庭師の苦労なんて知らなくて……。
 とうとう母親たちに「枝を折るな」と二人揃って怒られた。

 シュンと怒られている俺たちを見てクスクス笑うシャルロッテ。

 かくれんぼをして、シャルロッテが花を摘むのを手伝って……。
 三人で芝生の上で笑い転げてた記憶が鮮明に残ってる。
 その理由はもう思い出せない。きっとくだらない理由で笑っていたんだろう。

 シャノンは美少年で気取り屋。
 俺は少し太っちょでお調子者。
 シャルロッテは笑い上戸でいつもお腹が痛くなるまで笑ってた。

 俺はそんな彼女の笑顔を見たくてよくふざけてた。

 シャルロッテはぷくぷくした両手を広げて口を覆い、楽しそうに笑う。笑い始めると何を言ってもコロコロ笑ってくれるから、俺は嬉しかったんだ。

 太陽がたくさん当たる庭園で、彼女の笑顔は何よりも眩しく輝いていて……。

 美少女だったシャルロッテとシャノンは並ぶとお似合い。俺は二人に「結婚したら?」なんてよく揶揄ってた。

 僕も淡い気持ちを持っていたけど、シャルロッテはシャノンが好きなのを知ってたから……。

母親たちがお茶を飲みながらお喋りしている時間は、いつも長引いてしまう。だから俺たちは飽きてくると好きなことをしながら時間を過ごした。

 俺はその頃、草笛を練習してたから、よくシャルロッテの前で吹いていた。童謡ぐらい吹けるようになりたいのに、いつも音程が外れてしまう。何回も繰り返し練習する俺の横でシャルロッテは花冠を編んでいた。シャノンは昆虫観察。

 思い出すと愛しくて、少し切ない俺の思い出。


 十二歳になって俺は語学を学ぶために母国を離れた。それは代々サンチェスカ侯爵家の継ぐ者の務め。

 十三歳で、二人が婚約したことは知っていた。

 シャルロッテからの手紙にはシャノンと婚約出来た喜びと、三人の友情はずっと変わらないって事が書いてあった。彼女の弾むような嬉しさが伝わる、そんな文章で。

 俺は二人にお祝いの言葉とプレゼントを送った。

「お似合いだよ。ちゃんと幸せになれよ。」って。

 十八歳になり帰国し、真っ先に二人に会いたかったけど、俺は忙しくてなかなか会う時間がとれなかった。

 そしてとうとう王宮舞踏会の日まで再会できなくて……。それでも俺は二人の幸せそうな笑顔を楽しみにしていたんだ。


 







 十八歳になり、俺は帰国し王都の屋敷に住むことになった。

 王宮への出仕が決まっていた俺はその準備と挨拶周りに忙しくて、幼馴染との再会は王宮舞踏会の日になってしまった。

 二人の仲睦まじい様子を見て、惚気の一つでも聞いてやろうかの思っていたのに……。

(あれは誰だ?)

 シャノンの隣に立っていたのは、見知らぬ令嬢。
 悪趣味と思えるほどに着飾って得意げに微笑んでいた。

(婚約者を同伴しないなんて、シャノンは何を考えてるんだ?)
 
 予想外の光景に戸惑っていると、俺の視線に気が付いたシャノンが此方に向かって手を挙げた。

「アルヴィンっ、久しぶりだな!」

 その表情からは何の後ろめたさも感じない。彼はその見知らぬ令嬢を伴って、俺の所に歩いて来た。

「紹介するよ。僕の婚約者のパメラ。パメラはソレイクス伯爵家の令嬢でシャルロッテの妹になる。
パメラ、こいつは、アルヴィン。サンチェスカ侯爵家の跡継ぎさ。俺たちは幼馴染で親友なんだ。」

 シャノンは俺たちをお互いに紹介してくれた。
 シャルロッテに妹?
 そんなの聞いたことが無い。

「はじめまして。パメラと言います。アルヴィン様って侯爵家の方なんですね。シャノンったら、こんなに素敵なお友達がいるなんて、教えてくれなかったじゃないっ。アルヴィン様、私とも仲良くしてくださいね。」

 シャルロッテの妹だというこの令嬢は行儀作法も何も出来ていないようだった。俺の事をいきなり名前で呼ぶなんて……。

 俺は訳が分からなくて、シャノンを引っ張って会場の隅へと移動した。

「シャルロッテはどうしたんだ?お前、婚約者だろう?」

「アルヴィン、俺の婚約者はシャルロッテからパメラになったんだ。」

 「は?」
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