魔人狂想曲

山波斬破

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物語が好きな少年

少女の名は

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 少女は鼻をひくひくさせて、花の薫りにうっとりとしている。やはり獣人なだけあり、鼻が利くのであろう。

「ようこそタンタラ大衆食堂の穴場。タンタラの花園へ」

 ヒエンは、両手を広げてにこりと微笑んだ。どこか自慢気なのはご愛嬌というやつだ。

「ここの花は、あのタンタラさんが植えて育てているんだよ? すごくいい場所でしょ?」

 白い塗料で染められたテーブルセットが、花園の中心に置かれていた。ティーポットとティーカップが揃えられたそれに近づくとヒエンは、ゆっくりティーポットから紅茶を注いで少女の前に置いた。

「飲んでみて?」

 少女は小さく頷くと、両手でティーカップを掴むとゆっくり、ごくりと紅茶を飲み込んだ。

「あ、美味しい」

 にぱっと花が咲いたように少女は笑うと、ティーカップをそっと音をたてないように置いた。

「それで、君は獣人だろ? 集落から出てきて苦労している、ってところだよね?」

「は、はい。なぜわかるのですか?」

「僕は本をよく読むんだけれど、獣人は森の集落から出る時は興味からか、よっぽどの何かがある時だって書いてあったのを読んだんだよ」


「あ、そうなんですか……私は」

「無理に話さなくてもいいよ。さ、先ずは食事を待とうよ。すぐ来るはずさ」

 厨房へ続く扉から、ナラがお盆に乗せて食事を運んできた。また少女は鼻をすんすんさせて匂いに顔をほころばせている。

「はい、たんとお食べよ」

 ナラは豪快に笑いながら、お盆から料理を二人の前に差し出した。

「あ、ありがとうございます。で、でも私お金がありません」

「気にしないでいいんだよ。ヒエンから代金はもらうから。ささ、お食べよ」

「あ、なんだがすみません。ヒエンさん。いただきます。何かお返しできたら良いのですが」


 しゅんと、少女は耳をピクピクさせた。

「気にしないで? 獣人の方は物々交換がきほんでしょう? 馴れたら働いてみるといいよ? タンタラ大衆食堂で働くのもいいかもしれないね。そうだ名前を聞いてなかったね。僕はヒエン。君は?」

「あ、すみません。私はユナン。ただのユナンです」

 それからは、お互いに打ち解けたようで食事は和やかに進んだ。


 
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