ワンコイン

第11話 低ランク冒険者への依頼受領命令

　出世魚という魚がいる。
　成長とともに名前が変わっていく魚を指す言葉で、例えば、ブリならワカシ→イナダ→ワラサ→ブリという風になる。
　この街の近辺には、海がないので、魚というものは湖や川に生息しているが、食用に適さないこともあり、それらを食べる方法も知らない。
　ただ、食物連鎖の底辺から最上段に上がってしまう個体がある。
　出世魚のように名前が変わるが、基本的に魚であることに変わりはないのに対して、それは単細胞から巨大な龍まで進化してしまうやっかいなものだ。

　ギルドマスターからの呼び出しによって、マスタールームに来た俺に直にお願いしたいことがあるという。

　「で、私に何をして欲しいのです？」
　「討伐依頼が来ている。今年は、街から近い湖で”エラ”が大発生しているらしく、これが元で進化個体が出ると近隣ギルド全てに招集を掛けなきゃならん。」
　「他のギルド員（冒険者）は、依頼を受けているんでしょうね。」
　「ああ、まぁ、それなりには。」
　「いないんですね。」
　「実はそうだ。依頼の報酬としては、安くはないと思うのだが、やることが地味なのか受けてくれる人がいなくてな。」

　実際のところ、エラは死なないように回収して、陸に揚げた後に、まとめて焼滅する必要がある。エラの死骸を生きているエラが食べると急速進化する個体が生まれる危険性が高くなるためだ。
　だが、この作業が網を持ってする作業なので、不人気なことこの上ない。
　冒険者は、剣や魔法でするもので、薬草採取や街での手伝いなどはギルドに持ってくるなと言う者もいるくらいだ。

　「まぁ、分かります。ただ、進化個体が出た場合のペナルティーがあったかと思いますが。」
　「あるにはある。今回の場合は、ランクD以下に対して依頼受領命令が出ている。」
　「強敵には、ギルドでも高いランクの者。弱いが人数が必要な場合には、低いランクの者が、その任務に付くことが義務づけられていて、それに反すれば、それなりのペナルティーが基本ですが。」
　「ペナルティーも、そんなに重いものではないからな。」

　ペナルティーは、依頼ごとに異なってくるが、基本的に依頼主が決める事項で、ギルドマスターは過去のペナルティーについて情報を伝えるだけになっている。