ワンコイン

夜空のかけら

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第5話 情報は正確に

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 『裁縫用のはさみを買ってきて欲しいわ。』

 「これだけか?」
 「これだけです。」
 「依頼主は、誰?」
 「雑貨屋の奥さんです。」
 「…自分の店の商品から選ばせたのか。」
 「まぁ、サービス依頼のつもりでしょうね。」

 サービス依頼というのは、依頼料が格安の銅貨5枚での依頼のこと。
 成功時の報奨金がない代わりに、ランク上昇の際の実績としては、きっちりプラスされるものを言う。

 ギルドでは、寄付というものを受け付けていないが、こういったサービス依頼を受け付けていて、簡単に実績を得られる方法としてあった。
 初心者限定の依頼で、ランクEは1回、ランクFは2回限定というもの。

 「すると、依頼票だけで、やっちまったってことか。」
 「ええ、裁縫用のはさみと書いてあったので、特に考えずに、はさみを持って行ったそうですよ。」
 「何・の・はさみだったか聞いているかい。」
 「ええ、記憶の間違いがなければ、裁ちバサミだと思います。本当は、糸切りはさみが正解なんですけどね。」
 「へぇ~、正解も知っているんだ。」
 「お恥ずかしいことですが、あれ、私がギルド入会直後の依頼で初成功したものなので、よく覚えているんですよ。」
 「それは、驚いた。まぁ、あの方はお得意様だからね。初心者用クエストの。」
 「ええ、大変助かっています。だから、今回の騒動は、なんとも腹立たしいのです。」
 「あそこまで大騒ぎにすることはないし、依頼者にしっかり確認をしておけば…か。」

 依頼者でもあり、依頼品を扱っている店長でもある、今回の依頼内容は依頼というものの手順を実地で確認できるというものだった。
 手順通りの方法で依頼を受け、詳細を聞き、依頼品を届ければ終了。だが、手順を飛ばすと今回の事態になる。

 「そろそろ終わりですね。あらゆる意味で。」

 窓口にいる職員は3人に増え、職員と激しく口論をしている新人冒険者は、やってられないとばかりに振り向いて、周囲を囲んでいる戦闘職員に気が付き、固まってしまった。
 そこからは、展開が早く、戦闘職員が2人を拘束して、そのまま、ギルド内の拘留施設へ連れて行ってしまった。

 それを見ながら、職員が、

 「サービス依頼の失敗は、依頼手順の再教育だけって、知らなかったんでしょうね。それ以外のペナルティーなんてないのに、依頼人や職員への暴言や施設破壊やギルド自体の誹謗中傷まで出ると、矯正が大変だ。」

 そうつぶやくように言うと、さっきまでいた初心者用コーナーの惨状にため息を付いた。
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