異界審査官の巻き込まれ人生記

43 複写の世界

新しい情報が入ってくる。
しかし、魔法と同じで馴染みがないものばかりで全部を覚えるのは無理だと思った。
その科学文明側の巡視も行うのだと言う。

「巡視と言うか、どちらかと言えば観察が近いです。魔法文明側と違い、広大な空間のあちこちで崩壊が起きているのですから」
「観察。出来ることは何も無いということか？」
「そうです。拡大してきた世界は、ちょっとしたことで崩壊してしまうのです。助けることのできる場所には救済船が到着していますから、私たちに出来ることはほとんどありません」
「救済船、ノアの方舟か」
「近いイメージが『ノアの方舟』であって、必ずしも同じ役割をもっている訳ではありません。ある舟は、人命救助のため。ある舟は別世界への移住のため一部の住民を連れて行き、ある舟は最後の１人になるのをまっていたりします」
「最後の１人？なぜ、そこまで減るのを待っているのだ？」
「世界で最後の一人は、その世界での情報を全て保持しています。これは、ほとんどの世界でそのようになるようにプログラミングされており、いわば世界を代表する者となっています」
「さっきから世界世界と言っているけれど、星なの宇宙なの」
「正確な定義は存在しません。ただし、宇宙全体ではなくある一範囲を世界と呼んでいます」
「すると、地球という世界は、１つ。他の宇宙の惑星などで別の世界ということになるのか」
「その通りです。地球を中心とする世界と数百光年先の惑星を中心とする世界は別のものです」

なんとなく分かってきたぞ。
…あれ？ともえさんが壊した世界には、地球も含まれるのか？全く別の宇宙ではなかったのか？

「ともえさんが壊した世界には、地球があるのか？」
「あります。というか、科学文明側世界は地球がある宇宙のコピーですから」
「世界のコピー！」

驚いた。
世界をコピーできるのか、しかも地球がある宇宙の…ん、何か引っかかるものがあるな。何だろう。魔法と科学。科学はコピーだった。魔法は？

「魔法文明もコピーか？」
「コピーです」
「やっぱり」

するとモデル、コピー前のものが存在するのだろう。

「コピー前のものはどうなっているのか？」
「コピー前のものは、すでに存在しません。実験終了、素材に戻されています。ただし、実験開始時に数億回の複写が成されており、各々設定に基づく進化を記録しております。現在は、第３５７０回目の同時進化実験中です。ともえは実験に参加していませんが、概ね他と同様の進化状況となっていました。融合する前は」
「融合する前は？」
「…前は」

何か融合以上の不測の事態が生じたのだろうか？