異界審査官の巻き込まれ人生記

５ 審査開始

ともえさんが、出現した人に聞く。

「まず名前を言えるかしら？」
「たぶん、鈴木　総一郎です」
「鈴木さんね。年齢はいくつかしら」
「３５歳です」

その通りであると脳裏に情報が流れる。１９８０年１月１日生まれで２０１５年１０月１日没。３５歳だ。
しかし、天寿を全うしたと言うが若すぎないか？

「死因は何か分かっている？」
「たぶん、駅のホームから突き落とされたのだと思います。最後の記憶が電車のヘッドライトだったので」
「今も恐怖心はある？」
「いえ、なぜかやり遂げたという達成感があるだけです」

脳裏にその達成感とはの注釈が出て来た。
この人は、特別な使命を持って転生し、その使命を果たしてここに来たという。
使命とは、駅の安全対策としてのホームドアの設置を促すというもの。
そのための最期であり、その影響は鉄道会社や関係機関に大きいものとなっていた。
しかし、この使命がなければもっと生きていられたのではないか？いやいや、若い年齢ではなく老人となってからでも使命は果たせたのではないかと考えてしまう。
考えているうちに、ともえ様と鈴木さんの会話は続いていたようだ。

「一郎さん。審査中はできるだけ相手と話をして、相手の思いなどを聞かないとダメ。必要な情報以上のものを脳投影で入手出来るとしても、最終判断だけを言うなんて形だと相手に不信感を与えてしまうかもしれないわ。まぁ、今回の方は慣れているから大丈夫だけれど」
「ええ、今回も使命を果たせました。次もあれば引き受けます」
「その様子だと転生前の記憶が戻ってきているようね」
「はい。ともえ様もお久しぶりです」
「そうね。審査員に戻ってみる？しばらくぶりで」
「それもいいですね」

あれ？審査員？

「鈴木さんは、転生前はここの審査をしていたことがあるの。いわば、一郎さんの先輩ね。だから、お試しとしては最適な人だったの」
「まぁ、そういうことだ。新人君」
「そうでしたか。初めまして先輩さん」
「さて、審査結果を聞かせてくれるかな」

脳裏には、審査結果の選択が２つ出ていた。
１つは、天界へ転生すること。
もう１つは、私と同じ審査官としての任官だ。

「どちらを選んでもいいのですか？」
「ああ、それをするだけの権限は審査官にはある。もちろん、下された審査結果に不満があれば別の者による再審査もある。今回は、ともえ様がいるから再審査はないし、私としても審査結果に異論はないというか、今まで異論を言ったことはないな」
「それでは…」

ともえ様の方を見ると…

「どうぞ。どちらでも大丈夫よ」

その言葉で審査結果を決めた。

「審査官としての任官が審査結果となります」
「分かった。ありがとう」

お礼を言われてしまった。
でも、審査結果に問題はなかったと思う。相手も納得してもらえたようだし。
良かった。