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不器用 レベルMAX

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「きゃー、寝過ごしちゃった。どうしましょう、どうしましょう。こんな私じゃ婚約破棄されちゃうわ」
「ん?今日は日曜日。寝過ごしても大丈夫だよ。それと、婚約破棄はしないから安心して」

我が家は、婚約者の騒がしさから始まる。
彼女の実家の離れに2人で暮らしている。

実は、彼女。
かなりの不器用で、結婚する前にその体験をしておいた方が絶対いいと言われたからだ。

「日曜日。はぁ、よかった。朝食作るね」
「ああ…。ちょっと待て。日曜日は、俺が作ることにしたよな」

平日は、母屋(離れとは廊下で繋がっている)で取ってる。
結婚後も、ここで暮らすようになりそうだが。

「ええ~。でも、あ、お湯沸かすね」

なぜに?
どーん。バラバラバラ。ギギーバキッ
彼女を台所に立たせてはいけない。

台所で、爆発事故が発生する。
別に爆発物があるわけじゃないのだが。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。こんな私じゃ、結婚なんて無理よね。婚約破棄よね。仕方が無いわよね。だって、お湯を爆発させるんですもの」
「大丈夫。婚約破棄はしないよ。いつもの事だから」

いつも月曜日に、母屋に出入りする設備メーカーさんに修理してもらっている。
いいデータが取れるとかで、だんだん強度を強めているらしい。
修理代金は無料だ。
とても助かる。

「はぁ。あなたで良かった。普通の人だったら、今頃きっと婚約破棄されていたわね」

どう考えれば良い?
最近、あまり感じなくなってきた。麻痺?

「なら、片付けますね」
「ちょっと待った」
「え…、きゃー」

ちょっと遅かった。
予想通り見事に転んだ。
さっきのお湯が原因だが…

「きゃー、椅子がテーブルが棚が」

彼女が転んだ際に巻き込んだ物が崩れた。
どうやったら、壊れるのか知りたいが、いつも不思議だ。
ここも設備メーカーさんにお願いしている。

「大丈夫だったか?」
「ええ、大丈夫よ。でも婚約破棄されちゃうわね」
「しないから」

毎週のお約束だが、少しずつ変化がある。
いや、悪い方にだが。

「お風呂に行ってきます」

まぁ、お湯から水に戻った状態で転んでいるから全身水まみれな感じなんだが、

「どこのお風呂に行く?」
「実家の方を借ります」
「なら、連絡しておく」

彼女の管理?を実家にいる両親などの親族にお任せするための”業務連絡”が必要なのだ。
なにしろ、極度の方向音痴で家の中でも迷うほど。

「連絡したから行ってこい」
「はぁ~い」

彼女の後を憑けるように、迷子にならないように誘導して、親族…今回は彼女の母だったに引き渡す。

「いつもいつもありがとうね。この子の事は任せてって、まだ動かない」
「え~、早くお風呂に入りたい」

アイコンタクト?で、お願いしてから戻り散々たるありさまな場所を片付けていく。
今日は3食実家かな。

「きゃー、水が吹き出たわ~。これじゃあ、彼に婚約破棄されちゃうわ」
「いや、しないから」と後で言っておこう。

ここまで聞えるのは、どれだけの音量なのだろうか。
いや、聞き分けているのか。経験、積んだからな。

しばらくして、業務連絡が来た。
元の自分の部屋で休んでいるとか、なんでものぼせたらしい。
飽きさせない彼女は、面白い…じゃなくて、可愛い。
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