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第5章 奥さまたちの冒険
38 旗 亜希子
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メインシナリオ”今の伴侶ともう一度”
固定サブシナリオ:”舞踏会でダンスを楽しもう”
選択サブシナリオ:禁断の愛。それは、魅惑的な響きを持つ言葉。背徳的でもあり、あなたの心を惑わす人と禁断の愛を貫きましょう。
やっぱりこれでしょう。
他のみんなには、選択シナリオは、絶対にばれてはいけない。
ところが…
△△△△△運営からの要確認事項△△△△△
選択シナリオを禁断の愛としましたが、変更することは、できないでしょうか。
変更できる 変更できない
どちらかを選択して下さい。
変更可能な場合は、特例として別のシナリオの選択ができます。
△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△
何このメッセージ。
私が選んだシナリオにケチをつけるの。当然、”変更できない”を選択。
運営から、選択シナリオを了承しました。お手数をおかけしました。
というメッセージ。
この時は、なぜこんなメッセージが出たのか分からなかった。選択した通りに、サブシナリオに入れると思って安心していたので、些細なことと忘れてしまっていた。
トモエ天国には、家族4人で来た。
私(30歳)、旦那(50歳)、独立しているけれど休暇を取ってもらった長男(20歳)、次男(6歳)
当初のメインシナリオは、
”いつでも仲良し家族”
共通サブシナリオは、2つ選べるので、”貴族気分を味わおう”と”島外では難しい、贅沢を体験”
しかし、私の方は、メインシナリオを強制変更してしまったので、共通部分も消えてしまっていた。
のちに、旦那、長男、次男のサブシナリオは全く同じ(オプションは別)だとは思わなかった。私を除いた家族全員で、サブシナリオを同じ選択することを示し合わせていたという。
旦那は、オプションで”旅”を選択
長男は、オプションで”全知全能…たまにバカ(ボケ)”
次男は、長男と同じ年齢になって、あちこちに兄弟で行きたいと言っていたので、背伸び版(10歳未満しか選べないオプション。本来の年齢+10歳。サポート付き)を入れていた。
オプションは、旦那のポケットマネーだった(何かの支払いは、私がすることが多かったが、このトモエ天国関連費用は、旦那の口座から直接だったので、気が付かなかった)。
サブシナリオは、”お母さんを独占。甘えたい人におススメ”
私が禁断の愛を取ってしまったことで、この3人の選択で何が起こりそうか、予想がついてしまったらしい。そこで、運営側が要注意・要監視者リストに入れていたというのを聞いたのは、シナリオ終了後だった。
ただ、私の家族の特殊事情までは、知らなかったらしいけど。
***父side***
サブシナリオを選択し、オプション選択というものが出た。
いくつか除いたが、私に合うのは、これだ!と選んだのが、”旅編”。秘境や一度は見たい風景を見に行きましょうという内容。
ところが、メインシナリオを家族4人で共通にしたのにも関わらず、妻は、メインシナリオをキャンセルしましたというメッセージが出てしまい、当初の予定が狂った形になってしまった。
一人で行ってもつまらないとは、思ったものの、この機会を逃すことはもったいないとして、あちらこちらに行くことにした。共通のサブシナリオで、貴族・贅沢の2つを取ったため、優遇措置や金銭負担を感じず、あちこちに行くことができたのは、運がよかったと言うしかない。
このシナリオに入るにあたって、本来の年齢と同じ形で入るのは、味気ないと感じていたため、年齢設定を下限ぎりぎりの25歳に設定した。現状の年齢の半分を差し引くのが限界らしく、40歳以上しか選べないという限定ものだった。
兄弟たちも同じシナリオを選択していたが、オプションが違ったためか、みんなバラバラになってしまったようだった。それも、少し残念に思っていた。
あちこちを旅するうちに、外の世界の自分よりも強靭でしかも精悍な顔つきになっていたらしく、たまに帰宅するために街を歩いていると、あっという間にイケメンがいたとかで大騒ぎになっていた。
あまりの騒ぎの大きさに、街に入る一般門ではなく、貴族街の専用門(貴族門)から入ることにした。貴族門とあるものの、外壁と街区の間に3枚の防壁があり、直接通路で接しいない。
移動には専用の一方通行の転送用ポートがある。馬車ごと転送できる規模なので、非常に便利なのだが、転送時に不審者が貴族門を通行しないか調べるための透過装置がある。透過装置によって、パーソナルカードから必要な情報が、門衛の詰所に転送され、許可されない者がないかのチェックと馬車内の荷物などに対しての確認が行われ、不正があると、不審人物や不正品の没収が行われる。
そのため、透過装置を嫌う人や違法物品を扱う者などは、この貴族門を使いたがらないと言われている。
なにはともあれ、この貴族門を使えば、街の人に追いかけられることもないだろうと、思っていたが、それは間違いのようだ。私の屋敷の門扉前に見知らぬ女性がいた。この場にいられるということは、貴族なのかもしれない。別に屋敷の門扉ではなくても屋敷内に入れるが、コートの襟を立たせたうえで、帽子を深めにかぶり、視界が暗くなるのであまり気に入っていないサングラスを付け、この屋敷の人ではありませんよ…という出で立ちで、女性に近づいた。そして、
「そんな風に門扉前に立つと、家主は迷惑をしているのではないかい。」
返答などは何もなし。
繰り返して、さっきの言葉を聞いた途端、こちらへ顔を向けて、こう言い放つ。
「あの人に気に入られれば、地位もお金も使い放題。なんとしても、気に入ってもらう。邪魔。」
ああ、これは、ダメなタイプだ。そうなれば、無視して、さっさと屋敷に入ってしまおう。と思い、門扉の隣の壁に手を付けて、屋敷内に転移した。
屋敷に入る方法は、いくつかあるが、普通は、門扉を開けて入る。普通に玄関から入るということ。他には、屋敷の周囲の壁。すなわち門扉以外の場所から入る。秘密ドアみたいなもの。転移で入る。貴族門には、使用料が取られるが、転移門が設定されていて、それぞれの貴族家に転移で入ることができる。
私は、歩くのが好きな影響か、転移をあまり使わなかったけれど、こういうことがあるならば、考えないといけないかな。金銭的な問題はないから。
旅はいい。あちらこちらに行くことができるからだが。
ただし、感動を分かり合える家族がいない状態は、少し寂しい。私が、子供たちを探すよりも、子供たちが、私を探し出してくれるのを待とうと思う。
特に、お兄ちゃんは優秀だから、そんなに時間は掛からずに、再会することになるとは思う。
だから、お父さんは旅を続けることにするよ。
***弟side***
みんなの共通シナリオだったのに、トモエ天国に入った途端、お母さんのシナリオがキャンセルされて、どこかに行ってしまった。すごく悲しかった。
しかも、お父さんもお兄ちゃんも2人とも中に入ったらいなくて、どうしようか迷ってしまった。
背伸び版のサポート機能がなかったら、早々にリタイアしていたと思う。僕の年齢は、6歳だけど、背伸び版の設定によって16歳になってる。でも、僕のしゃべり方が16歳なのかと言われると違うと思う。16歳にしては、幼いと感じるんじゃないかな。自分でも、そう思うもん。
お母さんを探して、当初の予定通り、独り占めしたい。いつも通りとも言えるけど、他の2人がいると、夕方には独り占めできなくなる。
でも、お兄ちゃんがすぐに僕を見つけてしまうと思う。お兄ちゃん、頭良すぎ。その頭のいいお兄ちゃんが勤務しているのは、ここらしい。僕は、お兄ちゃんから、お父さんとお母さんには内緒という指切りげんまんしてから教えてもらった。
でも、お母さんにだけは発覚しないように、別の会社に勤務している…という形にしてあるんだって。なんでそうしたのかは、教えてくれなかった。
お父さんは、いいのと聞いたら、興味がないだろうから、問題ないって。お父さんよりもお兄ちゃんの方が頭がいいからかもしれないね。
でも、お母さんは、お兄ちゃんよりも頭がいいってこと?お兄ちゃんに聞いたら、お母さんは直感で動いたり話たりすることがあって、それが恐ろしいからという理由だって。
よく分からない。頭がいいお兄ちゃんだけに、何かあのかも。
16歳になると、王城で舞踏会にダンスを踊ることになる。
僕は、背伸び版で16歳になっている。だから、実際は6歳でもダンスを踊る権利を持ってる。
ダンスなんて、どうやればいいか分からない。だから、お兄ちゃんに教えてもらうつもり。
早く、お兄ちゃんが僕を見つけてくれないかな。そう言えば、お父さんも見つけないとダメだよね。絶対、お父さんから探そうとはしないよね。お父さんもお兄ちゃんの頭の良さに期待しているだろうから、普通に旅を楽しんでいるんじゃないかな。
でも、僕は何をすればいいんだろう。お金があっても、家族以外の人と接するのは、苦手。幼稚園で一緒だったとしても、苦手は変わらない。
お兄ちゃん、まだかなぁ~。お腹減ったよ。
***お兄ちゃんside***
みんなの共通シナリオだったはずなのに、母が消えた。大方、こっそり別のシナリオでもやっているのだろう。
いつも自分では、家族思いだと言っておきながら、別行動をすることが多かった。そして、そのたびに、俺が全員を見つけ出すことになる。見つけられないと、自分が悪い癖に、家族愛がないとか言いやがる。誰が、波長を乱しているのか分かっていない。
しかもだ、父も弟も自分から動こうとしない。ひたすら、俺が来るまで待っているタイプ。弟は文字通り動かないが、面倒なのは父だ。探さないだけで、自分の希望は通すから、きっと観光旅行に単独で行っているのだろう。
とすれば、弟を探さないといけない。たぶん、本当に動いていない。食事はもとより、トイレにも行っていないぞ。トイレは、幼稚園の時でさえも園の中では、したことがなくて、家族が傍にいないとできないほどだった。入学式の時も同じ。これで、学校に通えるのか、かなり不安だ。
共通シナリオから、どこかの貴族の家にいると思うけど、実際はよくわからない。案外、トモエ天国に入った大門の近くに座っているのかもしれない。俺が出てきた大門の周りを見てみるが、そういう感じの人はいなかった。たしか、弟は背伸び版で16歳になっている。ただし、纏う雰囲気は前のままだと思うから、すぐに見つけられそうだ。
大門は、王城を中心とした4か所にある。貴族以外の場合は、この大門を巡るには、一旦街の中央にある街区壁(がいくへき)で唯一、隣の街区に移動できる区門(くもん)を通る必要がある。
ただ、今の俺の身分は、貴族となっている。だから、一々、街区に出る必要はなく、大門を逆行して、そこの門衛に話を付け、他の大門で、こちらの条件の合う人がいないか問い合わせた。すると、俺が出た大門とちょうど反対側に、該当者が見つかった。
すぐに、反対側の大門に転送してもらい、その者を教えてもらうと、案の定、弟の雰囲気。なんだか、お腹がすいたと言っている。まぁ、いつも通りと言えば、いつも通り。その男に声を掛けたら、やっぱり弟だった。
弟は、やっぱり待っててよかったとか言ってる。とりあえずは、飯を食う必要があるだろう。あちこちに歩き回るのは、面倒だったので、屋台を数軒回って調達。父が巡っているであろう、旅の情報を得ることにした。
シナリオの概要は聞いているので、貴族街にある貴族専用の旅行カウンターに行くことにした。そこで、旅行に関しては、あらかじめ決められた順番で巡ることが決まっており、安全性の面から、誰がどこへ行くのかをあらかじめ連絡することになっているという。個人情報保護とか、面倒くさいことを言い始めたので、こちらの2人の身分とシナリオを開示したのに、それでもダメだと言う。
仕方がないので、俺たちも観光することにして、最初から10番目までを一括報告。カウンターの人には、一度にそんなに行くことはできないと言われたが、先ほどの個人情報保護の影響で全部回らないと探し出せないと嫌味を言ってやった。それで、向こうの人は折れたのか、今現在、連絡がされている旅行先について開示してくれた。そうすると、最初から10番目までを旅しているのは、全部で5人。うち、男性は3人だと言う。
男性の3人の連絡状況も聞けたので、連絡先に行くことを決め、その足で最初の旅行先へ飛ぶ。お金は有り余るほどあるので、案内人と高速移動ができる乗物をチャーターしていくことに。
目的は、観光ではなく父探しなので、あっと言う間に見つけた。案内人が、こちらの現状を聞いてからが早かったのもある。業務用の転移装置を使ってくれたからだ。
父は、のんびり観光をしていた。こっちは大変だったと言えば、いつも通りじゃないかとほざく。
あとは、母だが、あっちは何もしなくてもこっちに近寄ってくる。無意識で。ただ、それだけでは気に喰わない。何か、相手がびっくりするような事を仕掛けてやろうと思った。
幸い、俺たち3人のシナリオは、オプションこそ違うが”お母さんを独占。甘えたい人におススメ”だ。ちょっと、ネーミングセンスが可笑しいが、知らぬ間に近寄ってくる母とシナリオ的に母に近づくダブル効果を狙おう。父は若作りをしたのか、俺と似た様相になってるし、弟は背伸び版とかで16歳。
3人揃って兄弟と言える範囲だと思う。全員貴族だし、元々同じ屋敷の者だから、これで通してしまおう。弟は16歳で、この国の成人年齢にちょうど達したくらい。近いうちに、王城で舞踏会が開かれる。それに参加指示が王家から出ている以上、参加決定だ。
多数の来場者があることから、そこで母は見つかるだろう。
そこでだ。罠を仕掛ける。大した罠ではないが。俺が母の雰囲気を持つ女の衣装を汚す。その女に対して、別のドレスを提示し、その場で求婚。責任を取ってという訳ではないが。父と弟を出し、女に、それぞれ自分のタイプだからと言い張らせ、取り合いを演じてもらう。いや、演じる必要はないか。女に対して、本当の自分とばれないように素を出してもらえばいい。
舞踏会は、1曲目に婚約者同士、2曲目が約束した相手となる。本来ならば、2曲目にて踊ることになるだろうが、こちらは父が当主という身分に変更すればいい。こちらは、貴族の中でも一番上で、他に同列の身分はいないから、押し通せる。万が一のこともあるから、あらかじめあちこちの茶会に出て、目星を付けておくのも手か。
そうと決まれば、弟のダンスのレッスン、父の身分を当主にして、必要最低限の情報を記録させておこう。俺の方は、このままでも問題なかろう。一応、これまでの貴族だけは記録しておくことにしようか。
ただ、時間がないのも事実。記録の方は、金に物言わせて、データを直接注入した。追加情報も入れたので、最近貴族になった者や今回の舞踏会に参加する者、茶会などの情報ももらった。
記録された情報から、行動パターンが母に似ている女を3人まで絞り込めた。最も、たぶんこいつだろうと言うのは、既にその中にいる。良くも悪くも、行動がパターン化されていて、分かりやすい。
ただし、本人はもちろん、他のだれからも、どこがパターン化されているのか分からない。よほど、お母さんの事が好きなんだねとよく言われる。心外だ。家族を探し出すのが、俺が求められている役割。未だに、家族の誰かがいなくなると、捜索要請が俺に来る。別居している理由も説明したのに、そんなことは関係ないらしい。
ともえ様に何回無理を聞いてもらったか、数えたくもない。その都度、ともえ様が労っていただいているのが、せめてもの救いだと思う。
ただ、今回の件は、絶対ともえ様も関与している。運営内で俺が知らない新シナリオを考案中と聞いたことがある。なぜか、関係者以外は関与できないと言われたが、シナリオプログラム責任者が知らないのもおかしな話で、そうなる可能性は、身内が関与している場合となる。概ね、予想はあっているだろう。事前調査の結果、やはりパターン化された行動をしていた女が母だろうという目安は付いた。
しかし、問題もある。婚約者付きだった。この婚約者を蹴落とす必要がある。どうやら、政略結婚らしい。おかしな話。この世界だと、政略結婚自体があり得ない。別に利権がどうというのはなく、悪く言えば、なんちゃって貴族。義務もなければ責務もない。入島する際の身分をお金で買っているわけだから、その身分でできることなら、何でもできる。政略結婚なんていうのは、意味がない。あるとすれば、シナリオに沿っているからだと言える。となれば、どこかに穴があるはずだ。双方の情報を精査した結果、婚約破棄がセットされているようだ。婚約破棄は、母と政略結婚する予定の男との間で発生。男が捨てられ、母が意中の男と結婚するとなっていた。
では、この意中の男を蹴落とす対象にして、こちらが身分を笠に強引に婚姻してしまおう。婚約などしなくてもいいだろう。ちょうど、16歳になって、初めて出る舞踏会で成人になったと判断。結婚適齢期になるのだから。念のため、王にも話を付けておくか。ついでだから、相手の親にも身分を明かし、本人には秘密で外堀を埋めてしまおう。
結論から言えば、うまくいった。婚約破棄に伴い、母は意中の男を得る寸前に、こちらから、その男の違法行為を指摘、列席した王の許可をもらって、舞踏会会場のテラスから、文字通り蹴落としてやった。
そして、王から事前にもらっていた許可証と俺の身分の下、その場で結婚宣言をしてやった。母は、茫然としていたが、ある意味、いつも通りだと思っていたので、何をしているのかという感じ。種明かしをする前に、食って掛かられた。何でも、あれが理想の男だと言う。こちらから、説明をさらにするも、混乱状態になってきたので、思わず母の口を、俺の口で塞いでしまった。反射的にしてしまった。当然、それを見ていた隣にいた父と弟は固まっていた。よほど驚いたのだろう、母はそのまま倒れそうになったので、倒れないように抱きしめたのだが、それもさらにまずかったらしい。父はうずくまっていたし、弟はしゃがみ込んでしまった。母の温かさと胸が当たる感触。弟が生まれる前に抱いてもらった時と同じだと、一瞬遠くに行きそうになった。気が付くと、思いっきり抱きしめながら、ディープなキスをしてしまっていた。
種明かしをしても、父と母、弟は、無言のまま。特に、母の動揺はすごくて、落ち着くまで時間がかかった。
結局のところ、シナリオはクリアした。クリアしたのは、なぜか母と俺。
聞けば、今の伴侶ともう一度 というメインシナリオをやっていたという。
確かに、俺の隣には、父もいたので、クリア条件にはなっていると思うし、俺も一時的とはいえ、甘えた?と思うので、クリアしたとは思う。かなり複雑な感じだが。
そして、現在。
ともえ様のご厚意により、”おかしな世界”から、家族で移住することにした。あの記録が他の人も見られることになっていると聞いてからの決断は早かった。
このままでは居られない。
当初、ともえ様は爆笑してらした。
とても、先を見越した対応は無理かと思ったが、いっそのこと、屋敷の方で、トモエ天国ではない、本当の天国…いや天界で大きな仕事をしてみないかと誘われたのだ。渡りに船ということで、すぐに俺は移住することにした。それを家族に言い、しばらく会いに来れないと話をしたときに、真っ先に俺についていくことを言ったのは母だった。
トモエ天国から、移住までの間に心を復活補強させ、父を差し置いて、結婚しようと言ってきた。
それは、さすがに無理と言ったら、トモエ天国でのことを持ち出され、父をかなり強引に説得し、弟を利用して迫ってきた。どうしようもなく、ともえ様に相談。そうしたら、すればいいじゃない という、耳を疑う回答。
ともえ様のうっかりによって、”おかしな世界”に変化したとき、そこに居住している者がどうなったかの調査から、兄弟姉妹親子などの遺伝情報や各種本能などを全体調査をしたらしい。結果は、遺伝関係は全てなくなっている。禁忌や本能も、”おかしな世界”に変容した時、それぞれの種族によって、違うものとなっていて、元々は家族でも、今は別々の種族。母子で結婚しても、遺伝的な問題もないよ~だった。
こうなるとは、思わなかったが、俺は、シナリオ通りに母を妻として、独占。母は、禁断の愛(どうしてそんなものを取った!)を貫けるようになった。
弟には、かなり先まで、恨まれることになったが。
(父は、しばらくすると、今までと同じになった。)
***
とある屋敷のとある2人の会話
???「またか、今回のは、一段とひどいな」
???「心外な。相談を受けたから、心が軽くなるようにアドバイスしたのに。」
???「そもそも、シナリオを選んだ、旗さんの話がないぞ。」
???「細かいことを言わない。幸せを2人とも掴んだのだから、それ以上は野暮よ。」
???「違うと思うが。」
???「違わないわよ。あの家族は、ぎりぎりだから。」
???「ぎりぎり?」
???「長男さんは、旦那さんと前妻さんの養子よ。で、今の奥さんは、後妻。後妻となった旗さんの子供は、前の夫の連れ子。前の夫とは死別。つまり…。」
???「旦那さんの血を引く子供はいない。奥さんの血を引く子も同様。旦那さんよりも養子で入った長男の方が、後妻との年齢差が短い…しかも、”おかしな世界”になった時点で、ぎりぎりでも、さらに倫理観や本能もバラバラ…ということは?」
???「あとは察しなさいよ。」
???「よくわからんが。」
???「(ギロリ)」
???「………。」
固定サブシナリオ:”舞踏会でダンスを楽しもう”
選択サブシナリオ:禁断の愛。それは、魅惑的な響きを持つ言葉。背徳的でもあり、あなたの心を惑わす人と禁断の愛を貫きましょう。
やっぱりこれでしょう。
他のみんなには、選択シナリオは、絶対にばれてはいけない。
ところが…
△△△△△運営からの要確認事項△△△△△
選択シナリオを禁断の愛としましたが、変更することは、できないでしょうか。
変更できる 変更できない
どちらかを選択して下さい。
変更可能な場合は、特例として別のシナリオの選択ができます。
△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△
何このメッセージ。
私が選んだシナリオにケチをつけるの。当然、”変更できない”を選択。
運営から、選択シナリオを了承しました。お手数をおかけしました。
というメッセージ。
この時は、なぜこんなメッセージが出たのか分からなかった。選択した通りに、サブシナリオに入れると思って安心していたので、些細なことと忘れてしまっていた。
トモエ天国には、家族4人で来た。
私(30歳)、旦那(50歳)、独立しているけれど休暇を取ってもらった長男(20歳)、次男(6歳)
当初のメインシナリオは、
”いつでも仲良し家族”
共通サブシナリオは、2つ選べるので、”貴族気分を味わおう”と”島外では難しい、贅沢を体験”
しかし、私の方は、メインシナリオを強制変更してしまったので、共通部分も消えてしまっていた。
のちに、旦那、長男、次男のサブシナリオは全く同じ(オプションは別)だとは思わなかった。私を除いた家族全員で、サブシナリオを同じ選択することを示し合わせていたという。
旦那は、オプションで”旅”を選択
長男は、オプションで”全知全能…たまにバカ(ボケ)”
次男は、長男と同じ年齢になって、あちこちに兄弟で行きたいと言っていたので、背伸び版(10歳未満しか選べないオプション。本来の年齢+10歳。サポート付き)を入れていた。
オプションは、旦那のポケットマネーだった(何かの支払いは、私がすることが多かったが、このトモエ天国関連費用は、旦那の口座から直接だったので、気が付かなかった)。
サブシナリオは、”お母さんを独占。甘えたい人におススメ”
私が禁断の愛を取ってしまったことで、この3人の選択で何が起こりそうか、予想がついてしまったらしい。そこで、運営側が要注意・要監視者リストに入れていたというのを聞いたのは、シナリオ終了後だった。
ただ、私の家族の特殊事情までは、知らなかったらしいけど。
***父side***
サブシナリオを選択し、オプション選択というものが出た。
いくつか除いたが、私に合うのは、これだ!と選んだのが、”旅編”。秘境や一度は見たい風景を見に行きましょうという内容。
ところが、メインシナリオを家族4人で共通にしたのにも関わらず、妻は、メインシナリオをキャンセルしましたというメッセージが出てしまい、当初の予定が狂った形になってしまった。
一人で行ってもつまらないとは、思ったものの、この機会を逃すことはもったいないとして、あちらこちらに行くことにした。共通のサブシナリオで、貴族・贅沢の2つを取ったため、優遇措置や金銭負担を感じず、あちこちに行くことができたのは、運がよかったと言うしかない。
このシナリオに入るにあたって、本来の年齢と同じ形で入るのは、味気ないと感じていたため、年齢設定を下限ぎりぎりの25歳に設定した。現状の年齢の半分を差し引くのが限界らしく、40歳以上しか選べないという限定ものだった。
兄弟たちも同じシナリオを選択していたが、オプションが違ったためか、みんなバラバラになってしまったようだった。それも、少し残念に思っていた。
あちこちを旅するうちに、外の世界の自分よりも強靭でしかも精悍な顔つきになっていたらしく、たまに帰宅するために街を歩いていると、あっという間にイケメンがいたとかで大騒ぎになっていた。
あまりの騒ぎの大きさに、街に入る一般門ではなく、貴族街の専用門(貴族門)から入ることにした。貴族門とあるものの、外壁と街区の間に3枚の防壁があり、直接通路で接しいない。
移動には専用の一方通行の転送用ポートがある。馬車ごと転送できる規模なので、非常に便利なのだが、転送時に不審者が貴族門を通行しないか調べるための透過装置がある。透過装置によって、パーソナルカードから必要な情報が、門衛の詰所に転送され、許可されない者がないかのチェックと馬車内の荷物などに対しての確認が行われ、不正があると、不審人物や不正品の没収が行われる。
そのため、透過装置を嫌う人や違法物品を扱う者などは、この貴族門を使いたがらないと言われている。
なにはともあれ、この貴族門を使えば、街の人に追いかけられることもないだろうと、思っていたが、それは間違いのようだ。私の屋敷の門扉前に見知らぬ女性がいた。この場にいられるということは、貴族なのかもしれない。別に屋敷の門扉ではなくても屋敷内に入れるが、コートの襟を立たせたうえで、帽子を深めにかぶり、視界が暗くなるのであまり気に入っていないサングラスを付け、この屋敷の人ではありませんよ…という出で立ちで、女性に近づいた。そして、
「そんな風に門扉前に立つと、家主は迷惑をしているのではないかい。」
返答などは何もなし。
繰り返して、さっきの言葉を聞いた途端、こちらへ顔を向けて、こう言い放つ。
「あの人に気に入られれば、地位もお金も使い放題。なんとしても、気に入ってもらう。邪魔。」
ああ、これは、ダメなタイプだ。そうなれば、無視して、さっさと屋敷に入ってしまおう。と思い、門扉の隣の壁に手を付けて、屋敷内に転移した。
屋敷に入る方法は、いくつかあるが、普通は、門扉を開けて入る。普通に玄関から入るということ。他には、屋敷の周囲の壁。すなわち門扉以外の場所から入る。秘密ドアみたいなもの。転移で入る。貴族門には、使用料が取られるが、転移門が設定されていて、それぞれの貴族家に転移で入ることができる。
私は、歩くのが好きな影響か、転移をあまり使わなかったけれど、こういうことがあるならば、考えないといけないかな。金銭的な問題はないから。
旅はいい。あちらこちらに行くことができるからだが。
ただし、感動を分かり合える家族がいない状態は、少し寂しい。私が、子供たちを探すよりも、子供たちが、私を探し出してくれるのを待とうと思う。
特に、お兄ちゃんは優秀だから、そんなに時間は掛からずに、再会することになるとは思う。
だから、お父さんは旅を続けることにするよ。
***弟side***
みんなの共通シナリオだったのに、トモエ天国に入った途端、お母さんのシナリオがキャンセルされて、どこかに行ってしまった。すごく悲しかった。
しかも、お父さんもお兄ちゃんも2人とも中に入ったらいなくて、どうしようか迷ってしまった。
背伸び版のサポート機能がなかったら、早々にリタイアしていたと思う。僕の年齢は、6歳だけど、背伸び版の設定によって16歳になってる。でも、僕のしゃべり方が16歳なのかと言われると違うと思う。16歳にしては、幼いと感じるんじゃないかな。自分でも、そう思うもん。
お母さんを探して、当初の予定通り、独り占めしたい。いつも通りとも言えるけど、他の2人がいると、夕方には独り占めできなくなる。
でも、お兄ちゃんがすぐに僕を見つけてしまうと思う。お兄ちゃん、頭良すぎ。その頭のいいお兄ちゃんが勤務しているのは、ここらしい。僕は、お兄ちゃんから、お父さんとお母さんには内緒という指切りげんまんしてから教えてもらった。
でも、お母さんにだけは発覚しないように、別の会社に勤務している…という形にしてあるんだって。なんでそうしたのかは、教えてくれなかった。
お父さんは、いいのと聞いたら、興味がないだろうから、問題ないって。お父さんよりもお兄ちゃんの方が頭がいいからかもしれないね。
でも、お母さんは、お兄ちゃんよりも頭がいいってこと?お兄ちゃんに聞いたら、お母さんは直感で動いたり話たりすることがあって、それが恐ろしいからという理由だって。
よく分からない。頭がいいお兄ちゃんだけに、何かあのかも。
16歳になると、王城で舞踏会にダンスを踊ることになる。
僕は、背伸び版で16歳になっている。だから、実際は6歳でもダンスを踊る権利を持ってる。
ダンスなんて、どうやればいいか分からない。だから、お兄ちゃんに教えてもらうつもり。
早く、お兄ちゃんが僕を見つけてくれないかな。そう言えば、お父さんも見つけないとダメだよね。絶対、お父さんから探そうとはしないよね。お父さんもお兄ちゃんの頭の良さに期待しているだろうから、普通に旅を楽しんでいるんじゃないかな。
でも、僕は何をすればいいんだろう。お金があっても、家族以外の人と接するのは、苦手。幼稚園で一緒だったとしても、苦手は変わらない。
お兄ちゃん、まだかなぁ~。お腹減ったよ。
***お兄ちゃんside***
みんなの共通シナリオだったはずなのに、母が消えた。大方、こっそり別のシナリオでもやっているのだろう。
いつも自分では、家族思いだと言っておきながら、別行動をすることが多かった。そして、そのたびに、俺が全員を見つけ出すことになる。見つけられないと、自分が悪い癖に、家族愛がないとか言いやがる。誰が、波長を乱しているのか分かっていない。
しかもだ、父も弟も自分から動こうとしない。ひたすら、俺が来るまで待っているタイプ。弟は文字通り動かないが、面倒なのは父だ。探さないだけで、自分の希望は通すから、きっと観光旅行に単独で行っているのだろう。
とすれば、弟を探さないといけない。たぶん、本当に動いていない。食事はもとより、トイレにも行っていないぞ。トイレは、幼稚園の時でさえも園の中では、したことがなくて、家族が傍にいないとできないほどだった。入学式の時も同じ。これで、学校に通えるのか、かなり不安だ。
共通シナリオから、どこかの貴族の家にいると思うけど、実際はよくわからない。案外、トモエ天国に入った大門の近くに座っているのかもしれない。俺が出てきた大門の周りを見てみるが、そういう感じの人はいなかった。たしか、弟は背伸び版で16歳になっている。ただし、纏う雰囲気は前のままだと思うから、すぐに見つけられそうだ。
大門は、王城を中心とした4か所にある。貴族以外の場合は、この大門を巡るには、一旦街の中央にある街区壁(がいくへき)で唯一、隣の街区に移動できる区門(くもん)を通る必要がある。
ただ、今の俺の身分は、貴族となっている。だから、一々、街区に出る必要はなく、大門を逆行して、そこの門衛に話を付け、他の大門で、こちらの条件の合う人がいないか問い合わせた。すると、俺が出た大門とちょうど反対側に、該当者が見つかった。
すぐに、反対側の大門に転送してもらい、その者を教えてもらうと、案の定、弟の雰囲気。なんだか、お腹がすいたと言っている。まぁ、いつも通りと言えば、いつも通り。その男に声を掛けたら、やっぱり弟だった。
弟は、やっぱり待っててよかったとか言ってる。とりあえずは、飯を食う必要があるだろう。あちこちに歩き回るのは、面倒だったので、屋台を数軒回って調達。父が巡っているであろう、旅の情報を得ることにした。
シナリオの概要は聞いているので、貴族街にある貴族専用の旅行カウンターに行くことにした。そこで、旅行に関しては、あらかじめ決められた順番で巡ることが決まっており、安全性の面から、誰がどこへ行くのかをあらかじめ連絡することになっているという。個人情報保護とか、面倒くさいことを言い始めたので、こちらの2人の身分とシナリオを開示したのに、それでもダメだと言う。
仕方がないので、俺たちも観光することにして、最初から10番目までを一括報告。カウンターの人には、一度にそんなに行くことはできないと言われたが、先ほどの個人情報保護の影響で全部回らないと探し出せないと嫌味を言ってやった。それで、向こうの人は折れたのか、今現在、連絡がされている旅行先について開示してくれた。そうすると、最初から10番目までを旅しているのは、全部で5人。うち、男性は3人だと言う。
男性の3人の連絡状況も聞けたので、連絡先に行くことを決め、その足で最初の旅行先へ飛ぶ。お金は有り余るほどあるので、案内人と高速移動ができる乗物をチャーターしていくことに。
目的は、観光ではなく父探しなので、あっと言う間に見つけた。案内人が、こちらの現状を聞いてからが早かったのもある。業務用の転移装置を使ってくれたからだ。
父は、のんびり観光をしていた。こっちは大変だったと言えば、いつも通りじゃないかとほざく。
あとは、母だが、あっちは何もしなくてもこっちに近寄ってくる。無意識で。ただ、それだけでは気に喰わない。何か、相手がびっくりするような事を仕掛けてやろうと思った。
幸い、俺たち3人のシナリオは、オプションこそ違うが”お母さんを独占。甘えたい人におススメ”だ。ちょっと、ネーミングセンスが可笑しいが、知らぬ間に近寄ってくる母とシナリオ的に母に近づくダブル効果を狙おう。父は若作りをしたのか、俺と似た様相になってるし、弟は背伸び版とかで16歳。
3人揃って兄弟と言える範囲だと思う。全員貴族だし、元々同じ屋敷の者だから、これで通してしまおう。弟は16歳で、この国の成人年齢にちょうど達したくらい。近いうちに、王城で舞踏会が開かれる。それに参加指示が王家から出ている以上、参加決定だ。
多数の来場者があることから、そこで母は見つかるだろう。
そこでだ。罠を仕掛ける。大した罠ではないが。俺が母の雰囲気を持つ女の衣装を汚す。その女に対して、別のドレスを提示し、その場で求婚。責任を取ってという訳ではないが。父と弟を出し、女に、それぞれ自分のタイプだからと言い張らせ、取り合いを演じてもらう。いや、演じる必要はないか。女に対して、本当の自分とばれないように素を出してもらえばいい。
舞踏会は、1曲目に婚約者同士、2曲目が約束した相手となる。本来ならば、2曲目にて踊ることになるだろうが、こちらは父が当主という身分に変更すればいい。こちらは、貴族の中でも一番上で、他に同列の身分はいないから、押し通せる。万が一のこともあるから、あらかじめあちこちの茶会に出て、目星を付けておくのも手か。
そうと決まれば、弟のダンスのレッスン、父の身分を当主にして、必要最低限の情報を記録させておこう。俺の方は、このままでも問題なかろう。一応、これまでの貴族だけは記録しておくことにしようか。
ただ、時間がないのも事実。記録の方は、金に物言わせて、データを直接注入した。追加情報も入れたので、最近貴族になった者や今回の舞踏会に参加する者、茶会などの情報ももらった。
記録された情報から、行動パターンが母に似ている女を3人まで絞り込めた。最も、たぶんこいつだろうと言うのは、既にその中にいる。良くも悪くも、行動がパターン化されていて、分かりやすい。
ただし、本人はもちろん、他のだれからも、どこがパターン化されているのか分からない。よほど、お母さんの事が好きなんだねとよく言われる。心外だ。家族を探し出すのが、俺が求められている役割。未だに、家族の誰かがいなくなると、捜索要請が俺に来る。別居している理由も説明したのに、そんなことは関係ないらしい。
ともえ様に何回無理を聞いてもらったか、数えたくもない。その都度、ともえ様が労っていただいているのが、せめてもの救いだと思う。
ただ、今回の件は、絶対ともえ様も関与している。運営内で俺が知らない新シナリオを考案中と聞いたことがある。なぜか、関係者以外は関与できないと言われたが、シナリオプログラム責任者が知らないのもおかしな話で、そうなる可能性は、身内が関与している場合となる。概ね、予想はあっているだろう。事前調査の結果、やはりパターン化された行動をしていた女が母だろうという目安は付いた。
しかし、問題もある。婚約者付きだった。この婚約者を蹴落とす必要がある。どうやら、政略結婚らしい。おかしな話。この世界だと、政略結婚自体があり得ない。別に利権がどうというのはなく、悪く言えば、なんちゃって貴族。義務もなければ責務もない。入島する際の身分をお金で買っているわけだから、その身分でできることなら、何でもできる。政略結婚なんていうのは、意味がない。あるとすれば、シナリオに沿っているからだと言える。となれば、どこかに穴があるはずだ。双方の情報を精査した結果、婚約破棄がセットされているようだ。婚約破棄は、母と政略結婚する予定の男との間で発生。男が捨てられ、母が意中の男と結婚するとなっていた。
では、この意中の男を蹴落とす対象にして、こちらが身分を笠に強引に婚姻してしまおう。婚約などしなくてもいいだろう。ちょうど、16歳になって、初めて出る舞踏会で成人になったと判断。結婚適齢期になるのだから。念のため、王にも話を付けておくか。ついでだから、相手の親にも身分を明かし、本人には秘密で外堀を埋めてしまおう。
結論から言えば、うまくいった。婚約破棄に伴い、母は意中の男を得る寸前に、こちらから、その男の違法行為を指摘、列席した王の許可をもらって、舞踏会会場のテラスから、文字通り蹴落としてやった。
そして、王から事前にもらっていた許可証と俺の身分の下、その場で結婚宣言をしてやった。母は、茫然としていたが、ある意味、いつも通りだと思っていたので、何をしているのかという感じ。種明かしをする前に、食って掛かられた。何でも、あれが理想の男だと言う。こちらから、説明をさらにするも、混乱状態になってきたので、思わず母の口を、俺の口で塞いでしまった。反射的にしてしまった。当然、それを見ていた隣にいた父と弟は固まっていた。よほど驚いたのだろう、母はそのまま倒れそうになったので、倒れないように抱きしめたのだが、それもさらにまずかったらしい。父はうずくまっていたし、弟はしゃがみ込んでしまった。母の温かさと胸が当たる感触。弟が生まれる前に抱いてもらった時と同じだと、一瞬遠くに行きそうになった。気が付くと、思いっきり抱きしめながら、ディープなキスをしてしまっていた。
種明かしをしても、父と母、弟は、無言のまま。特に、母の動揺はすごくて、落ち着くまで時間がかかった。
結局のところ、シナリオはクリアした。クリアしたのは、なぜか母と俺。
聞けば、今の伴侶ともう一度 というメインシナリオをやっていたという。
確かに、俺の隣には、父もいたので、クリア条件にはなっていると思うし、俺も一時的とはいえ、甘えた?と思うので、クリアしたとは思う。かなり複雑な感じだが。
そして、現在。
ともえ様のご厚意により、”おかしな世界”から、家族で移住することにした。あの記録が他の人も見られることになっていると聞いてからの決断は早かった。
このままでは居られない。
当初、ともえ様は爆笑してらした。
とても、先を見越した対応は無理かと思ったが、いっそのこと、屋敷の方で、トモエ天国ではない、本当の天国…いや天界で大きな仕事をしてみないかと誘われたのだ。渡りに船ということで、すぐに俺は移住することにした。それを家族に言い、しばらく会いに来れないと話をしたときに、真っ先に俺についていくことを言ったのは母だった。
トモエ天国から、移住までの間に心を復活補強させ、父を差し置いて、結婚しようと言ってきた。
それは、さすがに無理と言ったら、トモエ天国でのことを持ち出され、父をかなり強引に説得し、弟を利用して迫ってきた。どうしようもなく、ともえ様に相談。そうしたら、すればいいじゃない という、耳を疑う回答。
ともえ様のうっかりによって、”おかしな世界”に変化したとき、そこに居住している者がどうなったかの調査から、兄弟姉妹親子などの遺伝情報や各種本能などを全体調査をしたらしい。結果は、遺伝関係は全てなくなっている。禁忌や本能も、”おかしな世界”に変容した時、それぞれの種族によって、違うものとなっていて、元々は家族でも、今は別々の種族。母子で結婚しても、遺伝的な問題もないよ~だった。
こうなるとは、思わなかったが、俺は、シナリオ通りに母を妻として、独占。母は、禁断の愛(どうしてそんなものを取った!)を貫けるようになった。
弟には、かなり先まで、恨まれることになったが。
(父は、しばらくすると、今までと同じになった。)
***
とある屋敷のとある2人の会話
???「またか、今回のは、一段とひどいな」
???「心外な。相談を受けたから、心が軽くなるようにアドバイスしたのに。」
???「そもそも、シナリオを選んだ、旗さんの話がないぞ。」
???「細かいことを言わない。幸せを2人とも掴んだのだから、それ以上は野暮よ。」
???「違うと思うが。」
???「違わないわよ。あの家族は、ぎりぎりだから。」
???「ぎりぎり?」
???「長男さんは、旦那さんと前妻さんの養子よ。で、今の奥さんは、後妻。後妻となった旗さんの子供は、前の夫の連れ子。前の夫とは死別。つまり…。」
???「旦那さんの血を引く子供はいない。奥さんの血を引く子も同様。旦那さんよりも養子で入った長男の方が、後妻との年齢差が短い…しかも、”おかしな世界”になった時点で、ぎりぎりでも、さらに倫理観や本能もバラバラ…ということは?」
???「あとは察しなさいよ。」
???「よくわからんが。」
???「(ギロリ)」
???「………。」
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