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一章【始まり】
8.休息
しおりを挟む「「……さん、……ルさん、ゲイルさん!」」
ワースとアスカの声が聞こえる。
「ゲイルさん、心配したんですよ」
「悪いな、アスカ」
「……身体は大丈夫なんですか?」
「心配しなくても大丈夫だ、ワース」
……そうか俺、ヒュドラと戦って……ギルドにそのまま転移したんだった。
だが、ここは宿屋の一室だ。まさか、俺を心配してここまで運んできたのか?
「ありがとうな。早朝みたいだが、俺どれくらい寝てた?」
「昨日……ゲイルさんが、傷だらけの状態で転移してきてから半日は眠っていました」
「ゲイルさん、すいません。僕たちのせいで……」
やけに重い空気でそう言われ、自身の身体を見渡すと左腕と右足が欠損したままだった。【痛覚遮断】で、気づかなかったけど表情が暗かったのはこれが原因か。
「アスカ、ワースそんな顔するな。大丈夫だ、これぐらいなら……」
治癒魔法を使ってもいいが、ここはスキル【治療薬調合】で治すとするか。
スキル【治療薬貯蔵庫】から取り出した天級治癒薬と天級毒消薬を、調合し傷を癒し毒素も抜くことが出来る万能薬を作る。
「こ、これは一体?」
薬を調合する様子を見たアスカが、そう口にする。
スキルなんだけど、どう説明すれば分りやすかな。
「これは、万能薬だ。見ておいてくれ、もう罪悪感は感じなくて良くなるから」
俺にとって、この傷は謝るほどのことじゃない。そう言いながら、万能薬を開けて口に運ぶ。
薬はかけることでも使用できるが、口から摂取すると【回復薬治癒向上】スキルが発動して治癒能力が向上する。
ゴクゴク。
薬を飲むと、効果はすぐに現れ疲労なども含めて身体が万全の状態へと戻った。
「す、凄い」
「言ったろ?傷はもうない。だから罪悪感を抱くなよ。あの戦いだって、俺がやりたくてしたことなんだから」
そう言って、ワースとアスカにもう謝るなよ、と念を押した。
「ゲイルさんって、あの時も聞いたんですけど……スキルたくさん持っているんですね」
「持っていても、良いことばっかりじゃないよ」
ワースは俺にそう言ってくれたけど、俺はそれに嬉しさは感じない。俺は確かに圧倒的なスキルの数を持っている。
他の人よりスキルを持っていて強いスキルを持っていた俺は、万能感に浸っていた。伝記上の英雄『三大魔』『三大妖』『唯一邪神』を、全て一人で”殺した”と言われている”英雄王ヘスラ”のようになりたかった。
けど、今では後悔している。悔しいし、過去の自分が憎い。だって、そのせいで兄さんが、父さんが、母さんが死んだから。
え……兄さん?父さん?母さん?
俺は、森に捨てられていたそうだ。そしてそんな俺を、拾ってくれたのが爺さんだった。
身寄りのない俺を、育ててくれた。やさしい人だ。確かに俺には、爺さんしか記憶にないはずなのに――どうして家族のことを思い浮かべたんだ?
忘れた記憶のようなものが、微かに見えたのを感じた。
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