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第4章 天界取材
閑話 シルクスの憂鬱な休日②
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調べてもらった場所へと転移して、三十メートルほど向こうにエルマー様の気配を察知して浮かれていた時、不意に後ろから腕を掴まれて近くの路地に引きずり込まれた。
咄嗟に攻撃魔法を発動しそうになったのを、街中では使用禁止だったと落ち着かせながら振り向くと、学生時代によく一緒にいた仲間の内の一人、先で言う悪友その3がいたんだ。
驚いてどうしたのか聞くと、僕たちが学生時代に作ったとある団体がちょっと困ったことになってるから助けて欲しいと頼まれて、有無を言わさずここに転移で連れてこられた。
因みに、なんで僕の行動を把握していたかというと、調べ物をしてもらっていた友人からのリークだった。
あいつ後でシめ…、ゴホン、今日の分のお礼は無しだな。
転移で連れてこられた場所は、学生時代にその団体の活動をするときに使っていた空店舗(潰れたバー)で、残されていた店の備品の状態が良かったため、気に入っていた場所だった。
そこには既に他の悪友三名が揃っていて、ボロボロの学生が跪かされていた。
推し活を邪魔されてイライラしていた僕は、何があったのかを不機嫌を隠すことなく問い質した。
学生時代に作った団体『シス団』は、僕と悪友四人で作った不良更生団体だ。
人間は天使の事を慈愛に満ちた存在だと、かなり美化しているようだけど、実際は不良や問題児も一定数存在する。そいつらを更生させる目的の為に作ったのがシス団だ。
というのは建前で、本当はエルマー様在学中に問題を起こして迷惑を掛ける奴を片っ端からボコ…、ゲフン、厳重注意していたら、いつの間にか仲間にしてほしいって人が増えていって、学校非公認の巨大な団体になってしまったんだよね。
団の本当の設立理由を知っているのは、僕たち五人だけ。
だったんだけど、エルマー様が卒業してからも仲間構成員は増え続けて、僕たち創立メンバーが卒業した後も、団は引き継がれているってわけ。
こんな大きな団体になるなんて思ってなかったから、卒業して団長を引退できた時は、本当に嬉しかったなあ。僕よりも血の気が多い悪友が四人もいて、幹部だったとか、今思うと恐ろしいよね。
で、目の前に居るボロボロの学生は、今の団長と幹部たち。本当はもう二人か三人くらい幹部が居た方がよかったんだけど、素質のある奴が居なかったんだよね。
なんでボロボロになってるかというと、僕が来る前に悪友たちの拳の教育制裁を受けたから。
僕らが卒業する時点で構成い、じゃなくて仲間…、もういっか。構成員の数は80名ほどだったんだけど、卒業してからも増え続けて、と言ってもまだ数か月しか経ってないはずなんだけど、120名にまで膨れ上がっている。
その全員をたった幹部三名で抑えるのは大変で、どうしても目の行き届かない部分が出てくる。その行き届かなかった部分が、今回問題を起こしたんだと。
幹部の人数を増やすことは構成員に知らせていたんだけど、選出方法や基準までは教えてなかった。
それが悪かったのか、問題児をより多く更生させた人が幹部になれると嘘の情報が出回り、それを信じた幹部になりたい構成員の何人かが競い合って、早い話が短期間に大量の不良をボコったらしい。
で、それを警備軍に就職した悪友その4が聞きつけて、独自に調べた結果、構成員を御しきれなかった幹部三名がここへ呼ばれて、事情聴取を受けて、ブチ切れちゃった一番血の気が多い悪友その1とその2に、制裁を受けたんだと。
そこへ、前団長の僕が久しぶりの休日で出かけていると聞きつけた悪友その3に、僕は拉致られたってわけ。
「本当、迷惑なんだよね。僕、今忙しいの、知ってるでしょ?なんで大人しくできないの?今日だって、一週間ぶりの休日だったんだよ?」
「申し訳っ、ありません…!」
「わかってるならさ、こうなる前に何でもっと早く動かなかったの。問題児の動向なんて、警備軍よりも僕らの方が詳しいのにさ」
「それは…っ、その、試験期間と被っていて…」
「だから何。僕たちだって試験はあったよ。でもちゃんと団の運営もやってたの、知ってるでしょ」
「しかし、前団長方が居た時よりも、構成員の数は増えていますし!幹部の人数も少ないです!それなのに」
「なに、言い訳?」
「――っ、…いいえ」
ああ、イライラするなあ、もう。
エルマー様には会えないし。折角の休日が丸潰れだよ。
八つ当たりなのはわかってるけど、でもその原因を作ったのはこいつらだから、しょうがないよね。
僕がかなりイラついているのが分かっている悪友たちは、一言も発さない。たぶんこいつらだけで繋いだ通信魔法であーだこーだ言われてるんだろうなあ。
* * *
(おい、ブチ切れじゃねえかよ。誰だよシルクス連れてきたの)
(人のせいにしないでよ!全員一致でシルクス呼ぼうってなったじゃん!)
(それに、こいつらに灸をすえる役目は、やっぱシルクスが一番効くしな。この見た目で昔から番長張ってたんだし)
(そーそー。俺たちの中で昔から一番の問題児だったんだから。でもエルマー様のおかげでだいぶ丸くなったよなー)
(ホントそう。後輩たちには今のシルクスでも恐ろしいだろうけど、エルマー様に出会う前はもっと強烈だったもんね)
(伝説の『巻羽番長』な。二回り以上も体の大きな相手にも一切怯まず挑んで全勝とか、ホント恐ろしいやつだよ)
(それがエルマー様に出会った途端、不良辞めるとか言い出した時は、明日世界が終わるのかと思ったよね)
(シス団作った時もさ、更生した不良が、新たな不良を更生させるとか、よく思いついたもんだ)
* * *
僕の黒歴史についてあーだこーだ言いたい放題言われているなんて知らない僕は、目の前の使えない現幹部三人に、しつこくネチネチと八つ当たりを気が済むまで続けた。
エルマー様が将来治める天界に、不良はいらないんだ。
澄み切った青空色のその目には、綺麗な天界だけを映していて欲しいんだ。
だから、シス団を作ったし、僕が卒業しても続いていくように後継者も育てた。
たくさんの後輩の中でも、リーダーシップが高い奴を団長に据えて次代の幹部に決めたけど、なんていうかカリスマ性みたいなものが足りないんだよね。
僕がカリスマかと言われるとわかんないけどさ。
だからなのか、今回のようなことが起こった訳で。
「後継者選び、間違えちゃったかなあ」
「っ!!そ、それは……っ」
現団長の顔が青くなる。
あ、やば、声に出てたみたい。ま、いっか。
自分の不甲斐なさはもう十分わかってるみたいだから、虐めるのはこれくらいにして、現状の解決策を練ることにする。
僕の空気が変わったのを感じ取った悪友たちは、今回大量に不良をボコった当事者と幹部三人に、何の制裁を与えるかを相談し始めた。
ついでに、新たに幹部を四名増やすことも決まった。とりあえず現職の三名はそのままで、今後の働き次第で団長の入れ替わりもあり、ということに落ち着いた。
+ + + + +
シス団は勿論『シルクス団』の略。
恥ずかしいからやめろと抗議したけど、結局悪友たちの悪乗りで強引にシス団に決まっちゃったようです。
フルネームじゃないからまあいっかと、今は結構どうでもいいやと思ってます。
咄嗟に攻撃魔法を発動しそうになったのを、街中では使用禁止だったと落ち着かせながら振り向くと、学生時代によく一緒にいた仲間の内の一人、先で言う悪友その3がいたんだ。
驚いてどうしたのか聞くと、僕たちが学生時代に作ったとある団体がちょっと困ったことになってるから助けて欲しいと頼まれて、有無を言わさずここに転移で連れてこられた。
因みに、なんで僕の行動を把握していたかというと、調べ物をしてもらっていた友人からのリークだった。
あいつ後でシめ…、ゴホン、今日の分のお礼は無しだな。
転移で連れてこられた場所は、学生時代にその団体の活動をするときに使っていた空店舗(潰れたバー)で、残されていた店の備品の状態が良かったため、気に入っていた場所だった。
そこには既に他の悪友三名が揃っていて、ボロボロの学生が跪かされていた。
推し活を邪魔されてイライラしていた僕は、何があったのかを不機嫌を隠すことなく問い質した。
学生時代に作った団体『シス団』は、僕と悪友四人で作った不良更生団体だ。
人間は天使の事を慈愛に満ちた存在だと、かなり美化しているようだけど、実際は不良や問題児も一定数存在する。そいつらを更生させる目的の為に作ったのがシス団だ。
というのは建前で、本当はエルマー様在学中に問題を起こして迷惑を掛ける奴を片っ端からボコ…、ゲフン、厳重注意していたら、いつの間にか仲間にしてほしいって人が増えていって、学校非公認の巨大な団体になってしまったんだよね。
団の本当の設立理由を知っているのは、僕たち五人だけ。
だったんだけど、エルマー様が卒業してからも仲間構成員は増え続けて、僕たち創立メンバーが卒業した後も、団は引き継がれているってわけ。
こんな大きな団体になるなんて思ってなかったから、卒業して団長を引退できた時は、本当に嬉しかったなあ。僕よりも血の気が多い悪友が四人もいて、幹部だったとか、今思うと恐ろしいよね。
で、目の前に居るボロボロの学生は、今の団長と幹部たち。本当はもう二人か三人くらい幹部が居た方がよかったんだけど、素質のある奴が居なかったんだよね。
なんでボロボロになってるかというと、僕が来る前に悪友たちの拳の教育制裁を受けたから。
僕らが卒業する時点で構成い、じゃなくて仲間…、もういっか。構成員の数は80名ほどだったんだけど、卒業してからも増え続けて、と言ってもまだ数か月しか経ってないはずなんだけど、120名にまで膨れ上がっている。
その全員をたった幹部三名で抑えるのは大変で、どうしても目の行き届かない部分が出てくる。その行き届かなかった部分が、今回問題を起こしたんだと。
幹部の人数を増やすことは構成員に知らせていたんだけど、選出方法や基準までは教えてなかった。
それが悪かったのか、問題児をより多く更生させた人が幹部になれると嘘の情報が出回り、それを信じた幹部になりたい構成員の何人かが競い合って、早い話が短期間に大量の不良をボコったらしい。
で、それを警備軍に就職した悪友その4が聞きつけて、独自に調べた結果、構成員を御しきれなかった幹部三名がここへ呼ばれて、事情聴取を受けて、ブチ切れちゃった一番血の気が多い悪友その1とその2に、制裁を受けたんだと。
そこへ、前団長の僕が久しぶりの休日で出かけていると聞きつけた悪友その3に、僕は拉致られたってわけ。
「本当、迷惑なんだよね。僕、今忙しいの、知ってるでしょ?なんで大人しくできないの?今日だって、一週間ぶりの休日だったんだよ?」
「申し訳っ、ありません…!」
「わかってるならさ、こうなる前に何でもっと早く動かなかったの。問題児の動向なんて、警備軍よりも僕らの方が詳しいのにさ」
「それは…っ、その、試験期間と被っていて…」
「だから何。僕たちだって試験はあったよ。でもちゃんと団の運営もやってたの、知ってるでしょ」
「しかし、前団長方が居た時よりも、構成員の数は増えていますし!幹部の人数も少ないです!それなのに」
「なに、言い訳?」
「――っ、…いいえ」
ああ、イライラするなあ、もう。
エルマー様には会えないし。折角の休日が丸潰れだよ。
八つ当たりなのはわかってるけど、でもその原因を作ったのはこいつらだから、しょうがないよね。
僕がかなりイラついているのが分かっている悪友たちは、一言も発さない。たぶんこいつらだけで繋いだ通信魔法であーだこーだ言われてるんだろうなあ。
* * *
(おい、ブチ切れじゃねえかよ。誰だよシルクス連れてきたの)
(人のせいにしないでよ!全員一致でシルクス呼ぼうってなったじゃん!)
(それに、こいつらに灸をすえる役目は、やっぱシルクスが一番効くしな。この見た目で昔から番長張ってたんだし)
(そーそー。俺たちの中で昔から一番の問題児だったんだから。でもエルマー様のおかげでだいぶ丸くなったよなー)
(ホントそう。後輩たちには今のシルクスでも恐ろしいだろうけど、エルマー様に出会う前はもっと強烈だったもんね)
(伝説の『巻羽番長』な。二回り以上も体の大きな相手にも一切怯まず挑んで全勝とか、ホント恐ろしいやつだよ)
(それがエルマー様に出会った途端、不良辞めるとか言い出した時は、明日世界が終わるのかと思ったよね)
(シス団作った時もさ、更生した不良が、新たな不良を更生させるとか、よく思いついたもんだ)
* * *
僕の黒歴史についてあーだこーだ言いたい放題言われているなんて知らない僕は、目の前の使えない現幹部三人に、しつこくネチネチと八つ当たりを気が済むまで続けた。
エルマー様が将来治める天界に、不良はいらないんだ。
澄み切った青空色のその目には、綺麗な天界だけを映していて欲しいんだ。
だから、シス団を作ったし、僕が卒業しても続いていくように後継者も育てた。
たくさんの後輩の中でも、リーダーシップが高い奴を団長に据えて次代の幹部に決めたけど、なんていうかカリスマ性みたいなものが足りないんだよね。
僕がカリスマかと言われるとわかんないけどさ。
だからなのか、今回のようなことが起こった訳で。
「後継者選び、間違えちゃったかなあ」
「っ!!そ、それは……っ」
現団長の顔が青くなる。
あ、やば、声に出てたみたい。ま、いっか。
自分の不甲斐なさはもう十分わかってるみたいだから、虐めるのはこれくらいにして、現状の解決策を練ることにする。
僕の空気が変わったのを感じ取った悪友たちは、今回大量に不良をボコった当事者と幹部三人に、何の制裁を与えるかを相談し始めた。
ついでに、新たに幹部を四名増やすことも決まった。とりあえず現職の三名はそのままで、今後の働き次第で団長の入れ替わりもあり、ということに落ち着いた。
+ + + + +
シス団は勿論『シルクス団』の略。
恥ずかしいからやめろと抗議したけど、結局悪友たちの悪乗りで強引にシス団に決まっちゃったようです。
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