59 / 92
第4章 天界取材
56話 天界料理と
しおりを挟む
自分に宛がわれたホテルの部屋で丸一日、デスクワークに勤しんでいると、突然リンリンとドアベルが鳴った。
扉を開けるとエルマーがいて、「ご飯まだでしょ?一緒に食べよ」とどこかの店でテイクアウトしてきたらしき包みを見せてくれる。
そう言えば、集中していて朝食を食べた切り何も食べていない。時計を見ると、夜の六時を回っていた。
自覚した途端、クゥ~とお腹が鳴った。
とりあえずエルマーに部屋に入ってもらい、ダイニングへ向かうと、先ほどまで作業していたぐちゃぐちゃの状態のテーブルが目に入る。
資料や取材ノートが大量にあるため、広いダイニングテーブルに広げて作業していたのだ。
「散らかったままでごめんね。すぐ片付けるね」
「気にしないで。そうだ、気分転換にベランダで食べない?ここ景色良いし、今の時間、夜景がきれいに見えるでしょ」
そう言ってエルマーはベランダに出て、テーブルとイスをセッティングして、買ってきてくれた食事をキッチンから持ってきた皿に並べていく。
あっと言う間に、即席とは思えないくらい華やかなディナーテーブルが出来上がった。
そしてそこには、見たことのある料理の数々が並んでいる。
「エルマー、この料理って……」
「この前行った店、気に入ってたでしょ?だから店長にお願いして、テイクアウトさせてもらったんだ」
何日か前の昼食で寄ったレストランでの食事がかなり美味しくて、確かに気に入っていた。
特に口に出したわけでもないのに、気づいてくれていて、わざわざ私の為にテイクアウトしてきてくれたなんて。
悪戯が成功した子どものような笑顔でこちらを見ているエルマーと目が合い、ドキドキと胸が高まる。
「ありがとう。すっごく嬉しい!」
「喜んでもらえてよかった。さぁ、冷めない内に食べよう」
席にエスコートされて、料理も取り分けてもらって、まるで高級レストランに来たみたいにエルマーが給仕してくれる。
彼が自分の分も取り分けて席に着いてから、一緒に食べ始める。
初めて食べた時もそうだったが、やはりすごく美味しい。
天界で採れる食材を使った伝統的な天界料理を出すレストランなのだが、これまで食べた天界料理のなかで一番口に合うのだ。
伝統的な天界料理は、人間からするとかなり独特の味付けの物が多い。
食材の持ち味なのか、調理の仕方なのか、味付けなのかはわからないが、とにかく地上界では食べたことのない味で、酸っぱいような、しょっぱいような、苦いような、甘いような、そんな複雑な味だ。
食べられないことはないのだが、もう一度食べたいかと言われると返答に困る感じなのだ。
それをこの店の店主は、地上界の料理を研究し、天界料理に活かせないか長い年月研究に研究を重ね、この味に辿り着いたのだそうだ。
人間にはもちろん、天使の間でも好評で、美味しい伝統天界料理が食べられる店として人気が出始めているらしい。
「この店を見つけた時は、本当に衝撃を受けたよ。昔から食べていた料理が、こんなに美味しくなるなんてって」
エルマーがこの店を見つけたのは偶然で、それからシャンエルさんとニエルヴァさんと三人で頻繁に通うようになったそうだ。
エルマーは天界で有名人のようだから、彼らが通う美味しい店として少しずつ認知度が高まってきているんだろう。
天界料理は、その食材自体がどれも色彩豊かでカラフルだ。
サラダに使われている野菜を見ても、パステルイエローのじゃがいものような見た目の野菜はトマトに近い味がするし、鮮やかな紫の花の蕾のような野菜はキュウリのような食感と味がする。カラフルな野菜の上からは、白の中に金色の粒が混ざったドレッシングが掛かっている。
メインのシチューのような煮込み料理は、どんなに混ぜても混ざり切らない、ショッキングピンクと黄緑のマーブル模様。具材も、藍色の肉にオレンジの花弁、アイボリーの南瓜っぽいものが入っている。
ポリポリとした食感の、萌黄色と菫色の細長い葉のピクルス。
添えられたパンは、真っ白で綿あめみたいなロールパン。
青空色の飲み物はワインの味がする。
目にも賑やかな視界いっぱいに広がる料理たちは、そのどれもが色彩からは想像できないくらい美味しい。
初めて食べる人は、頭が混乱するだろう。
「シエナの事だから、この後もまだ仕事するんでしょ?だから、お酒はノンアルコールワインだよ」
だから遠慮せずに飲んでねと、私の行動パターンをこの十日ほどで知り尽くしたエルマーが、グラスに注いでくれる。
その気遣いを有難く享受し、二人で色んな話をしながら楽しく美味しく頂いた。
「シエナって、本当に美味しそうに食べるよね。僕この野菜苦手なんだけど、シエナを見てると食べてみたくなっちゃうよ」
「食べるの好きなんだもん。食い意地が張ってるだけだよ」
「そんなことないよ!たくさん食べる人って、魅力的にみえるよ」
「じゃあ、リトは大食いだから魅力的に見えてるってことだね!」
「それはない」
「あははっ!即答!」
眼下には美しくライトアップされた公園が広がり、その向こうにはホテル群から漏れる光がキラキラと輝いている。
楽しい会話と美味しい食事、隣には気兼ねなく冗談も言い合えるようになったエルマー。
心がポカポカするような、愛おしい時間がゆっくりと流れていった。
扉を開けるとエルマーがいて、「ご飯まだでしょ?一緒に食べよ」とどこかの店でテイクアウトしてきたらしき包みを見せてくれる。
そう言えば、集中していて朝食を食べた切り何も食べていない。時計を見ると、夜の六時を回っていた。
自覚した途端、クゥ~とお腹が鳴った。
とりあえずエルマーに部屋に入ってもらい、ダイニングへ向かうと、先ほどまで作業していたぐちゃぐちゃの状態のテーブルが目に入る。
資料や取材ノートが大量にあるため、広いダイニングテーブルに広げて作業していたのだ。
「散らかったままでごめんね。すぐ片付けるね」
「気にしないで。そうだ、気分転換にベランダで食べない?ここ景色良いし、今の時間、夜景がきれいに見えるでしょ」
そう言ってエルマーはベランダに出て、テーブルとイスをセッティングして、買ってきてくれた食事をキッチンから持ってきた皿に並べていく。
あっと言う間に、即席とは思えないくらい華やかなディナーテーブルが出来上がった。
そしてそこには、見たことのある料理の数々が並んでいる。
「エルマー、この料理って……」
「この前行った店、気に入ってたでしょ?だから店長にお願いして、テイクアウトさせてもらったんだ」
何日か前の昼食で寄ったレストランでの食事がかなり美味しくて、確かに気に入っていた。
特に口に出したわけでもないのに、気づいてくれていて、わざわざ私の為にテイクアウトしてきてくれたなんて。
悪戯が成功した子どものような笑顔でこちらを見ているエルマーと目が合い、ドキドキと胸が高まる。
「ありがとう。すっごく嬉しい!」
「喜んでもらえてよかった。さぁ、冷めない内に食べよう」
席にエスコートされて、料理も取り分けてもらって、まるで高級レストランに来たみたいにエルマーが給仕してくれる。
彼が自分の分も取り分けて席に着いてから、一緒に食べ始める。
初めて食べた時もそうだったが、やはりすごく美味しい。
天界で採れる食材を使った伝統的な天界料理を出すレストランなのだが、これまで食べた天界料理のなかで一番口に合うのだ。
伝統的な天界料理は、人間からするとかなり独特の味付けの物が多い。
食材の持ち味なのか、調理の仕方なのか、味付けなのかはわからないが、とにかく地上界では食べたことのない味で、酸っぱいような、しょっぱいような、苦いような、甘いような、そんな複雑な味だ。
食べられないことはないのだが、もう一度食べたいかと言われると返答に困る感じなのだ。
それをこの店の店主は、地上界の料理を研究し、天界料理に活かせないか長い年月研究に研究を重ね、この味に辿り着いたのだそうだ。
人間にはもちろん、天使の間でも好評で、美味しい伝統天界料理が食べられる店として人気が出始めているらしい。
「この店を見つけた時は、本当に衝撃を受けたよ。昔から食べていた料理が、こんなに美味しくなるなんてって」
エルマーがこの店を見つけたのは偶然で、それからシャンエルさんとニエルヴァさんと三人で頻繁に通うようになったそうだ。
エルマーは天界で有名人のようだから、彼らが通う美味しい店として少しずつ認知度が高まってきているんだろう。
天界料理は、その食材自体がどれも色彩豊かでカラフルだ。
サラダに使われている野菜を見ても、パステルイエローのじゃがいものような見た目の野菜はトマトに近い味がするし、鮮やかな紫の花の蕾のような野菜はキュウリのような食感と味がする。カラフルな野菜の上からは、白の中に金色の粒が混ざったドレッシングが掛かっている。
メインのシチューのような煮込み料理は、どんなに混ぜても混ざり切らない、ショッキングピンクと黄緑のマーブル模様。具材も、藍色の肉にオレンジの花弁、アイボリーの南瓜っぽいものが入っている。
ポリポリとした食感の、萌黄色と菫色の細長い葉のピクルス。
添えられたパンは、真っ白で綿あめみたいなロールパン。
青空色の飲み物はワインの味がする。
目にも賑やかな視界いっぱいに広がる料理たちは、そのどれもが色彩からは想像できないくらい美味しい。
初めて食べる人は、頭が混乱するだろう。
「シエナの事だから、この後もまだ仕事するんでしょ?だから、お酒はノンアルコールワインだよ」
だから遠慮せずに飲んでねと、私の行動パターンをこの十日ほどで知り尽くしたエルマーが、グラスに注いでくれる。
その気遣いを有難く享受し、二人で色んな話をしながら楽しく美味しく頂いた。
「シエナって、本当に美味しそうに食べるよね。僕この野菜苦手なんだけど、シエナを見てると食べてみたくなっちゃうよ」
「食べるの好きなんだもん。食い意地が張ってるだけだよ」
「そんなことないよ!たくさん食べる人って、魅力的にみえるよ」
「じゃあ、リトは大食いだから魅力的に見えてるってことだね!」
「それはない」
「あははっ!即答!」
眼下には美しくライトアップされた公園が広がり、その向こうにはホテル群から漏れる光がキラキラと輝いている。
楽しい会話と美味しい食事、隣には気兼ねなく冗談も言い合えるようになったエルマー。
心がポカポカするような、愛おしい時間がゆっくりと流れていった。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
裏切りメイドの甘い贖罪
のじか
恋愛
騎士クロードに仕えるメイドのミルルの本当の顔。それは敵対派閥から送り込まれたスパイだった。ミルルは雇い主の指示を受けてクロードの執務室を漁るが、その現場をクロードに押さえられてしまい、尋問を受けることになる……。
※メイドがエッチな尋問と言葉責めを受け、無理矢理される過程で淫乱に目覚めていく話です
※このお話はムーンライトノベルズ様にて短編として投稿しています。
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
【R18】幼馴染な陛下は、わたくしのおっぱいお好きですか?💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に告白したら、両思いだと分かったので、甘々な毎日になりました。
でも陛下、本当にわたくしに御不満はございませんか?
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる