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第3章 いざ、天界へ!

43話 天界側の転移門

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 門を潜る時は、温い水に潜ったような感触が全身に一瞬だけして、2歩も歩くと反対側へと出た。
 目の前には、白と青が様々な色調で張り合わされている美しいステンドグラスが視界いっぱいに広がっている。よく見ると、白いガラスで天使を模しており、ちょうど私達が立っている正面に一際大きな両腕を広げた天使が白く輝いていて、羽の生えた馬や鳥などと一緒に少し小さめの天使が寄り添うように周りを囲んでいる。

「ようこそ天界へ!無事のご到着、何よりです!」

 美しいガラスに感動していると、職員らしき天使が声を掛けてきた。
 声がした方を向くと、オレンジがかった短い金髪をぴょんぴょん跳ねさせた、薄い黄緑色の瞳をした男性…というよりは少年のほうがしっくりくる、既視感のある色合いの男の人が、私達に、というよりエルマーさんに近づいてきた。
 白いジャケットに白いシャツ、白い蝶ネクタイ、白い膝丈のズボン、白い靴下に白い編み上げブーツ。
 全身真っ白で、これまた既視感のあるぴょんっと跳ねた癖羽が目立つ翼をはためかせながら、たれ目気味の目を細めた人懐っこい笑顔で、エルマーさんと仲良さげに喋っている。

「シルクス、また背が伸びた?」
「んふふ、そうなんです!エルマー様を追い越すのも、時間の問題です!」
「ええ~」

 シルクスと呼ばれた彼の頭を撫でていたエルマーさんが、「仕事しなさい」と言うと、ハッとした彼がコホンと恥ずかしそうに一つ咳をしてから、こちらへ向き直った。

「失礼致しました。改めまして、皆様ようこそ天界へ!転移門案内人のシルクスと申します!」
「シルクスは、ピルカの弟なんですよ。似てるでしょ?」

 なるほど、姉弟でしたか。どうりで似てるはずだ。
 彼もエルマーさんの学生時代の後輩で、今年から転移門で働き始めたらしい。
 挨拶を済ませると、時間を少し取ってあるので好きなだけ撮影していいと、許可が下りた。トンゴさんは二度目の天界だが、前回とは違う転移門だったらしく、早速あちこち写真に収めている。


 天界側の転移門も円型台の上にあり、地上界側と同様に周りに羽が舞っている。
 後ろを振り返って見ると、羽でかたどられた門が建っていて、手を伸ばすと見えない壁のようなものが指先に当たった。 
 どうやらこちら側からは向こうへ通れないらしい。
 前を向くと、先ほど目を奪われた大きなステンドグラスがあり、周りをよく見ると、それはこの空間の壁をぐるっと一周していた。地上界側の部屋よりは狭い空間らしく、円柱型の部屋の真ん中に一段高い円型台が設置されている。
 上を見上げると、地上界側と同じようにドーム型になっていて、その向こうには青空と雲が透けて見えた。

 台から降りようと一歩踏み出すと、左手が引っ張られる感覚がした。引っ張られるというよりも、しっかりと握られていて動かないといった感じだ。
 振り向くと、血の気の引いた顔色の悪いリトが、繋いでない方の手を口元に当てて立っていた。

「えっ、リト大丈夫!?どうしたの!?」
「…………酔った」
「…………はい?」
「転移酔いですね。たまにいらっしゃるんですよ。向こうに休憩できる所があるので、そこで暫く休みましょうか」

 シルクスさんに連れていかれたリトは、ベンチに座るや否やダウンしてしまった。
 心配していると、エルマーさんが側へやってきた。
「少し休めば治りますから、大丈夫ですよ。人間でいう乗り物酔いのようなものですからね」

 異界転移魔法は、人間に対しては過剰なほど対策がされているのだが、天使悪魔に対しては自分でどうにかできるため、最低限の保護魔法しか組み込まれていないそうだ。
 そもそも転移魔法とは、転移させる対象を分子レベルに一度分解したものを、設定した座標まで飛ばして、再び構築するというもので、分解した分子を飛ばす時に、細かく震えながら飛んでいくので、所謂乗り物酔いに似た感覚が起こるらしい。
 転移酔いは人それぞれで、全く平気な人もいれば、リトのように酷く酔ってしまう人もいるのだとか。
 転移酔いを治す治癒魔法があるので、それを発動して暫く休めば、すぐに元通りに元気になるから大丈夫だと言われ、心配はするが近くにいてもできることはないので、気持ちを切り替えることにした。

 シルクスさんが、エルマーさんとキャピキャピ話しながら翼でリトを雑に仰いでいるのを横目に、トンゴさんとあちこち写真を撮って、リトが回復するのを待った。

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