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第3章 いざ、天界へ!

42話 転移

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 ふと円型台の向こう側を見ると、トンゴさんが様々な角度からこの空間の写真を何枚も撮っていた。
 私も撮っておこうかな、と二人から離れようとした時、天使が一人近づいてくるのが見えた。

 オレンジ掛かっている腰まである長い金髪を後ろの高い位置で一つに括り、薄い黄緑色の瞳をしたタレ目のかわいらしい女性天使だ。
 彼女は、白いジャケットに白いフリルブラウス、白い膝丈のスカート、白いブーツという、この空間に溶け込めそうな全身真っ白コーディネートで、美しい髪と瞳がさらに際立っていた。
 背中から生えている翼は、羽に少し癖があるように見える。癖毛ならぬ癖羽とかあるのだろうか。

「エルマー様、お久しぶりです。お話は伺っております」
「ああ。よろしくね、ピルカ」

 エルマーさんの砕けた話し方が新鮮で、お知合いですかと聞くと、学生時代の後輩の方で、交流年の間は地上界の天界転移門に派遣されている職員さんで、転移門案内人という役職なのだと、紹介してくれた。
 近くで見ると本当にきれいな人で、美人というよりも可憐という言葉が似合う人だ。背は私より少し小さいくらいだが、以外と胸が大きい。スーツ姿でもわかるほどの大きさとは、羨ましい……

 トンゴさんがいつの間にかこちらへ来ていて、ピルカさんに写真をお願いしている。さすが編集長の知り合い、抜け目ない。心なしか、先ほどまでより嬉しそうな顔でピルカさんを撮っている。
 ピルカさんも撮られるのは嫌ではないらしく、寧ろノリノリで色々なポーズを自ら取っていた。


 暫くモデルとなっていたピルカさんが突然姿勢を正し、「皆様、台から2メートルほど離れて下さい」と言ってきた。
 何かあるのかと不思議に思っていると、リトに手を引かれて、言われた通り2メートル離れた場所に連れていかれた。

 そのまま待っていると、円型台が徐々に光り出し、全体が淡く輝くと、そこからいくつもの白い羽が舞い上がる。羽は台から次々に噴き出し高く高く舞い、まるで踊っているようだ。それは天井のドームまでの空間を舞い続け満たしていく。
 幻想的なその景色に見惚れていると、舞い上がった羽が次第に門の形をかたどっていく。
 白い羽が集まり門が出来上がると、その中から5人の人間が姿を現した。

「お帰りなさいませ。天界から地上界へ、無事に転移完了です」

 そう言って、ピルカさんが今転移してきた5人を、私達が入ってきた扉とは別の扉へと案内していく。
 興奮したような楽しそうな声を上げながら5人が円型台から全員降りて、ピルカさんと共に離れていくと、門は再びふわふわと一枚づつ羽になって舞っていき、天井まで満たしていた羽が徐々に下へ落ちていく。
 円型台に全ての羽が吸い込まれて無くなると、淡い光も消えていった。



 ……今のが転移魔法!
 なんて幻想的で美しいの!

 目の前で起きた奇跡に感動していると、ピルカさんが戻ってきた。
 所々ぴょこっと跳ねている癖羽のある翼を一度広げて伸びをするように数回羽ばたかせてから、こちらへと近づいて、「お待たせ致しました。それでは皆様、参りましょう」と言って、私達を円型台へと案内する。
 案内されるがまま、台の上へ登ると、全員揃っているのを確認したピルカさんが、転移魔法陣へ手をかざして発動させた。

 すると、先ほど見たのと同じように、足元が淡く光り始める。
 描かれている魔法陣が全て淡く光り輝くと、白い羽がふわっと目の前に舞い上がった。
 次々舞い上がる羽に手を伸ばすと、実体は無いようで触ることはできず、手や腕を通り抜けてしまう。しかし、羽のある所はほんわりと温かい。
 触れないのに温かいものが通り抜けていく不思議な感触を楽しんでいると、私たちが立っている数メートル先に、羽が集まり出した。
 徐々に4~5メートルくらいある大きな門へと形作られていく。

 白い羽で出来た扉の無い門が出来上がると、ピルカさんが声を掛けてくれた。

「天界転移門の完成です。この門を潜ると、天界へ到着となります。それでは皆様、良い旅路を」

 行ってらっしゃいませと言ってお辞儀をしてから、私達に手を振って笑顔で見送ってくれている。
 少し興奮しているせいか、いつもより元気な声で「行ってきます!」と答えて、門に向かって進んでいると、横に並んで歩いているリトが手を握ってきた。
 驚いて隣を見上げると、優しい目でこちらを見て、ぎゅっと手を繋いでくる。まるで、「大丈夫」と言ってくれているみだいだ。


 …実は、目の前の魔法に興奮しているのと同時に、少しだけこの門を潜るのに緊張していた。
 行くことが夢だった異界へ、ここを潜れば辿り着く。ここまでこれて嬉しい反面、仕事へのプレッシャーや、これから起こることへの期待と不安などで、ずっと緊張しっぱなしだったのだ。

 人には見せないように気を付けていたし、上手く隠せていると思っていたのだが、リトにはバレていたらしい。
 それでも、こうしてそっと寄り添ってくれることが、心地よくて安心する。
 なんでバレたんだろうとか、思う所もあるが、今はその手の温もりが有難い。
 気恥ずかしさを誤魔化して、ありがとうの気持ちが伝わる様に、私もリトの手を握り返した。

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