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第2章 天使との出会い

20話 とある天使との出会い1

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 その日の仕事を全て終え、海の近くだったため海鮮料理にしようということになり、近くの有名なレストランに入った。
 因みにお兄さんは今日は会食があるらしく、朝に挨拶をしてからは見ていない。

 このレストランは地上界の中でもかなり有名な店で、常に満席で1時間待ちはざらだ。
 その日社長のお眼鏡にかなった新鮮な魚介類しか入荷せず、入荷数が毎日異なるため予約は受けておらず、無くなり次第閉店してしまう。今回タイミングが良かったのか、待ち時間なしで入れたのは奇跡に近い。

 店に一歩足を踏み入れると、ひときわ大きな生簀いけすが目に飛び込んでくる。そこから注文が入るたびに、活きのいい魚が揚げられていく。
 そして店内の内装は、漁船のような雰囲気だ。
 壁の至る所にド派手な大漁旗が掲げられ、青や緑の美しいガラス浮きを網目状の縄で縛ったものがアクセントとしてあちこちに飾られている。
 私の身長くらい大きな魚拓まで飾られていて、ここの社長は巨大魚ハンターとしても有名なので、その時の物だろう。

 店内は満席でとても賑わっている。
 人間の割合が多いように見えるが、私が見た感じだと擬態した悪魔と半々といったところだ。天使は自由に翼を出し入れできるのだが、混んでいる今は全員が翼を仕舞っているようだ。


 早速案内された席に着き、料理とそれに合う酒を注文し、目の前が海の幸で埋め尽くされた。
 噂通り、新鮮で活きのいい魚介類を使った料理は、どれもとても美味しくて、いつも以上に量を食べてしまうほどだ。
 リトも気に入ったのか、お造り盛り合わせ・煮付け・焼き魚・アラ汁・寿司・天ぷら・アクアパッツァ・グリル焼など、一通り店のおすすめというメニューを頼んでいた。


 しばらく美味しい料理を堪能していると、入口近くから口論するような声が聞こえてきた。
 私たちの席からは全貌は見えてないのだが、近くの席の人たちが迷惑そうな雰囲気を醸し出している。

「何かあったのかな」
「シエナが気にすることじゃないだろう。それより、こっちの煮付けも食べるか?」

 リトはそういうけれど、やっぱり気になる。
 金目鯛の煮付けを食べながら(めっちゃ美味しかった)、どことなく店内の空気が悪くなっていっているような気がしてならない。



 お手洗いに行った帰り、入り口近くを通りかかったが、まだ口論は続いていた。
 そっと窺うと、店員の男性と客らしき男性が言い争っているようだ。
 客側は悪魔だな、と思いながら、よくよく内容を聞いてみると、待ち時間が長すぎると怒っているようだ。
 この店は時間制限を設けており、席に着いてから2時間で退店するルールなのだが、それでも常に待機客が長蛇の列をなしている。そして、待機客は店前にあるリストに代表者の名前を先着順に記入し、順番に呼ばれるシステムだ。
 男性客の言い分は、少しその場を離れた時に呼ばれたらしいのだが、呼んだときに居なかったためキャンセル扱いにされ、再度先着順で最後尾へと回されたことに怒っているようだ。
 店員は、店のルールを守ってもらえないのなら、入店拒否もありえるとかなり強気で発言していて、それが気に食わなかったのか、客側が余計に怒っているということのようだ。

 まあ、正直よくあるクレームだ。
 人間でも「少し離れていただけでキャンセル扱いされ、最後尾に回され、また長時間待たせるのか!客をこんなにも長時間待たせるなんてどういうつもりだ!すぐに戻ってきたのだから、今すぐ案内しろ!出来ないのなら責任者を出せ!」と、くどくど文句を言う人は一定数居るものだ。
 客側の気持ちも理解できる。折角楽しみにやってきて順番を待っていたのに、少し離れただけで最後尾に回されて、更に待たされるのだ。釈然としない気持ちにもなる。

 それに、今回は店員の対応が悪いのが大きいように思う。
 しっかりと店のルールを説明して、真摯な態度で対応していれば、悪魔だってちゃんとわかってくれる。
 しかし、男性客の「てめぇのその態度も…」とか聞こえていたから、この店員は初めから強気の態度で客を相手にしていたようだ。プライドが高いのか、店のルールを客が守るのは当たり前だと頭ごなしに言いつけている印象だ。
 それがさらに客の悪魔を逆撫でしているのだろう。
 これは、互いに相性の悪い相手だったのが運のツキだったな。


 そう思いながら、このままでは私達も微妙に気分が悪いし、他の店員を呼ぶべきかと迷っていると、客の悪魔と目が合った。合ってしまった。
 ……ヤバい。

「おい!そこの女!今の話聞いてたろ!お前だってオレと同じ立場なら腹立つだろうが!?」
「え!えぇっと……」

 どうしよう。何て答えるのが穏便にこの場を収められる?

 答えを躊躇していると、私を庇うように間に一人の青年が立った。

「すみません、僕にも話が聞こえてしまいまして。とりあえず、他のお客さんにも迷惑ですし、場所を変えませんか?店員さんは責任者の方を呼んできてくれますか?」


 そう言って助けてくれたのは、見事な輝きを放つ金髪に、よく晴れた日の青空のような大きな瞳、背は私より少し高いくらいで、白いジャケットに水色のチェック柄のシャツ、白い踝丈のズボンに白地に青いワンポイントのラインが入った靴という、爽やかなコディネートがよく似合っている男性天使だった。
 翼は仕舞っているが、彼は醸し出すオーラで天使だと分かる。
 天使というより、小説で読んだ王子様のような雰囲気だ。

 それに、何となくどこかで見たことがあるような気がする。
 取材相手は全員覚えているから、仕事で会った人ではないことは確かだけど、どこで見たんだろう……

 それまで強気の態度だった店員も、彼のオーラに圧倒されたのか、素直に責任者を呼びに行った。
 それまで騒いでいた客の悪魔の方も、彼のオーラに圧倒されたようで、何故か大人しくなっていた。
 呼ばれてきた店長に天使が現状を説明すると、やはり一旦場所を変えようということになり、客の悪魔は店の奥に案内されていった。
 私も行くべきなのかどうか迷っていると、助けてくれた天使が、キラキラとした優しい笑顔を向けてきた。

「あなたは巻き込まれただけでしょう?行く必要はないですよ。僕が行って説明もしますから、どうぞ席に戻って、食事の続きを楽しんでください」

 おぉ…… なんて神々しく且つ紳士的な天使様なんだ……

 後光が差している錯覚さえするその姿に、少しの間見惚れていると、「あ、あの?」と少し困惑した顔をして顔の前で手を振られた。
 正気に戻り、助けてくれたお礼を言ってから、お言葉に甘えてふわふわした気持ちで席に戻った。

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