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第1章 悪魔との出会い
19話 地上界を紹介!3
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そんな日が続き、リトと仕事をしだしてから3週間ほどたったある日、工業や商業技術方面ばかりではつまらないかと思い、たまには趣向を変えてスイーツバイキングへ行くことにした。
料理技術も地上界独特らしく、その中でもスイーツは、目にも華やかな彩りや細工が悪魔では再現しきれないのだとか。
人間は、天使悪魔よりも手先が器用な者が圧倒的に多いようで、その細やかで繊細な技術を駆使して作られたスイーツは、食べられる芸術作品として人気らしい。
愛でて良し、食べて良し。
そりゃ人気になるよね。
今日はスイーツバイキングに行くとリトに伝えると、ぱっと見では表情に変化はあまりないように見えるが、僅かに目を瞠り、かなり喜んでいる。
背後にお花が飛んでいる気がする。
お兄さんはスイーツよりも食事の方がいいらしく、夜ご飯までは魔界で仕事をしていると言って帰ってしまった。
早速店に入り、店の責任者の方とパティシエの方に取材をする。
本来、私は食関連の取材は担当ではないのだが、編集長から「リト様のご機嫌を損ねないように十分に配慮しろよ!!」と言われているため、多少の脱線は許されている。
因みにこの店を薦めてくれたのは、以前ジェラートを奪われた食べ物関連担当の同僚だ。あの時話した悪魔と仕事をすることになったと報告した時、何故かとても喜んでいた。
今回紹介してもらった店はつい先日オープンしたばかりで、彼女がまだ取材しておらず(プライベートでは既に食べに行ったらしい)、飴細工の得意なパティシエが居ると話題になっているらしく、悪魔と一緒に取材するならぴったりの店とのこと。
繊細な飴細工は異界人に受けがよく、彼女も頻繁に記事にしている。
ある程度取材が進んだところで、実際の作業現場を見せてもらえることになった。
色付けされた熱い飴を冷めない内に素早く形を整え、時には鋏などの道具も使って細かい模様や細工を作っていく。
そして出来上がったのは、羽の一枚一枚まで再現された、今にも飛び立ちそうな躍動感溢れる美しい鶴だった。
目の前でほんの5分ほどで完成されたそれは、芸術作品と呼ぶにふさわしいクオリティで、いつまででも見ていたいほど素晴らしいものだ。
リトもそう思ったのか、作業開始から完成まで微動だにせず、出来上がった鶴を様々な角度から隅々まで見入っている様子だった。
「飴細工の作業は初めて見ましたが、本当に素晴らしいですね」
「ありがとうございます。お気に召していただけて光栄です」
「リトはどうだった?」
返答なし。まだ見入っているようだ。
一応、仕事中だよ!
気づかないリトの脇腹あたりを肘で小突いて、意識をこちらへ向けさせる。
「あ、ああ。素晴らしい作品だ。これが食べられるなんて今でも信じられない。細かい部分までよく作りこまれている」
リトがそう言うと、飴細工を披露してくれたパティシエがとても嬉しそうに破顔した。
「悪魔の方にそう言っていただけると、とても嬉しいです。よろしければ、何かご希望の形のものを一つお作りしましょうか?」
「いいのか?」
流石にそれはと止めようとしたが、私が言うより早くリトが答えてしまった。
しかし、出来上がったものを見て、私も何も言えなくなってしまった。
そしてお店のご厚意で、それを記念に持ち帰れるように包んでくれた。普段は、飴細工の持ち帰りはお断りしているらしい。折角のご厚意、ここは有り難く頂戴することにした。
一通り取材を終え、「ゆっくりと召し上がってください」と言って頂いたので、お言葉に甘えて堪能させてもらうことにした。
そこからのリトは凄かった。
取材中から出来上がっていくスイーツに見入っていたが、食べていいと許可が出ると、片っ端から取ってきては食べていった。
全制覇でも狙っているのかと思い聞いてみると、「そのつもりだ」と、さも当たり前のように返ってきた。
確かに普通の男の人よりは良く食べる方だけど、それでも30種類近くある全メニュー制覇は流石に無理だと言ったのだが、聞く耳を持たない。
あとで気持ち悪くなっても知らないんだから。
それでも、いつもよりも明らかにテンションの高い彼は、見ていて可愛く感じる。
何度もおかわりを取りに向かう背中を見て、「ちゃんと興味あるもの、あるじゃない」と、安心したのだった。
その日の夜、お兄さんが夜ご飯を催促しに来たところで、今日のお土産を渡した。
「これは?」
「飴細工の猫です。本当は黒猫にしてもらいたかったんですけど、飴で黒色を再現すると味が美味しくないらしくて。なので、べっ甲飴でお兄さんのシルエットをそっくりそのまま作ってもらってました。リトが」
「…………お前が、これを、私に?」
「別にお前のためではない。作っている所を見たかっただけだ。形は何でもよかったんだが、思いつかなかったから」
なんだか微妙な顔をしたお兄さんが、「ありがとう……」と言って飴でできた分身を横へ追いやった。実物の五分の一くらいのサイズで作られた飴猫は、本当にそっくりだ。
食事中、ちらちらと横目で黒猫が距離を取った飴猫を見ていたのは、とても可愛かった。
翌日、飴猫はどうしたのかリトに聞くと、お兄さんは持って帰らなかったので、一晩中芸術作品として観賞し堪能したあと、朝ご飯の時に本人の目の前でガリガリと食べたそうだ。
お兄さんの反応を聞くと、無言でなんとも言えないゆがんだ顔をしていたらしい。
なんて言うか…… 惨いな…… さすが悪魔だ……
その日は、夜ご飯の時間になっても黒猫は現れなかった。
料理技術も地上界独特らしく、その中でもスイーツは、目にも華やかな彩りや細工が悪魔では再現しきれないのだとか。
人間は、天使悪魔よりも手先が器用な者が圧倒的に多いようで、その細やかで繊細な技術を駆使して作られたスイーツは、食べられる芸術作品として人気らしい。
愛でて良し、食べて良し。
そりゃ人気になるよね。
今日はスイーツバイキングに行くとリトに伝えると、ぱっと見では表情に変化はあまりないように見えるが、僅かに目を瞠り、かなり喜んでいる。
背後にお花が飛んでいる気がする。
お兄さんはスイーツよりも食事の方がいいらしく、夜ご飯までは魔界で仕事をしていると言って帰ってしまった。
早速店に入り、店の責任者の方とパティシエの方に取材をする。
本来、私は食関連の取材は担当ではないのだが、編集長から「リト様のご機嫌を損ねないように十分に配慮しろよ!!」と言われているため、多少の脱線は許されている。
因みにこの店を薦めてくれたのは、以前ジェラートを奪われた食べ物関連担当の同僚だ。あの時話した悪魔と仕事をすることになったと報告した時、何故かとても喜んでいた。
今回紹介してもらった店はつい先日オープンしたばかりで、彼女がまだ取材しておらず(プライベートでは既に食べに行ったらしい)、飴細工の得意なパティシエが居ると話題になっているらしく、悪魔と一緒に取材するならぴったりの店とのこと。
繊細な飴細工は異界人に受けがよく、彼女も頻繁に記事にしている。
ある程度取材が進んだところで、実際の作業現場を見せてもらえることになった。
色付けされた熱い飴を冷めない内に素早く形を整え、時には鋏などの道具も使って細かい模様や細工を作っていく。
そして出来上がったのは、羽の一枚一枚まで再現された、今にも飛び立ちそうな躍動感溢れる美しい鶴だった。
目の前でほんの5分ほどで完成されたそれは、芸術作品と呼ぶにふさわしいクオリティで、いつまででも見ていたいほど素晴らしいものだ。
リトもそう思ったのか、作業開始から完成まで微動だにせず、出来上がった鶴を様々な角度から隅々まで見入っている様子だった。
「飴細工の作業は初めて見ましたが、本当に素晴らしいですね」
「ありがとうございます。お気に召していただけて光栄です」
「リトはどうだった?」
返答なし。まだ見入っているようだ。
一応、仕事中だよ!
気づかないリトの脇腹あたりを肘で小突いて、意識をこちらへ向けさせる。
「あ、ああ。素晴らしい作品だ。これが食べられるなんて今でも信じられない。細かい部分までよく作りこまれている」
リトがそう言うと、飴細工を披露してくれたパティシエがとても嬉しそうに破顔した。
「悪魔の方にそう言っていただけると、とても嬉しいです。よろしければ、何かご希望の形のものを一つお作りしましょうか?」
「いいのか?」
流石にそれはと止めようとしたが、私が言うより早くリトが答えてしまった。
しかし、出来上がったものを見て、私も何も言えなくなってしまった。
そしてお店のご厚意で、それを記念に持ち帰れるように包んでくれた。普段は、飴細工の持ち帰りはお断りしているらしい。折角のご厚意、ここは有り難く頂戴することにした。
一通り取材を終え、「ゆっくりと召し上がってください」と言って頂いたので、お言葉に甘えて堪能させてもらうことにした。
そこからのリトは凄かった。
取材中から出来上がっていくスイーツに見入っていたが、食べていいと許可が出ると、片っ端から取ってきては食べていった。
全制覇でも狙っているのかと思い聞いてみると、「そのつもりだ」と、さも当たり前のように返ってきた。
確かに普通の男の人よりは良く食べる方だけど、それでも30種類近くある全メニュー制覇は流石に無理だと言ったのだが、聞く耳を持たない。
あとで気持ち悪くなっても知らないんだから。
それでも、いつもよりも明らかにテンションの高い彼は、見ていて可愛く感じる。
何度もおかわりを取りに向かう背中を見て、「ちゃんと興味あるもの、あるじゃない」と、安心したのだった。
その日の夜、お兄さんが夜ご飯を催促しに来たところで、今日のお土産を渡した。
「これは?」
「飴細工の猫です。本当は黒猫にしてもらいたかったんですけど、飴で黒色を再現すると味が美味しくないらしくて。なので、べっ甲飴でお兄さんのシルエットをそっくりそのまま作ってもらってました。リトが」
「…………お前が、これを、私に?」
「別にお前のためではない。作っている所を見たかっただけだ。形は何でもよかったんだが、思いつかなかったから」
なんだか微妙な顔をしたお兄さんが、「ありがとう……」と言って飴でできた分身を横へ追いやった。実物の五分の一くらいのサイズで作られた飴猫は、本当にそっくりだ。
食事中、ちらちらと横目で黒猫が距離を取った飴猫を見ていたのは、とても可愛かった。
翌日、飴猫はどうしたのかリトに聞くと、お兄さんは持って帰らなかったので、一晩中芸術作品として観賞し堪能したあと、朝ご飯の時に本人の目の前でガリガリと食べたそうだ。
お兄さんの反応を聞くと、無言でなんとも言えないゆがんだ顔をしていたらしい。
なんて言うか…… 惨いな…… さすが悪魔だ……
その日は、夜ご飯の時間になっても黒猫は現れなかった。
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