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2章 市街戦

10話 破滅へのカウントダウン

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(!!……この気配は!?)

傑は遮絶内の異常を感じ取る。
ネロの結界が消えた!

「……作戦は失敗のようですね……やはりあの魔女は私が……」

ソフィーがそう呟いた時だった。

 『ピンポンパンポーン、作戦失敗。作戦失敗。今回の任務は失敗となります………………ただいまより「フェーズ3」に移行します』

遮絶内に響くアナウンス。ネロの人形が喋ったその言葉にソフィーが眉を寄せる。

スッと無線機らしきものを取り出すと

「ネロ、応答しなさい。フェーズ3とは何ですか?そんなもの作戦には含まれていません」

しかし、そんなソフィーの言葉を無視しアナウンスがまたもや流れる。

『なお、遮絶の解除まで残り「30分」です。フェーズ3に伴い、遮絶内の人形全てを融合し新たなる魔獣を生成します。この魔獣は遮絶解除後、自動的に「自爆します」そうなれば現実の元の世界は半径100kmが灰燼に帰すでしょう…………キャハハハハハハハ!!』

アナウンスが不気味な笑い声を発する。
どういうことだ!?
遮絶の残り時間は先程のアナウンスでは3時間。まだ2時間半以上残っているはずだ!
それに……

「ネロ!応答しなさい!!遮絶の解除は認めません!30分では私が帰還出来ません!それに……人形の融合とはどういうことです!?」

『んふふふ、隊長……いえソフィーよ。貴女には失望しました。カミシロ=ジュンへの想い…我等が気づかないとでも?今回の作戦でも倒せる相手に対しての手加減……貴女は隊長には向いていない。そう……私こそが隊長に向いているのです!』

何だ!?何を言っている!?
仲間割れ…なのか?

「何を勝手な事を言っているのです!隊長になるには、現隊長からの推薦とオリュンポス全員の許可が必要です。貴方が私に勝てない以上、それは認めません!」

ソフィーが無線機に怒鳴る。しかし、続くネロの言葉は無線機越しにも不気味に笑っていることを想像させるものだった……

『んふふ、確かに私では貴女には勝てないでしょうな。本気でやり合えばいい所まではいけると思いますがね。それにオリュンポス?ああ、いましたね。そんな「老害ども」が』

その言葉を聞いたソフィーの顔が驚愕に染まる。

「まさか……貴様……!」

『えぇ殺しましたとも。遮絶の結界の魔法さえわかれば、あの者達に用などありませんからね~。んふふふ、ナンバー2……いえ、元ナンバー2がかなりの抵抗を見せたので、バージェス殿と一緒に葬りました。今はバージェス殿が組織のナンバー2です』

どうやら、向こうの世界でネロが叛逆し、オリュンポスという組織を壊滅させたみたいだな。

『貴女のやり方はぬるいんですよソフィー……侵略する世界の事情など考えるに値しないでしょう?ましてやオリュンポスなどと!あのような世間知らず共に自分の命を握られていたかと思うとゾッとしますね。ということでまずは盛大に爆弾という花火でこの世界に正式に宣戦布告させてもらいましょう!……………それではさらばです。長い間ご苦労様でした無能な隊長さん』

ブツ!と通話は一方的に切られた。
ソフィーはフゥと1つ溜め息をして、俺を見る。
そして……

ザッとその場で片膝をつき頭を垂れた。

「異世界の戦士よ。我が非礼、お許しを。」

真っ直ぐこちらを見る目には覚悟を決めた騎士の決意が滲んでいた。

「お聞きの通りです。私はどうやら……あちらの世界に捨てられたようです。かくなる上は、貴方がたのこの世界を守りたい。どちらにせよ私の命はあと30分程度でこの結界と共に消滅します。ならばせめてもの詫びとしてアレは私が滅しましょう」

ソフィーは俺達との共闘を宣言する。願ってもない。このまま戦っても俺は多分死んじゃうし…
しかし問題は……

「わかった。俺達もアレは放置出来ないし協力してくれるのはありがたい。でも………」

そう俺達が言っているアレとは

「アレ……デカ過ぎない?」

そう、結界の中の全ての人形を取り込んだアレの身長はゆうに10階建てのビルを超えている。今も成長中でこのままでは手がつけられなくなる。

「そうですね……私の戦闘は対人対軍特化なのでアレを葬るのは厳しいかもしれません。しかし」

そう言うと、ソフィーは膝を曲げて力を溜める。

「少しずつ削ればいいのです!!」

ドン!!という音を置き去りに砲弾と化したソフィーはその勢いのまま連続突き!!

「『破軍・五月雨』!!」

恐るべき速度で繰り出される刺突技おそらくは大軍相手の包囲網を突破する技なんだろう。
あまりの剣速に光を伴った剣撃はアレの腹の位置を根こそぎ削り取る!

「やった!」

これを繰り返せば勝てる!そう思ったのだが

「なっ!?」

驚愕はソフィー。大穴が開いた身体が妖しい紫色のオーラで瞬時に塞がっていく。

(ならば、再生する前に削り取る!…………っ!?)

空中を蹴り再度突撃を敢行するソフィーに大型人形はデカ過ぎる拳を振り抜く!

(くっ!躱せない!!)

攻撃態勢のソフィーへの完璧なカウンター。衝撃に備えるが

「『黒天流弐の太刀・閃剣』!!」

瞬時に両者の間に入った仁の技によって難を逃れる。

「ぬう…!?」

だがあまりの質量の拳の威力に逸らすのが精一杯だ。

「大樹!!」
「任された!」

追撃してくる反対の拳を大樹が持ち前のスキル「超筋肉」で受け止める!

「ハッハーー!!力比べなら負けんぞ!」

流石は超筋肉のスキルホルダー。ソフィーや仁では止めれなかった拳を見事止めて見せる!

その隙に仁はソフィーを連れ傑のもとまで撤退。

「感謝します『閃剣』」

「俺も先程のアナウンスで状況は理解した。アンタの援護は有り難い。傑、大樹がアイツの相手をしている間に状況を手短に話せ」

俺はこれまでの経緯を簡潔に話した。

「なるほど、理解した。しかし、葵さんは何をやっている?」

「それがアンノウンとの戦闘の後に行方知れずで……」

葵さんがいれば何とかなるのではないか?とこの場にいる誰もが思ったのだが、本人がいなければ話にならない。

「カナ、お前は水無月と一緒に葵さんを探せ。俺とソフィー殿、傑、大樹であのデカブツの相手をする」

了解です。とカナは首肯したのだが、待ったをかけたのがミユさんだ。

「仁さん!私も戦います!」

「水無月、お前は先程の戦闘で負傷している。治療はカナにしてもらったみたいだが、完全ではあるまい。その状態でアイツの攻撃を喰らえば致命傷になるだろう。俺達にもお前をフォローする余裕はない足手まといだ」

厳しい言い方ではあるが事実である。それよりも2人で葵さんを探してくれた方が勝率は高い。

「………わかりました」

納得出来ないのもあるだろうが、ミユさんは引いてくれた。自分のわがままを通していい場面ではないと察したのだろう。

2人が去った後、すぐに作戦を練る。

「大樹が奴の攻撃は止めれることはわかったが、ソフィー殿の攻撃が瞬時に回復したところを見ると奴には回復系の魔法が施されているな。俺とソフィー殿で削ることは出来るかもしれんが、回復速度が速すぎて殲滅には至らないだろう」

そこまで説明して、仁さんが俺を見る。

「傑、お前の眼で奴の弱点を見抜くことは可能か?」

俺はその言葉を受けるよりも早く奴を観察していたので、1つの仮定を話す。

「奴の頭と胸、それから両足に力が集中しているのがわかります。頭と胸は弱点なんでしょうが、両足の方は力を吸い上げている?」

それを聞いたソフィーが

「なるほど。あの巨体の魔力は地面から吸っているのですね。おそらくは結界に使われている魔力を足を通じて回収しているのでしょう。それで結界の維持時間が30分と極端に短くなっていると考えて間違いなさそうです」

そういうことか。ある意味これはネロの計算通りなんだろう。ソフィーを出し抜くのは難しい。最初から結界の維持時間を短くしていたら見抜かれていたはずだ。それを人形をかき集めて出来た巨体が出現してから急速に結界の魔力を吸わせることで一気に維持時間を短くしたのか。

「地面から足を離せば回復能力はストップするはずです。その瞬間に頭と胸の急所を破壊すれば人形は崩壊するでしょう」

ソフィーが断言する。しかし、次の瞬間には何やら考えこんでしまう。

「どうした?」

「いえ……ネロの性格は熟知していますから違和感というか……彼ならば、気づいた時には手遅れ。詰み将棋のように挽回出来ない形に持っていくと思うのですが」

仁さんの言葉に難しい顔のソフィーが話す。確かに用心深い彼なら弱点がある人形など使わない気が……

「ああ、それなら私が邪魔したからだろうね」

その声に全員が振り向く。

「葵さん!」

「おっす」

いや……おっすじゃないよ。

「どういう事ですか?」

ソフィーが剣呑な雰囲気で問いただす。
今は共闘関係とはいえ、やはり葵さんへの敵意は消えないみたいだ。

「さっき私が倒したアンノウンだっけ?アレを融合させる気だったんじゃないかな?」

そうか!あんな得体の知れない化け物を融合されていたら……とても30分では破壊出来なかっただろう。

「嫌な予感したからアイツの分身体までしっかり破壊しといたんだよ」

何気なく言うが……この人も大概だな。分身体とはいえ、ナンバーズの4を片手間のように破壊したなんて

「とにかく、葵さんの参戦はあり難い。役割を決めるぞ。大樹に相手の攻撃を受け持ってもらうとして、、葵さんが奴の巨体を宙に浮かせる。その間に俺とソフィー殿で奴にとどめを刺す」

一番理に適っているだろう。俺の中の組み立てとも合致している。

「あ…1つ言っておくけど」

みんなが同意しようとした瞬間、葵さんが手を挙げる。

「どうしました?」

「いや、さっきの戦いで私の魔力って結構ガス切れ寸前なんだよね。振り絞れば奴の体を浮かせる事はできるけど一度きりしか無理と思う」

だから一発勝負だね。

と、とんでもないことを平然と言ってきた。

「そんな……」

「私以外じゃ、あの巨体は浮かせられないでしょ?それにこのペースで結界の魔力を吸われると…もってあと15分くらいかな。何より怖いのは、アイツが魔力によって進化して明確な意思を宿すことだ」

そんな可能性もあるのか。確かに今は力の限り暴れている感じだから攻撃も単調で防ぎやすい。だがこれに意思があると手がつけられなくなるだろう。

「だからみんな集中して。ここが正念場だよ。絶対に失敗は許されない」

あえて緊張することを先に言う葵さん。だがいつものお気楽な葵さんを知っているものはその言葉に引き締まる思いである。

「行こう!」

各々が役割に向けて位置につく。
必ず成功させてみせる!

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