此の世の地獄を渡りゆく

二章 柳(ヤナギ)

風雲急を告げる

　最近右衛門は忙しく、西へ東へと飛び回っていた。
　御前屋敷から家紋屋敷へ、一度足を踏み入れれば具足支度に遠征出陣。山賊海賊一揆を制圧しては登城して会議会議会議。
　
　事の起こりは、数か月前の外来船の来航による。

　鎖した此の国へ寄港の求めあり、と。

　船影を一目見た術師達は泡を吹いた。
　彼の船には死が乗っている。努々、怒らせる事勿れ。選りても、流れゆく稀人に手を出し火傷をするは愚かの極み。
　術師達の決死の剣幕に、重臣大殿も渋々頷き、一部の港のみ開くを許した。

　変化とは乱を呼ぶもの。

　勢い付いた一揆に賊。
　目立たぬ乍らも着々と勝ち星を挙げる右衛門に、白羽の矢が立った訳である。

　先に大方の兵は布陣し、其処に少数を連れた右衛門が駆けては指揮を執り、戦仕舞いを待たずに又屋敷に駆け戻る。近頃めっきり体力の衰えた父当主の代わりに登城も熟す。
　反感有った兵共も、繰り返せば「若様の体力如何なっていなさる」と呆れの向きが強く為った。