アルバトロスはどう応えたか

変化

「ハルピュイアの姐さん」への態度がよほど興味を引いたのか、あの夜以来、度々船長にちょっかいを掛けられる。
仕事をしているところに顔を出しては、ニヤニヤ笑いで下ネタを振る。
「お前、経験ないのか」
部屋口を塞ぐ男を肘で除ける。こちとら洗濯当番の真っ最中である。少なくとも、どこぞの昼行燈の相手をしている暇はない。
「教えてやろうか？」
体ごと寄せられて、耳に吹き込まれるのは色が滴るほどに込められた声だ。
ぞわっと全身に鳥肌が立った。
無理やり腕から逃れると、ゼオは正に脱兎とそのまま逃げた。


「船長キャプテン、あんた何やってんの？」
間が悪く一部始終を目撃してしまったハンは、ゼオに見つからぬよう張り付いていた壁から身を起こした。目の前の船長は気づいていたと自信があった。
「ん？」
「あんた女じゃないと勃たないんじゃないの？少年で勃つの？」
「ん？知らん。けど、面白いだろ？全身毛を逆立てた子猫みたいで」
子猫にちょっかいかけるというか、アリの行列を観察している子どもというか。
ゼオのあまりの不運さに、ハンはどっぷりため息をついた。

「程々にしときなよ、船長キャプテン」

同僚の誼として、幸せを祈るくらいはしてやろう、と思った。




※



幽霊船は案外平和だ。
悪魔が船長というだけに無法地帯を想像していたが、余りにも悪どい事は好まれないらしい。
悪事は騒がしいというのが船長の言い分だった。
ようは悪事は人の不和を招き、喧嘩に発展するので五月蠅いということらしかった。

ここは幽霊船。死者の国との間。
騒がし過ぎるのは生者の領分。



この船には、秩序と静けさ。