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駒鳥は何処へ行く?
世界は巡る
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唐突に、眼の前で、閉ざされた扉が開き始める。
死者達の歓喜の声が、空間を揺るがせた。
歓喜のままに扉へと、雪崩れ込む死者の波。
男は、丁度、其の前に立つ、一石の塩梅となった。
開いた扉の、内へ内へと取り込まれていく死者の群れ。
巻き込まれ、扉へと押し流されていく体。
死に物狂いで掴んだ扉の端、しかし、人波の圧に負けて、今にも指が外れそうだ。
「弟!」
滑り、扉の内へと吸い込まれていく己の手を、誰かが掴んだ。
死者の群れから身を守り、泣き出しそうな瞳の其の人は、安心させるように微笑んだ。
「手を離しては駄目よ。弟」
死者の勢いは引きも切らさず、姉の力もじりじりと削られていく。
其れでも離されぬ手は、寧ろ益々力を強めた。姉の爪が手首に喰い込む。
唐突に理解する。此の儘では二人とも、生きながらに冥府へ落ちる。
如何なるのかは、誰も知らない。
「すまぬ。姉者」
姉の大事な腕を切り落とす。
「弟!!」
吸い込まれる体にもう一方、差し伸べられた手は届かずに。
吸い込まれていく此の身。
姉から奪った腕を、大事に懐に抱え込んだ。
「弟!」
遠退く_剣を扱う節の目立つ手。
昔見た、其の景色。
既視感。
何一つとして心配事も無いと、勝手に満足して逝ってしまう。
お前、殆ど覚えてもいない癖に。そういう処、
_陽の母様にそっくりだ。
後ろから衝撃が来た。
此方に剣を押し込む男の、狂信にぎらつく瞳。
「魔女め、地獄に落ちろ!」
ああ、此れだから。
此れだから、冬なんて、冬なんて!!
昔のあの日、私から弟(あの子)を奪った冬の此の狂信が、 私は此の世で、一等嫌い!
揮った力は男の肉を弾けさせ、
私は傷を癒すべく、別の場所へ_跳んだ。
※
咄嗟にリゼは扉から距離を取った。
近くに居た団長の首根っこを掴んで、安全地帯まで運搬した。
此処まで来ても、なお強く風が吹く、風が吹く。
目も開けてられぬ程の暴風が。
其れは風。
訪れを告げる。
春の訪れを告げる、狂い風。
眼も開けていられぬ暴風の中で、踊る神々の姿を見た。
くるりくるりと神は踊った。
くるり、地母神が夏の容に変わる。
くるり、地母神が冬の容に変わる。
変わって、変わって、変わって。
長い黒髪持った神が、檜皮色の髪の神に抱き着く。
笑い合う神々が此方に気付き、
振り返る。
見知らぬ見知った神の若葉の瞳。
そして、_夏の容の神の黒い瞳に、優しく紗を掛ける銀の星。
ああ、そして。そんなものも見えなく為る。
白い光に目が眩む。
意識さえも、白い光に塗りつぶされた。
死者達の歓喜の声が、空間を揺るがせた。
歓喜のままに扉へと、雪崩れ込む死者の波。
男は、丁度、其の前に立つ、一石の塩梅となった。
開いた扉の、内へ内へと取り込まれていく死者の群れ。
巻き込まれ、扉へと押し流されていく体。
死に物狂いで掴んだ扉の端、しかし、人波の圧に負けて、今にも指が外れそうだ。
「弟!」
滑り、扉の内へと吸い込まれていく己の手を、誰かが掴んだ。
死者の群れから身を守り、泣き出しそうな瞳の其の人は、安心させるように微笑んだ。
「手を離しては駄目よ。弟」
死者の勢いは引きも切らさず、姉の力もじりじりと削られていく。
其れでも離されぬ手は、寧ろ益々力を強めた。姉の爪が手首に喰い込む。
唐突に理解する。此の儘では二人とも、生きながらに冥府へ落ちる。
如何なるのかは、誰も知らない。
「すまぬ。姉者」
姉の大事な腕を切り落とす。
「弟!!」
吸い込まれる体にもう一方、差し伸べられた手は届かずに。
吸い込まれていく此の身。
姉から奪った腕を、大事に懐に抱え込んだ。
「弟!」
遠退く_剣を扱う節の目立つ手。
昔見た、其の景色。
既視感。
何一つとして心配事も無いと、勝手に満足して逝ってしまう。
お前、殆ど覚えてもいない癖に。そういう処、
_陽の母様にそっくりだ。
後ろから衝撃が来た。
此方に剣を押し込む男の、狂信にぎらつく瞳。
「魔女め、地獄に落ちろ!」
ああ、此れだから。
此れだから、冬なんて、冬なんて!!
昔のあの日、私から弟(あの子)を奪った冬の此の狂信が、 私は此の世で、一等嫌い!
揮った力は男の肉を弾けさせ、
私は傷を癒すべく、別の場所へ_跳んだ。
※
咄嗟にリゼは扉から距離を取った。
近くに居た団長の首根っこを掴んで、安全地帯まで運搬した。
此処まで来ても、なお強く風が吹く、風が吹く。
目も開けてられぬ程の暴風が。
其れは風。
訪れを告げる。
春の訪れを告げる、狂い風。
眼も開けていられぬ暴風の中で、踊る神々の姿を見た。
くるりくるりと神は踊った。
くるり、地母神が夏の容に変わる。
くるり、地母神が冬の容に変わる。
変わって、変わって、変わって。
長い黒髪持った神が、檜皮色の髪の神に抱き着く。
笑い合う神々が此方に気付き、
振り返る。
見知らぬ見知った神の若葉の瞳。
そして、_夏の容の神の黒い瞳に、優しく紗を掛ける銀の星。
ああ、そして。そんなものも見えなく為る。
白い光に目が眩む。
意識さえも、白い光に塗りつぶされた。
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