駒鳥は何処へ行く？

駒鳥は何処へ行く？

高みにて

「詰まらないな」

見詰める先で勝負は決した。
姉の前に弟は屈した。

「此れ以上は、変わらないな」

興冷めな見世物。
放り投げ、＿次は何処へ行こうかと、考える。

背後から衝撃が来て、多々良を踏んだ。
腹からにょきりと生えた此れは何だ。
背後の気配。漸く気付く。

振り返り、其の眼に認めた道化の青年。

「やあ、久し振り。奪ったものだけ返して貰うよ」

身に喰い込んだ刃が、腹を抉って引き抜かれた。
栓を失った腹から溢れる血が大地を濡らす。

「貴様、」

遥かな昔に＿妬ましく見た顔。聴いた声。

「春！！」


「御名答。随分時間は掛かったけれど、戻って来たよ。
何だ。復讐されないとでも、思っていたの？」

暢気だな。
君のおかげ、力が足りなくて人に生まれたけれど。
『神を殺して許されるは人の特権』
そうだろ？

笑う笑う＿嗤う、男。

朗らかに、にこやかに喋る男の化粧。
日が陰り、日が差し、幻惑のように死と笑いが交差する。

力が奪われる。最早立っても居られぬ。
若い道化師は＿力を取り戻しつつある春の神は、甘く優しく「サヨナラ」と云った。
振りかぶられた刃が、振り下ろされた。



そう。

＿春とはすなわち、　　　　　狂気だ。




『おはよう、君。 僕の対』




※




春風が、優しくそよいで妾わたしを呼んだ。

聴こえた。　　

＿春が妾わたしを呼んだ！

弾かれたように立ち上がり、

扉が開く。
扉が。
眼の前に、光の路が現れる。

妾の背後。夜の中。
息を殺す子どもらが、身を起こして身構える。


「＿妾わたしの家の子。妾わたしの子。妾わたしと妾わたしの対の子よ。
お行き。お巡り。世界の全て。迷う者を集めておいで」


駆け出していく子どもらが、入れ違う影に戯れかかり、笑って歌って手を振って。


そして。




　　　　　　　　「ただいま。僕の対」