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駒鳥は何処へ行く?
祝祭日の出逢い
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昨日の夕刻に辿り着いた街。
今日は朝から、何やら空気が浮足立っている。
訊けば今日は祭り日で、街の中心近くではパレードなども行われるらしい。
大道芸人の群れが、色取り取りに染めた布を翻し、大音響の音楽と共に其処ら中で踊り合う。
此処まで派手なものはリゼもゼオも初めてで、二人して呆気に取られた。
「やあ、こんにちは。お客人」
声を掛けられ、平静を装った。
眼の前には年若い道化師。
白塗りの顔でにこりと笑い、御一つ如何と果を差し出す。
思わず受け取った其れは珊瑚と梔子を混ぜた色。とてもとても瑞々しい。
わっと爆発するような笑い声。
鮮やかに、眩いほどに、色が翻り。
其れが治まった時には、
_道化師の姿は消えていた。
※
受け取った果が安全であることは、目聡い地元住民達によって保証された。
此処暫くを此の街で過ごしているらしい道化師は、そうして皆に果を配っているらしい。
「美味しいし、種は魔除けのお守りにすると良い」此れを食べると長寿と為るのだと、笑った住民の顔に嘘は無いように思う。
しかし、果を受け取ってから憂い顔になってしまった子どもが気に掛かる。
存外繊細な性質であるらしい様子があるし、何より故郷を失ってから未だ日が経っていない。
酷く失った後の人間が暫く憂いがちに為るのは、戦場暮らしのゼオには良く知った事だ。
大路を外れた所で丁度良く腰を下ろせるところが在った。
どっちにしろ今の大路は賑やかに過ぎる。
やり過ごす時間ぐらいは、此の娘の為に使っても問題なかった。
美しい果は、何故かリゼの記憶の扉を叩いた。
そう云えば_故郷のあの幼馴染が、果物を寄こして来た事が有ったのだ。
「でも其の果物、私の苦手な物で_此れは嫌がらせなのか何なのかと思っていたら、もう良いって、あの子怒って果物を取り返して行っちゃったんです」
今でも時々思うのだ。
あれは受け取るべきだったのだろうか? 其れとも断って良かったのだろうかと。
「_難しい話さね」
昔話をしようか。
「俺はそいつが腹を空かせていたんで、パンを買ってやったんだ」
そいつは別の日、俺が金が無くて困っている時にやって来てパンを買って呉れたよ。
「俺は其の時、喉が渇いていたんだがね」
「さて、お嬢ちゃん。そろそろ時間だ。立って広場に向かうとしようや」
※
問う声も、語る声も、届かなければ何にも為りはしないのだ。
決定的な出来事と云うのは厄災のように人を痛めつけるが、神の手が回す其れは、不平等で_もしくは必要以上に平等で_知る人と知らぬ人の間に不可視の溝を作る。
琴線と云うのは其れ即ち経験という奴で、如何に書を読み尽くした人間であっても、其れを身の内に沁み込ませていないのならば、達する事の出来ぬ場処だった。
今日は朝から、何やら空気が浮足立っている。
訊けば今日は祭り日で、街の中心近くではパレードなども行われるらしい。
大道芸人の群れが、色取り取りに染めた布を翻し、大音響の音楽と共に其処ら中で踊り合う。
此処まで派手なものはリゼもゼオも初めてで、二人して呆気に取られた。
「やあ、こんにちは。お客人」
声を掛けられ、平静を装った。
眼の前には年若い道化師。
白塗りの顔でにこりと笑い、御一つ如何と果を差し出す。
思わず受け取った其れは珊瑚と梔子を混ぜた色。とてもとても瑞々しい。
わっと爆発するような笑い声。
鮮やかに、眩いほどに、色が翻り。
其れが治まった時には、
_道化師の姿は消えていた。
※
受け取った果が安全であることは、目聡い地元住民達によって保証された。
此処暫くを此の街で過ごしているらしい道化師は、そうして皆に果を配っているらしい。
「美味しいし、種は魔除けのお守りにすると良い」此れを食べると長寿と為るのだと、笑った住民の顔に嘘は無いように思う。
しかし、果を受け取ってから憂い顔になってしまった子どもが気に掛かる。
存外繊細な性質であるらしい様子があるし、何より故郷を失ってから未だ日が経っていない。
酷く失った後の人間が暫く憂いがちに為るのは、戦場暮らしのゼオには良く知った事だ。
大路を外れた所で丁度良く腰を下ろせるところが在った。
どっちにしろ今の大路は賑やかに過ぎる。
やり過ごす時間ぐらいは、此の娘の為に使っても問題なかった。
美しい果は、何故かリゼの記憶の扉を叩いた。
そう云えば_故郷のあの幼馴染が、果物を寄こして来た事が有ったのだ。
「でも其の果物、私の苦手な物で_此れは嫌がらせなのか何なのかと思っていたら、もう良いって、あの子怒って果物を取り返して行っちゃったんです」
今でも時々思うのだ。
あれは受け取るべきだったのだろうか? 其れとも断って良かったのだろうかと。
「_難しい話さね」
昔話をしようか。
「俺はそいつが腹を空かせていたんで、パンを買ってやったんだ」
そいつは別の日、俺が金が無くて困っている時にやって来てパンを買って呉れたよ。
「俺は其の時、喉が渇いていたんだがね」
「さて、お嬢ちゃん。そろそろ時間だ。立って広場に向かうとしようや」
※
問う声も、語る声も、届かなければ何にも為りはしないのだ。
決定的な出来事と云うのは厄災のように人を痛めつけるが、神の手が回す其れは、不平等で_もしくは必要以上に平等で_知る人と知らぬ人の間に不可視の溝を作る。
琴線と云うのは其れ即ち経験という奴で、如何に書を読み尽くした人間であっても、其れを身の内に沁み込ませていないのならば、達する事の出来ぬ場処だった。
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