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駒鳥は何処へ行く?
巡礼路
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いざ襲撃となった時に手を貸して呉れたならば、少しばかりの謝礼を払う。
乗客 兼 護衛 と云うような立場。
寄合の乗物には其れなりの数の乗客が居た。
訊けば皆、此の先の街に在る聖地に巡礼に行くという。
「村の長老が代々、爺様の其の爺様から継いできた話なので、どれ程の信憑性かも判らないのですけれど」
其処に巡礼するを生涯願い続けた男が死の床で、如何してもと手を握った。其の力の強さが忘れられぬと乗客の一人が語る。
「貴方方も?」
巡礼者は盗難等の災禍を防ぐためにグループを組む事も多い。
旅装。揃いの装い。固まる彼らは、そう見えなくも無かった。
乗客 兼 護衛 と伝えて柄頭を見せれば、乗客たちは安心した様だった。
自分達に向けられるかもしれない力は恐ろしいが、自分たちを守る力は頼もしいもの。
思いがけず穏やかな道中となった。
街の最後の門を抜け暫く道を行けば、道の様子は随分と変わった。
良く見る両脇に木が疎ら、草の生い茂る中の踏み固められた土の道から、砂が増え、木の見当たらぬ石がごろごろとした乾いた道へ。
一方を切り立つ岩山。所々の岩を、岩から岩へと移動する影。
一方は砂と砂利。遠くの景色は山と見えたが、あれも砂か。所々、砂を噴き上げ移動する影がある。
風に巻き上げられて砂が乗物にも入り込む。
乗物を操る者も乗客たちも、揃って手近な布で顔の下半分を覆った。布の無い者は首を引っ込めて口元を外に晒さないように隠す。
眇める眼の視線の先は、初めて見る見知らぬ景色。
幸運な事に、残念な事に、襲撃にも遭わず次の街に着いた。
此処から先の道中、余所者の目立つ土地。
巡礼者として動く事は暗黙の内に決められた。
一行は巡礼者の装束を身に纏い、人の群れに紛れた。
例え日常的に剣を具していても護身用と云って通すことの出来る身分。
リゼとしては初めてが多い。
故郷の隣町の教会は巡礼地ではなく、逗留した都市の巡礼地_聖地は、少し覗いただけで深く其の様子を知ることは無かった。
…少し、リゼの知る処とは違った。
圧が在って、ヒヤリとして。例えるなら、素知らぬ横顔。
ほんの少しだけ、怖かった。
※
此の辺りは家の材も木や石で無く、煉瓦や土だった。
厚く積み上げて内を守る。
巡礼路と云うのは、何処であっても整備をされているものだ。
宿も、公共施設も、寂れた場所にある修道院も、巡礼者には門扉を開く。
最低限の施しを供する。
今日の寝床と身を寄せた修道院は簡素の設え。
“真ん中”に至るには未だ幾つも街を継ぐ。中継地となる街の其々には礼拝すべき所もあり、巡礼と云えなくも無かった。
与えられた施しを見下ろす。
具の無い薄いスープに小さなパンが1つ。そしてチーズが一欠片。
「あの、宜しければ」
「うん?」
差し出された一欠片のチーズを見て、ゼオは「ああ」と云った。
「苦手かい?」
「…食べられないんです」
チーズを検分しても、特に変わった処は無い。
「体質かい?」
「はい」
恥じ入る様に俯くリゼを見て、ゼオはそっと口を開いた。
昔、似たような事を云っていた奴がいる。
周りに随分揶揄われちゃいたが、身内の誰かが無理して食べて、「見直した」とやんやされた日の夕に、
「酷く膨れて死んだらしい」
やんやした内の一人が「こんな事に為るなんて知らなかった」と、青褪めて云ったのが忘れられないと、奴さん頑なに、何云われても食わなかったな。
「まあ、死んでから「こんな事に為るなんて」と云われた処で、」
此方には何の益も無いさね。
修道院の床には、変わったモザイク画が在った。
黒々とした線で描かれた、開かれ折れ曲がり中心へと向かう円弧。
信徒たちは粛々と其の線を辿り、中心へ至る。
此れから向かう大地の臍も、死霊がこんな風に順番待ちをして居るんだろうか。
※
時に、次の街まで徒歩で移動する羽目に遭った。
騎馬と徒歩では、矢張り身の使い方が違う。一日戦場を駆けまわって元気にしている筈の団員も、疲れ果てた顔をしていた。
砂を踏み締める。
砂と云うのは難しい。
足を取られて隙を作り、死んだものを知っている。
足を痛めた者が、「砂は軟いから歩き易い」と常以上に動くのを見た事もある。
今は_俺にとっては、足を取られる。進み難い。只、足に伝わる衝撃は小さい。
今宵の宿で、感じる痛みは少ないだろう。
そう其れは、夢の中で彷徨う様に、驚く程に良く似ていた。
乗客 兼 護衛 と云うような立場。
寄合の乗物には其れなりの数の乗客が居た。
訊けば皆、此の先の街に在る聖地に巡礼に行くという。
「村の長老が代々、爺様の其の爺様から継いできた話なので、どれ程の信憑性かも判らないのですけれど」
其処に巡礼するを生涯願い続けた男が死の床で、如何してもと手を握った。其の力の強さが忘れられぬと乗客の一人が語る。
「貴方方も?」
巡礼者は盗難等の災禍を防ぐためにグループを組む事も多い。
旅装。揃いの装い。固まる彼らは、そう見えなくも無かった。
乗客 兼 護衛 と伝えて柄頭を見せれば、乗客たちは安心した様だった。
自分達に向けられるかもしれない力は恐ろしいが、自分たちを守る力は頼もしいもの。
思いがけず穏やかな道中となった。
街の最後の門を抜け暫く道を行けば、道の様子は随分と変わった。
良く見る両脇に木が疎ら、草の生い茂る中の踏み固められた土の道から、砂が増え、木の見当たらぬ石がごろごろとした乾いた道へ。
一方を切り立つ岩山。所々の岩を、岩から岩へと移動する影。
一方は砂と砂利。遠くの景色は山と見えたが、あれも砂か。所々、砂を噴き上げ移動する影がある。
風に巻き上げられて砂が乗物にも入り込む。
乗物を操る者も乗客たちも、揃って手近な布で顔の下半分を覆った。布の無い者は首を引っ込めて口元を外に晒さないように隠す。
眇める眼の視線の先は、初めて見る見知らぬ景色。
幸運な事に、残念な事に、襲撃にも遭わず次の街に着いた。
此処から先の道中、余所者の目立つ土地。
巡礼者として動く事は暗黙の内に決められた。
一行は巡礼者の装束を身に纏い、人の群れに紛れた。
例え日常的に剣を具していても護身用と云って通すことの出来る身分。
リゼとしては初めてが多い。
故郷の隣町の教会は巡礼地ではなく、逗留した都市の巡礼地_聖地は、少し覗いただけで深く其の様子を知ることは無かった。
…少し、リゼの知る処とは違った。
圧が在って、ヒヤリとして。例えるなら、素知らぬ横顔。
ほんの少しだけ、怖かった。
※
此の辺りは家の材も木や石で無く、煉瓦や土だった。
厚く積み上げて内を守る。
巡礼路と云うのは、何処であっても整備をされているものだ。
宿も、公共施設も、寂れた場所にある修道院も、巡礼者には門扉を開く。
最低限の施しを供する。
今日の寝床と身を寄せた修道院は簡素の設え。
“真ん中”に至るには未だ幾つも街を継ぐ。中継地となる街の其々には礼拝すべき所もあり、巡礼と云えなくも無かった。
与えられた施しを見下ろす。
具の無い薄いスープに小さなパンが1つ。そしてチーズが一欠片。
「あの、宜しければ」
「うん?」
差し出された一欠片のチーズを見て、ゼオは「ああ」と云った。
「苦手かい?」
「…食べられないんです」
チーズを検分しても、特に変わった処は無い。
「体質かい?」
「はい」
恥じ入る様に俯くリゼを見て、ゼオはそっと口を開いた。
昔、似たような事を云っていた奴がいる。
周りに随分揶揄われちゃいたが、身内の誰かが無理して食べて、「見直した」とやんやされた日の夕に、
「酷く膨れて死んだらしい」
やんやした内の一人が「こんな事に為るなんて知らなかった」と、青褪めて云ったのが忘れられないと、奴さん頑なに、何云われても食わなかったな。
「まあ、死んでから「こんな事に為るなんて」と云われた処で、」
此方には何の益も無いさね。
修道院の床には、変わったモザイク画が在った。
黒々とした線で描かれた、開かれ折れ曲がり中心へと向かう円弧。
信徒たちは粛々と其の線を辿り、中心へ至る。
此れから向かう大地の臍も、死霊がこんな風に順番待ちをして居るんだろうか。
※
時に、次の街まで徒歩で移動する羽目に遭った。
騎馬と徒歩では、矢張り身の使い方が違う。一日戦場を駆けまわって元気にしている筈の団員も、疲れ果てた顔をしていた。
砂を踏み締める。
砂と云うのは難しい。
足を取られて隙を作り、死んだものを知っている。
足を痛めた者が、「砂は軟いから歩き易い」と常以上に動くのを見た事もある。
今は_俺にとっては、足を取られる。進み難い。只、足に伝わる衝撃は小さい。
今宵の宿で、感じる痛みは少ないだろう。
そう其れは、夢の中で彷徨う様に、驚く程に良く似ていた。
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