駒鳥は何処へ行く?

湯月@重陽

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駒鳥は何処へ行く?

対価

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夕餉を終えて団員達の集まる(急遽、創り上げたらしい)大部屋へ向かう途中、船長に捕まった。片腕を掴まれ引かれてしまえば、逃げるのも難しい。
苦い顔をしたくなるのは、今此処に居る其の方法が、使う気の無い手札であったから。有ると知っていても、出来る限りは見ない振りをして居たかったもの。

引きずり込まれた船長室の奥。押し倒された寝台の上。
船長室の窓から月が見えて、何とも情けない気持ちになった。
船長の手は淀みなく、此方の服を寛げる。
此の船に_船長に助けを乞う。そう決めた瞬間、こうなる事を想像しなかった訳じゃ無い。
其れでも庇護すると決めた若者の居る同じ場所_同じ屋根の下で、身も世もなく善がされるのは少しばかり矜持が疼いた。
下肢に手が伸びるのを遮り、自分で腰回りを緩めて足を引き抜く。流石に日に焼かれず生白い内太腿。船長の手がゆるゆると撫でた。
そうは云っても対価、対価だ。悪魔船長に願うなら対価が必要。
「団員達の分。併せて購いは如何程だ」
「…ムードが無いなあ、お前は」
ふっと含み笑った船長は、今日は随分と其の気らしい。肌を辿る手は何時に無く執拗だった。
くまなく撫でられた処で船長の好む凹凸も無く、嘗ては在った瑞々しさも失って久しい。何が楽しいやらと、思ってゼオは目を閉じた。
身体の関係は昔から。今更恥じ入る様なものでもない。しかし昔、身体を好き勝手に使われていた時は、只の器として寝転がっていれば良かった。能動を求められても、船長が見ていたのは行為者としてのゼオであって、其れはゼオ自身かと云えば少しばかり違うのだ。
だが今は、船長はゼオの身体を探り、ゼオの顔を覗き込む。
勘弁して呉れと顔を背ければ引き戻される。
極めつけ、以前は船長が満足すれば終いだった交わり。_今は、船長がゼオが満足したと判断するまで終わらない。
…其れは最早、耐久戦の様相を呈した。
最近はとみに肉の交わりが億劫で、触られようと中々熱が上がらない。目を閉じれば触覚が鋭敏になる。早くこの時間を終わらせたいなら、少しでも早く熱を上げねばならなかった。

「ゼオ!」

きつい𠮟咤と共に、首筋を覆った片手にギリギリと万力か何かの様に喉を締め付けられて、血管どころか気道までも塞がれた。苦しさに藻掻けば、爛々と光る人外の金目が視界を占領する。
「此方を見ろ。余所見をするな」
兎に角頷けば、急に首を離され酷く咳き込む羽目になった。
昔は別段気にも留めなかったはずが、ゼオを繋いでからの船長は褥の内でゼオの意識が己から外れるのを嫌う。
うっかり昔の癖で意識を遊ばせ、叱咤と、躾と云う名の暴力を受けるのも何度目か。
如何にか咳を収めたゼオを再び褥に上げる船長の真意など、ゼオには伺い知ることも出来ない。
せめて負担を減らすべく、身体中の力を祈る様に抜いた。

背後から伸し掛かる男。腹に逸物を突き込まれて揺らされる。
片手が腰を深く抱いて、前に回された方の手がゼオの男の徴を弄る。先端を強く擦り、痛みとスレスレの悦を与える。
指爪が小さな穴をくじって「あ“、ん”ん”っっ」吐き出した精を張り出した処に塗して、ぎゅっと絞られた。穴を指の腹で擦られる。達したばかりの過敏な処を手酷くされて痛い。
「おいっ止めっ!」
声を荒げたタイミングで、びくりと肉が痙攣する。
「あ?」
耳元で心臓がどくどくと脈打って、訳も分からず何かを吐き出した。

「ああ、出せたか」

耳元でがなり立てるままの心臓の音。動悸。
耳元に直接吹き込まれた不穏な言葉。不穏な背後の気配に咄嗟に距離を取ろうとして、腰を捕らえていた手で難なく引き戻された。
「お前は如何にも、逃げ癖があるな」
ピンとゼオの男を指先で弾いて、痛みに強張る体を宥めるように腰を押し付ける。
快い処に当たって喘ぐゼオの身体。敷布に倒し、足を大きく曲げさせて体位を変える。

グチャリだとかヌチャリだとか、濡れた肉を叩く音がした。

仰向け。大きく開いた形で固定された両足の間で、一定の間隔で腰を遣る船長は、肉の先端で腹の凝りを圧し潰すと其のまま圧を加えて奥まで擂り潰す。
悦の期待と期待通りに与えられる悦を、受け入れ蓄積する器になり果てた此の体。狂乱と何方がマシかと云われれば、種類が違うだけで何方も惨いと答えるだろう。
まるで蛙か何かのように開かれ固定された足。おい其れ以上はさすがに外れる、と力を失くした手で胸を叩いた。
正面からは羞恥が酷い。勢い勃つ前も、何なら男の肉を受け入る穴の様子まで、自分で見えてしまい兼ねない。自分の、本来そう在るべきでない使い方をしている其の部分。其処が、男の物を美味そうに咀嚼している様など見たくはなかった。
快い処を押し込めたまま、臼のように腰を回された。
ゼオの腹の上で跳ねる男の象徴は先走りでビシャビシャで、どれ程に其れが快いのかを分かり易く示した。何なら少し位、達して居るかもしれない。
此処まで極まると、射精しているのか、精液を漏らしているのか、雌の様に出さずに気持ち快く為っているのかすら、ゼオには区別がつかなくなる。

「美味そうに呑むな。お前の此処は」

腹の上をぐいりと圧される。最早胎になった其処には、みっちりと詰まった船長の肉が在る。船長の肉の先端が捉えるゼオの泣き処。外と内、より逃げ場なく挟み込まれ潰されて、抱え込まれた足の先端が激しく敷布を掻いた。
でも其処は、一番の泣き処と云うわけじゃない。
胎の奥。後ろもしくは側位から挿入されれば届いてしまう処。
正直ゼオは、其処をされるのは苦手だ。妙な嵌まり方をして、戻って来るのに苦労する。
其れでも。其処を明け渡して此の時間が少しでも短くなるなら、別に惜しいものでもない。

「奥、な、奥して呉れ」

そろそろ限界の近い腰を揺らし、内をなるべく欲を煽る様に締めて催促する。
船長の金目が危険に細まる。獲物を屠る、獣の眼。

如何か生きて終われますようにと、戦場でも祈らぬ神に祈った。

衣擦れが褥を離れる気配がして、船長が部屋を出て行った後。
_ゼオは漸く敷布に脱力した。


ゼオの愛の砕けた日。
砕けた愛は砕けたまま、放り捨てて来てしまった。
あの日、あの夜、あの甲板に。
ゼオの身を探り、昔とは違う触れ方をする船長が探しているのが其れならば、残念、探して見つかるはずも無い。
此の対処に困る気紛れが、云えば変わるかと口を開こうとして、_だが云って、驕るなと嘲笑われればと思えば、其れも気が重かった。
船長は無駄に傲慢で、元来、ゼオを突いて遊ぶのが好きだった。
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