15 / 48
駒鳥は何処へ行く?
"銀"
しおりを挟む
其の日、朝起きると空気が違った。
何やら肌がピリピリする。
何だろう、気のせいかも。と思いながら、団員達の泊って居る棟に入ろうとして_リゼは固まった。
敷居の向こう、空間が圧となって押し迫って来る。重く、冷えて、今にも何かが襲って来るような緊張感。怒り?
冷や汗が噴出して、今すぐ踵を返して逃げ出したい。でも、もしも、其れが何かの気に障ったら。ガンガンと痛む頭。怖ろしい。怖ろしい。
其処に数人の宿泊客が談笑しながら通りがかって、リゼは本気で目を剥いた。此の恐ろしい気配に、気付かぬ人も居ると知る。
宿泊客が、逆方向から向かって来る妓女に、品のない言葉を掛けた。
其処に行き会ったのは何時も明るい彼。
クロさんと、呼ぼうとして躊躇する。
黒髪に変わりない。其の瞳の色が違う。
何時もは暖かなマホガニー。今日は惹き込まれそうな闇に時折銀の紗が掛かる。
そして其の身から来る鬼気。
其れでも表情は静か。_此れでも激情は押さえ込まれている。
「客人。そう、娘を苛めて下さるな」
宿泊客の肩に、背後から手が掛かる。置かれた手に力が籠る。
鬼気迫る様な圧に漸く気付いた宿泊客。
「頼むから怒らせて呉れるなよ」
這う這うの体で逃げ出す客を見送って、不安げな顔をするリゼの頭にポンと左手を置いた。
唐突。
「お前、踊れるか?」
「え?あ、はい!祖母から習ったものだけですが」
頷く。
「一曲踊って呉れるか?」 マーサ! 下の酒場、空けられるか?
はーい!ちょっと待ってねー!
卓やら何やらを端に押しやって、作った空間に立つリゼは緊張の面持ち。
正面には“銀”が座る。
スゥッ 息を吸い、
足が床を打ち鳴らし、腕が一息に剣を引き抜く。
身体に流れるリズム。足が地を叩き、剣が宙を薙ぐ。
四方を巡り、剣を振るう。地を踏み締めて、神を喚ぶ。
何時の間にか、増え、力強くなるリズム。
“銀”の足が土を踏み締めて、リズムを奏でる。
女主人が声を乗せる。
野次馬の驚いた顔。
リゼは無心に踊った。
流れ、“銀”の見送りするリゼに、女主人が声を掛けた。
「ありがとうねぇ。お嬢ちゃん」
酒場から出て行く背中を見送る彼女の顔は、遣る瀬無く曇る。
私たちじゃあ、変わって差し上げられないの。
「でも、少ぉしだけでも、心が晴れた御様子だから」
其の人の居るはずの方向へ視線を戻す。
見送っていた背中は、もう人波に呑まれて見えなくなっていた。
何やら肌がピリピリする。
何だろう、気のせいかも。と思いながら、団員達の泊って居る棟に入ろうとして_リゼは固まった。
敷居の向こう、空間が圧となって押し迫って来る。重く、冷えて、今にも何かが襲って来るような緊張感。怒り?
冷や汗が噴出して、今すぐ踵を返して逃げ出したい。でも、もしも、其れが何かの気に障ったら。ガンガンと痛む頭。怖ろしい。怖ろしい。
其処に数人の宿泊客が談笑しながら通りがかって、リゼは本気で目を剥いた。此の恐ろしい気配に、気付かぬ人も居ると知る。
宿泊客が、逆方向から向かって来る妓女に、品のない言葉を掛けた。
其処に行き会ったのは何時も明るい彼。
クロさんと、呼ぼうとして躊躇する。
黒髪に変わりない。其の瞳の色が違う。
何時もは暖かなマホガニー。今日は惹き込まれそうな闇に時折銀の紗が掛かる。
そして其の身から来る鬼気。
其れでも表情は静か。_此れでも激情は押さえ込まれている。
「客人。そう、娘を苛めて下さるな」
宿泊客の肩に、背後から手が掛かる。置かれた手に力が籠る。
鬼気迫る様な圧に漸く気付いた宿泊客。
「頼むから怒らせて呉れるなよ」
這う這うの体で逃げ出す客を見送って、不安げな顔をするリゼの頭にポンと左手を置いた。
唐突。
「お前、踊れるか?」
「え?あ、はい!祖母から習ったものだけですが」
頷く。
「一曲踊って呉れるか?」 マーサ! 下の酒場、空けられるか?
はーい!ちょっと待ってねー!
卓やら何やらを端に押しやって、作った空間に立つリゼは緊張の面持ち。
正面には“銀”が座る。
スゥッ 息を吸い、
足が床を打ち鳴らし、腕が一息に剣を引き抜く。
身体に流れるリズム。足が地を叩き、剣が宙を薙ぐ。
四方を巡り、剣を振るう。地を踏み締めて、神を喚ぶ。
何時の間にか、増え、力強くなるリズム。
“銀”の足が土を踏み締めて、リズムを奏でる。
女主人が声を乗せる。
野次馬の驚いた顔。
リゼは無心に踊った。
流れ、“銀”の見送りするリゼに、女主人が声を掛けた。
「ありがとうねぇ。お嬢ちゃん」
酒場から出て行く背中を見送る彼女の顔は、遣る瀬無く曇る。
私たちじゃあ、変わって差し上げられないの。
「でも、少ぉしだけでも、心が晴れた御様子だから」
其の人の居るはずの方向へ視線を戻す。
見送っていた背中は、もう人波に呑まれて見えなくなっていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる