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駒鳥は何処へ行く?
都市での日々
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店の女主人は「珍しいお客」と笑った。
此の店が宿屋と云うのは嘘ではなかった。_但し、娼館も兼ねる。
女の子と云う事でリゼが入れられたのは妓女達の並びの部屋。うっかり時間の確認を怠り廊下に出ると、表では煌びやかに着飾る女性達が肌も露わに寛いでいたりする。
此の宿を選んだ黒髪の彼は、「“クロ”で良い」と名乗ったので、リゼは彼をクロさんと呼んでいる。
此の店がクロの定宿と云うのは本当で、女主人の部屋で休むことも多いと云うのは、妓女たちの罪のない噂話。
此処での滞在は長くなるらしい。
未だ合流して居ない団員を待ちながらの情報収集。
_リゼの、祖母を“真ん中に帰したい”と云う希望も含めて。
其の日、リゼは宛がわれた部屋で、祖母の骨を納めた壺と共に日光浴をしていた。
此処に祖母が居るわけではないと知りつつも、暗い処ばかりに居るのも心が痛み、妥協案_リゼが部屋で日光浴する時に、祖母の壺も隣で日光浴させている。
唐突にノックも無く開け放たれた戸口。
え?と顔を巡らせればクロ。
何事かを喋ろうとした彼は、壺を見て口を噤んだ。
何時もの賑やかさからは想像もつかない静かさでテーブルに近づき、壺の蓋を静かに開けた。
「血縁か?」
「祖母です」
「笑って逝ったかい?」
「はい」
なら、まあ、良いだろう。
蓋を優しく戻し、指先でついり壺を撫でる。
「お疲れさん」
「_ありがとう、ございます」
報われたのだと思った。祖母の人生は報われた。
泣き出したリゼが無き止むまで、クロは静かに隣に居てくれた。
ぐすりぐすりと鼻を鳴らしながら、リゼが祖母の帰りたがった場所の話をすると、クロは少し驚いた顔をした。如何やらクロは、リゼが祖母の弔いの為に“真ん中”へ行きたがっている事を、今の今まで知らなかったらしい。
「同行は出来ないが、道なりならば教えてやれるぜ」
天の助けが現れた心地で舞い上がり、リゼは其の儘、クロに肩を抱かれて団長の元へ直行した。
クロと団長の話は専門用語も多く、リゼには良く解らなかったが、喧々諤々、あと数人の団員を巻き込んで話し合いがされ、如何にか斯うにか、何らか団としての利益の算段も付いた様子だった。
※
此の都市に着いてから、ゼオは時折リゼを散歩に連れ出した。
此れがゼオなりの散歩と称した社会見学であると、散歩数回目にしてリゼは悟った。
巡礼地として人を集める大聖堂。人で賑わい掏りが潜む市場。貧窮院や救護院、其れに付随する孤児院など。
淡々と説明するゼオは、こう言った事に詳しいようだった。
何故と聞けば、元は似たような港町の出身だと答えが返ってきた。
「あの頃の俺が居たのは、此の都市で云うと、あの辺りか」
指し示す先は、リゼが皆に口を酸っぱくして迷い込まないように注意しろと教えられた通りだった。
「其処からどうやって傭兵に?」
「…ちょっとな」
其れまで淀みなく答えて呉れていたゼオの初めてのあやふやな答えは、玻璃のように酷く脆い匂いがした。
此の店が宿屋と云うのは嘘ではなかった。_但し、娼館も兼ねる。
女の子と云う事でリゼが入れられたのは妓女達の並びの部屋。うっかり時間の確認を怠り廊下に出ると、表では煌びやかに着飾る女性達が肌も露わに寛いでいたりする。
此の宿を選んだ黒髪の彼は、「“クロ”で良い」と名乗ったので、リゼは彼をクロさんと呼んでいる。
此の店がクロの定宿と云うのは本当で、女主人の部屋で休むことも多いと云うのは、妓女たちの罪のない噂話。
此処での滞在は長くなるらしい。
未だ合流して居ない団員を待ちながらの情報収集。
_リゼの、祖母を“真ん中に帰したい”と云う希望も含めて。
其の日、リゼは宛がわれた部屋で、祖母の骨を納めた壺と共に日光浴をしていた。
此処に祖母が居るわけではないと知りつつも、暗い処ばかりに居るのも心が痛み、妥協案_リゼが部屋で日光浴する時に、祖母の壺も隣で日光浴させている。
唐突にノックも無く開け放たれた戸口。
え?と顔を巡らせればクロ。
何事かを喋ろうとした彼は、壺を見て口を噤んだ。
何時もの賑やかさからは想像もつかない静かさでテーブルに近づき、壺の蓋を静かに開けた。
「血縁か?」
「祖母です」
「笑って逝ったかい?」
「はい」
なら、まあ、良いだろう。
蓋を優しく戻し、指先でついり壺を撫でる。
「お疲れさん」
「_ありがとう、ございます」
報われたのだと思った。祖母の人生は報われた。
泣き出したリゼが無き止むまで、クロは静かに隣に居てくれた。
ぐすりぐすりと鼻を鳴らしながら、リゼが祖母の帰りたがった場所の話をすると、クロは少し驚いた顔をした。如何やらクロは、リゼが祖母の弔いの為に“真ん中”へ行きたがっている事を、今の今まで知らなかったらしい。
「同行は出来ないが、道なりならば教えてやれるぜ」
天の助けが現れた心地で舞い上がり、リゼは其の儘、クロに肩を抱かれて団長の元へ直行した。
クロと団長の話は専門用語も多く、リゼには良く解らなかったが、喧々諤々、あと数人の団員を巻き込んで話し合いがされ、如何にか斯うにか、何らか団としての利益の算段も付いた様子だった。
※
此の都市に着いてから、ゼオは時折リゼを散歩に連れ出した。
此れがゼオなりの散歩と称した社会見学であると、散歩数回目にしてリゼは悟った。
巡礼地として人を集める大聖堂。人で賑わい掏りが潜む市場。貧窮院や救護院、其れに付随する孤児院など。
淡々と説明するゼオは、こう言った事に詳しいようだった。
何故と聞けば、元は似たような港町の出身だと答えが返ってきた。
「あの頃の俺が居たのは、此の都市で云うと、あの辺りか」
指し示す先は、リゼが皆に口を酸っぱくして迷い込まないように注意しろと教えられた通りだった。
「其処からどうやって傭兵に?」
「…ちょっとな」
其れまで淀みなく答えて呉れていたゼオの初めてのあやふやな答えは、玻璃のように酷く脆い匂いがした。
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