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駒鳥は何処へ行く?
襲撃
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酷い胸騒ぎがしてゼオは跳び起きた。
寝ず番、半身起こした寝ているはずの男、眼が合った。皆で頷きかわすと、次々、剣を手に野営の火の傍へ集う。
先に着いていた男達の顔は険しく、物音に振り返った顔は火で赫く染められて仮面でも被ったように見えた。
「襲撃だ。未だ少し距離が在るが」
「未だ?今は?」
其の時、風で炎が大きく揺らいだ。
「昨夜、宿を願った村だ」
※
村の家々には火が放たれて燃えていた。兵装の男が振るった剣を受けた男の周りに、血か火の粉か赤が散った。
人の顔が赫い炎に照らされて、人でないような陰影を持つ。
隣町の教会。壁に描かれた地獄を描いた絵。_迫真であったと、今正に知る。
地獄絵図の中に迷い込んだと云われた方が納得できる酸鼻。否、地獄絵の方が_未だ穏やか。人の醜さは、霊感ある芸術家の飛翔する想像力を凌駕する。
悲鳴が、哄笑が、_死に態の人間の最期末期の痙攣を、指差し嗤う人間の悍ましさ。
血に酔い、
目の前に仁王立つ男の歪んだ顔の赤い化粧は血だろうか?
捧げ持つ剣にはヌラヌラ濡れて毛深い肉片がこびり付いている(其れは隣家の主人の髪色によく似ていた)。
ドッと体に衝撃が走り、倒れ込んだ地面。
続いてドッと鈍い音がして何かが転がる。体の上に何かが乗っている。体に温かい鉄の匂いの水が掛かる。
逃がした視線の先で、眼が合った。意地悪な、あの子。驚いた顔の口がパクパクと動いて動いて、止まって、涙が一筋流れていった。首から上だけの顔。
首から下は、私の体の上。
芒洋と見る、目の前に仁王立つ男に矢が生える。針鼠になった男はドオッと倒れた。
遠く遠くに男が見えた。
相対する背中があった。_見慣れた背中。
男の手に持つ銀色が、見慣れた女の背中から生える。
相も変わらず、お前は愚か。
マチルダは目の前の男_冬を哀れに想った。
昔随分とよく見た顔は、よく見た不満げな表情で、マチルダに気付かない。
さて、とマチルダは考える。そんな事よりも。
村の防御には其れなりに力を入れていた。少なくとも、強行突破で此れほど無傷な軍勢は維持できない程度には。恐らく内から弱められた。遣った相手に、予想は在るが確証はない。そして確証とった処で最早無意味。
加えて、走る魔力の癖に覚えがある。良く知った夏_女が手を貸している。
…村人は殆どが死んでいるか死に態か。
聴こえる。 遠くから駆けて来る、騎馬の音。_どうやら最悪は免れる。
恐らく自分は此処で死ぬが、其れはそうとして特に大きな問題も無さそうだ。
申し訳ないが、託させてもらおう。
男が剣を突き出して、此の身を銀の切っ先が貫く。
熱。痛み。笑う。_間に合った人。託し。
_そして”私”は闇の中。
さあ、村人たちが迷わぬように先導せねばならぬ。
※
視界の内、子どもを痛めつけて楽しんでいたらしき男が、何処からか飛来した矢で針鼠に為った。
何らかの敵。_馬鹿な。こんな寒村に味方して何の利がある。
咄嗟に目の前の老女を刺し殺す。
時間さえあれば色々と聞きたい事もあったが、これ程の使い手。使えるのが守りの術だけだとしても、敵対勢力と組まれれば十分な脅威となる。
森の向こう。赤く光ったと思えば、赤い_炎を術で固めた矢が襲い掛かる。
当たれば燃える。当たらずとも、草原に燃え移れば蒸し焼きとなる。
此の村の味方ではなく夜盗の類かと老婆を見下ろすと、老女の周り拳2つ分より先に炎は進まず立ち消える。
精度高い条件付与。
今日は村の入口に敷かれた術を破るのにかなりの魔力を使ってしまっている。これだけの相手とかち合うのは可なり拙い。
遠耳で声を渡す。
「敵だ。防げるか」
『無理ね。もう一つの術式も破られそうだわ』
「如何にかする方法は?」
『無いわ』
声と共に、バチリと音がした。術の喪失。
撤退の命を出そうとした処で、殺気を感じた。
初撃を防げたのは、ある程度は運だった。
男。
突出など愚の骨頂と云わせぬだけの、剣の速さ、回避力。
若いとは云えぬ年に見える。一流ではありそうだが、其の中では技量もそこそこ。
しかし恐らく、打ち取る前に後続が着く。
武具からすれば傭兵。しかし聞いた事が無い。こんな目立つ戦い方をする男など!
『貴方と、生き延びれる隊員だけ移すわ。_歯を食い縛りなさいな』
脳裏に届けられた声。余韻が消える前に、_世界は暗転した。
寝ず番、半身起こした寝ているはずの男、眼が合った。皆で頷きかわすと、次々、剣を手に野営の火の傍へ集う。
先に着いていた男達の顔は険しく、物音に振り返った顔は火で赫く染められて仮面でも被ったように見えた。
「襲撃だ。未だ少し距離が在るが」
「未だ?今は?」
其の時、風で炎が大きく揺らいだ。
「昨夜、宿を願った村だ」
※
村の家々には火が放たれて燃えていた。兵装の男が振るった剣を受けた男の周りに、血か火の粉か赤が散った。
人の顔が赫い炎に照らされて、人でないような陰影を持つ。
隣町の教会。壁に描かれた地獄を描いた絵。_迫真であったと、今正に知る。
地獄絵図の中に迷い込んだと云われた方が納得できる酸鼻。否、地獄絵の方が_未だ穏やか。人の醜さは、霊感ある芸術家の飛翔する想像力を凌駕する。
悲鳴が、哄笑が、_死に態の人間の最期末期の痙攣を、指差し嗤う人間の悍ましさ。
血に酔い、
目の前に仁王立つ男の歪んだ顔の赤い化粧は血だろうか?
捧げ持つ剣にはヌラヌラ濡れて毛深い肉片がこびり付いている(其れは隣家の主人の髪色によく似ていた)。
ドッと体に衝撃が走り、倒れ込んだ地面。
続いてドッと鈍い音がして何かが転がる。体の上に何かが乗っている。体に温かい鉄の匂いの水が掛かる。
逃がした視線の先で、眼が合った。意地悪な、あの子。驚いた顔の口がパクパクと動いて動いて、止まって、涙が一筋流れていった。首から上だけの顔。
首から下は、私の体の上。
芒洋と見る、目の前に仁王立つ男に矢が生える。針鼠になった男はドオッと倒れた。
遠く遠くに男が見えた。
相対する背中があった。_見慣れた背中。
男の手に持つ銀色が、見慣れた女の背中から生える。
相も変わらず、お前は愚か。
マチルダは目の前の男_冬を哀れに想った。
昔随分とよく見た顔は、よく見た不満げな表情で、マチルダに気付かない。
さて、とマチルダは考える。そんな事よりも。
村の防御には其れなりに力を入れていた。少なくとも、強行突破で此れほど無傷な軍勢は維持できない程度には。恐らく内から弱められた。遣った相手に、予想は在るが確証はない。そして確証とった処で最早無意味。
加えて、走る魔力の癖に覚えがある。良く知った夏_女が手を貸している。
…村人は殆どが死んでいるか死に態か。
聴こえる。 遠くから駆けて来る、騎馬の音。_どうやら最悪は免れる。
恐らく自分は此処で死ぬが、其れはそうとして特に大きな問題も無さそうだ。
申し訳ないが、託させてもらおう。
男が剣を突き出して、此の身を銀の切っ先が貫く。
熱。痛み。笑う。_間に合った人。託し。
_そして”私”は闇の中。
さあ、村人たちが迷わぬように先導せねばならぬ。
※
視界の内、子どもを痛めつけて楽しんでいたらしき男が、何処からか飛来した矢で針鼠に為った。
何らかの敵。_馬鹿な。こんな寒村に味方して何の利がある。
咄嗟に目の前の老女を刺し殺す。
時間さえあれば色々と聞きたい事もあったが、これ程の使い手。使えるのが守りの術だけだとしても、敵対勢力と組まれれば十分な脅威となる。
森の向こう。赤く光ったと思えば、赤い_炎を術で固めた矢が襲い掛かる。
当たれば燃える。当たらずとも、草原に燃え移れば蒸し焼きとなる。
此の村の味方ではなく夜盗の類かと老婆を見下ろすと、老女の周り拳2つ分より先に炎は進まず立ち消える。
精度高い条件付与。
今日は村の入口に敷かれた術を破るのにかなりの魔力を使ってしまっている。これだけの相手とかち合うのは可なり拙い。
遠耳で声を渡す。
「敵だ。防げるか」
『無理ね。もう一つの術式も破られそうだわ』
「如何にかする方法は?」
『無いわ』
声と共に、バチリと音がした。術の喪失。
撤退の命を出そうとした処で、殺気を感じた。
初撃を防げたのは、ある程度は運だった。
男。
突出など愚の骨頂と云わせぬだけの、剣の速さ、回避力。
若いとは云えぬ年に見える。一流ではありそうだが、其の中では技量もそこそこ。
しかし恐らく、打ち取る前に後続が着く。
武具からすれば傭兵。しかし聞いた事が無い。こんな目立つ戦い方をする男など!
『貴方と、生き延びれる隊員だけ移すわ。_歯を食い縛りなさいな』
脳裏に届けられた声。余韻が消える前に、_世界は暗転した。
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