駒鳥は何処へ行く?

湯月@重陽

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駒鳥は何処へ行く?

姉弟

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乱暴に閉めた豪奢の扉が、壊れそうな音を立てて苦情を申し立てた。

星も月も無い無貌の夜以来、随分と不吉なことが続く。
夏は冬のように寒く、作物の実りが少ない。収穫が減れば食い詰める人間も増えて、其れが過ぎれば、土地、其の収穫の奪い合い。村同士の争いは周辺の都市を巻き込んで大きくなった。彼方此方で戦火が沸き起こり、今にも国全土を巻き込みそうな勢い。
十二年、耐えた。此れ以上は、難しかった。

人払いをした室内。
無人の筈の部屋から人の気配がしても、男は驚かなかった。

「王は何と?弟」
「無貌の夜の原因を除けと。姉者」
「無茶だ事!私、あの日、何も感じなかったのよ?_大きな者は生まれていないわ」

用意された果実を一つ二つ。女が手を伸ばせば、果物は自ら皮を失くして分けられる。
女は一切れひょいと口にした。

「では何が原因か、姉者」
「母_一等の地母神が隠れたの。風の神が地母神の半身_春の神を殺して、其れ以来、地母神は己が聖域すら隠してしまった」
世界の中心に在った山が、深い深い穴に為った。
「母が姿を隠した直後は、むしろ散った力の恩恵で強いものが生まれたけれど…」当時は、易く皆、沸いたものだ。「幾ら量が多くとも、限りのある力は使ってしまえば減るばかり。…もう、ジリ貧ね」
「戻すには?」
「神々の事を、人である私が知るわけも無いわ」
「地母神が駄目ならば、風の神だ」
「風の神_風の方は人に興味が薄いわ。…母以外に興味のない方だった」

「では、どうする!」

長卓に拳を叩きつけて咆える。
皿が跳ね、果物が転がったが、姉は微動だにしない。_動かない。

姉は世界に数人しか居ない生粋の魔術師の一人。意のままに空間を渡り、人知の及ばぬ術を行使する。
少なくとも、飢えも寒さも知らずに生きる。_其の様に、忘れた筈の記憶が蘇る。

「相も変わらず、夏は傲慢だ」
「あら、今では傲慢なのは冬でしょうに」_それとも、相も変わらず冬は怖がっているのかしら?
ぐっと詰まる。云い返そうとして、_云い返す事も、だんまり決め込むことも姉の言葉を肯定する事に気付く。
其れでも一矢、報いたい。

「望む星は登ったか、姉者」

「…分かっている事をわざわざ問うのは、お前の悪い癖よ。弟」
冷ややかに笑って、女は忽然と消えた。
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