駒鳥は何処へ行く？

駒鳥は何処へ行く？

渡り鳥

傭兵団はいつも、戦、戦の渡り鳥。
何処へ行こうと、ある程度の需要はある。
ジリ貧とは云わず蓄えは程々あれども、働くときに働かねば立ち行かぬ。
案外、世界は優しく厳しく平等で、不平等だった。

今日までの戦場を離れ、次の戦場へと移動する。
この一帯はもうじき冬。
雪の深い地方。機を逃せば、春まで足止めを食いかねない。

冬となれば団を離れる団員が幾らか居て、彼らは先に旅立った。
今は残った人員でのみで、移動の準備。
ついさっきまで隣で荷物の整理をしていた団員は、発つ前にと鍋の修繕をしに出て行った。
暫くは人の疎らな土地を行く。ある程度の技量の職人を探すなら、人が寄る所で探した方が早い。

そもそも傭兵団が必要とされるには、往々にして理由がある。
人海戦術を取りたいという真っ当な理由以外にも色々と。

例えばとても単純な話。此方に矢衾作る相手と此方に無防備に背を向ける相手。一体どちらが襲い奪い易いかと云う話から。
味方である筈の友軍が通った後、人々の啜り泣きで満たされる道云々。
「何と素晴らしく金持ちになった事か！」
大声で咆える絢爛豪華を纏った貴人たちが零れ落とす黄金の幾らかは、彼らの友軍の治める土地の人々から搔き集められたものだった。

はて、さて、味方とは。

土地持ちの領主たちは「援軍を出す」と云う諸侯らに、「いやいや、お手を煩わすに及ばず」と笑顔と渾身の拒絶の身振りで早々に領地に引き籠り、幾らかの支出を出しても傭兵を雇った方がマシと募集を掛ける。

そう云った領主は傭兵にも其れなりの規律を求める＿地元民に手出しするなと云った程度の規律ではあるが。
しかし其れを守れぬものが居るからこそ彼らが雇い入れられる訳で、其処から縁を持って領主に召し抱えられる傭兵団の話もある。
傭兵団の幾らかは其れ目当て。
其の中でこの傭兵団は少しばかり異色。幾つかの領主から専属の打診を受けども頷かず、其の場に術者の一人でもいれば顔色変えて領主の服の裾を引き、止める有様。

歴史長い傭兵連中の中では有名な話。
あの団は幾らか人の身ならぬ者が居る。

初代団長であるジャック・エオンは其処で顔を顰めた。
歴史長い傭兵連中が噂する団の団長が初代で止まっているというだけで、噂の真偽は大体分かる。
元々は有名名門有力な術者一族の家門の出の身。
肌が合わずに生家を飛び出し、生家でも遭遇しないような大物に目を着けられた。
其れ以来の長寿。其れ以来の不老。死ねるかどうかは怖くて聞けない。

団員達も何処から聞きつけるか様々集まる。
死ねども死なない者が居て、
死ぬはずの打撃で死なない者が居て、
死んでなければおかしい加齢を重ねる者が居る(見た目は若い)。

生家に居るよりも余程に人外が集まった。
人生はままならないものとの言葉は、誰も聞かずに風に攫われた。