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第四章 戦え! エルフの森

第八十三話 エルフの水浴び

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 プランツ教授の淹れてくれたお茶をすすりつつ、風霊様の恵みで作った菓子なるものを一切れいただいてみる。竹を削って作った爪楊枝を差し込むと、ゼリーのような見た目とは裏腹にしっかりした手応えで、そのまま持ち上げることができた。

 口に入れるともちもちとした食感で、ハッカのような刺激的な香りが鼻を抜ける。噛むうちにほんのりとした甘みが出てきて、なんとも独特な味わいだ。ちょっぴり苦味のあるエルフのお茶にぴったり合う。

「ぷるぷるもちもちで、面白い味ですねえ。そういえば、風霊様の恵みってなんなんですか?」
「ああ、生えたばかりの竹のことだ。地面から顔を出したばかりのときは柔らかくて丸ごと食べられる。これはその中に詰まった汁を煮詰めて固めたものだ」

 ミリーちゃんの質問にマーシャルさんが答える。その液体は食べることもできるし、にかわのように接着剤として使ったり、防水性の塗料としても使用できるそうだ。

 ほほーう、要するに風霊様の恵みとはタケノコのことだったのか。しかし、地球のタケノコにそんな液体は含まれていなかった。やはり、見た目は似ていても実際には異なる植物なんだろう。

「それに、こればかり食っていても力がつかん。あくまで腹の足し、という程度だな」

 マーシャルさんによると、もう30日以上も籠城が続いており、食料の備蓄がかなり乏しくなっているそうなのだ。とくに肉類は食べ尽くしてしまっており、村に飛んでくる鳥を射落として食べているとのこと。その鳥も、警戒してめったに村に飛んでくることはないらしい。

 うーん、どうしたものかな。この村とわたしたちはもはや一蓮托生だ。村の戦力がいざというときに空腹で力が出せないとなるとわたしたちとしても困る。とはいえ、一人で判断してよいことでもない。

 ミリーちゃんに目配せすると、迷いなくうなずいてくれた。いちいち損得を考えてしまうわたしとは違ってその表情は純粋そのものだ。うう、まぶしい。心が痛いぜ。

「あの、多くはないですが、わたしたちの乗り物にも食料やお菓子、お酒を積んであります。よかったらそれをみんなで分け合いませんか?」
「それはありがたいが……いいのか?」

 ええ、ええ、いいんですよ。あなた方に倒れられてしまったらわたしたちも困るんですから。ホントはドワーフ村のみんなへのお土産用だったのだけれど、ここで惜しんで命を失っては元も子もない。

 というわけで、地を這う閃光号ソーラーカーのトランクから荷物を降ろしてマーシャルさんに引き渡した。内容は日持ちのする酒の肴やお菓子、度の強いお酒などだ。言うまでもなく、ショッピングセンターでもらったものである。

「どれも見たことがないものばかりだな……。こんな豪華な包み紙まであるなんて、貴族が食べるような高級品じゃないのか?」

 マーシャルさんが色とりどりのパッケージをしげしげと観察している。

 いえいえ、わたしの故郷では駄菓子みたいなもんなんです。金持ちはむしろこういうものはあんまり食べないんじゃないですかね。わたしは金持ちじゃなかったのでよく知らないですけれど。

 ジャーキーやサラミのたぐいは細かく切ってスープに入れれば、出汁が出て多少とも肉を食べた気分になれるだろうと伝える。二百人以上いる村民で分けたら本当に気休め程度にしかならないだろうけれど……。

「何から何まで、本当にすまん。風霊様に誓って、この苦難を乗り越えたら必ず礼をさせてもらう」

 マーシャルさんが自分の胸の前に両手を当て、右手の二本指を左手で隠してお辞儀をする。これがエルフ流の最敬礼なのだろうか。わたしも慌てて仕草を真似てお辞儀を返す。

「ん? ああ、すまん。これは我々エルフに伝わる感謝を示す仕草だ。あんたたちには何があろうと一生弓を向けることはない、という意味になる」

 なるほど、それで人差し指と中指を隠していたのか。中国の抱拳礼、右の拳を左手で隠すジェスチャーと似たような発想なのかな。

「あんたらも腹が減ってきた頃合いだろうが、炊き出しにはまだ時間がかかる。汗もかいたろうし、先に水浴びを済ませてくるといい」

 おお、エルフの水浴び。やはりきれいな泉があって、そこで美麗なエルフたちがキャッキャウフフと水のかけあいっこなんかをしているのだろうか。やたらキラキラしたエフェクトや、謎の白い光が差し込んでくる光景を想像する。

 マーシャルさんが通りがかった女性に声をかけ、わたしたちを水浴び場まで案内するように伝える。その女性に従って村の端の方まで歩いていくと、村を覆う壁よりはずっと低い、竹製の壁に囲まれたところまで連れてきてくれた。

 中を覗くとそこに泉などはなく、ガラスのように透き通った竹が距離をおいて何本も生えていた。陽光を反射して輝いており、外よりも明るい。床には青竹が敷き詰められていて、地面が見えない。んんー? ここで何をしろと?

「ああ、外からいらした方はわからないですよね。これはこうして使うんです」

 案内をしてくれた女性が一本の透明な竹に近づき、コンと叩くとすかさず離れた。一呼吸置いて、ざあざあと大量の水が降り注ぎ、しばらくして止む。なるほど、この竹はシャワーのようなものだったのか。

「この竹からは水霊様のお力を感じますねえ」
「はい、偉大なる風霊様と、風霊様に従う水霊様のお力を借りて、このような竹を生やしていただいたのです」

 ふむふむ、ドワーフ村温泉でミリーちゃんやオババ様が水を操ってみせたようなものか。この土地だと風霊様がカーストトップというわけだ。

 水浴びの時間にはまだ早かったのか、竹製シャワー室の中にはまだ誰もいなかった。案内の女性もいなくなり、ミリーちゃんも着替えを取りに行ったのでわたしはお先にシャワーを浴びさせてもらう。

 セーラー服は脱げないので、もちろん着衣のままだ。これ以上、地球や日本をセーラー服を着たまま風呂に入る奇っ怪な習慣を持つ民族だと思わせるわけにはいかないのである。
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