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第三章 稼ぐぞ! 学術都市
第七十六話 超速で距離を詰められても暑苦しくっていやなんす
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「みさきも、やっぱりジャークダーとの戦いで死んでこっちに来たのか?」
「はあ?」
わけのわからない質問に、思わず間抜けな返事をしてしまう。
いまわたしがいるのは闘技場にほど近い酒場の一角だ。テーブルの反対側には爽やかイケメンが座っている。瘴気領域の主はきっちり仕留められたし、混乱する現場に付き合うのは面倒くさそうなので一旦外へ逃げてきたのだ。
ミリーちゃんとリッテちゃんは少し離れた席で冷たい飲み物を飲んで休んでいる。あの戦車の中は狭い上にほとんど密閉されているので、かなり暑かったようだ。
現場が落ち着いたら事情聴取だのなんだのがあるだろうし、一服してから闘技場に戻るつもりだった。そこへ、この爽やかイケメンがついてきたのである。
わたしのセーラー鎧モードも解けていたが、爽やかイケメンの方もあの変身ヒーローモードが解除されている。止血のためなのか、頭にはバンダナのようなものが乱暴に巻かれていた。
セーラー服君はスリープモードだが、会話に差し支えはない。お互い日本語で話しているから……というわけではなく、わたしがメガネちゃんたちからもらったミニドラム缶ロボ型自動翻訳セットを身に着けているからだ。
わたしたちの会話は、日本語ではなくこちらの言葉で交わされている。
「まさか、ジャークダーを知らないのか? みさきも日本で戦うヒーローのひとりだったんだろ?」
「はあ?」
またしても噛み合わない質問に間抜けな返事をしてしまう。そもそも、ジャークダーってなんなんだよ。
「ジャークダーはジャークダーだろ。世界中で悪事を働く悪の秘密結社で、正義の女神セイギネス様がやっつけようとしてたんだ」
いや、さっぱりわからねえっす。ちょっと整理して教えてください。
噛み合わないところが多々あったが、話を整理するとこのヒロトという男は地球では戦隊ヒーローのリーダーをやっていて、ジャークダーという組織と日々死闘を繰り広げていたらしい。
そして、いよいよ最終決戦というときに敵の大幹部と刺し違えになり、正義の女神セイギネスなる存在のはからいでこちらの世界に転生してきたそうなのだ。なお、こちらの世界に生を受けてから20年の歳月が経っているそうだ。
うーむ、わからん。わからんが、このヒロトという人物がわたしと同じ地球から来たわけではない……というのは間違いないと思う。わたしがいた日本には、変身ヒーローも悪の秘密結社も存在しなかった……はずだ。
つまり、地球と似たような別の異世界があって、そこからこの世界にやってきたという可能性が高いと思う。二度あることは三度あると言うし、世界がわたしがいた地球と、いまいるこっちのふたつだけ、と考える方がむしろ不自然だろう。
「えっと、とりあえず下の名前で呼び合うのもちょっとアレなんで、フルネームを教えてもらえます?」
「なんだよ水臭いな。オレとみさきはもう宿敵だってのによ。だが、ちゃんと名乗ってなかったのは悪かった。オレの名前は天王寺英雄人ってんだ。英雄の人って書いてヒロト、カッコいいだろ?」
うわー、響きは普通だったけど漢字を合わせるとキラキラネームだ。学校の先生とか、「えいゆうじん? ひでおと?」みたいに困ってたんじゃないだろうか。
「わたしは高町みさきです。武術大会でもフルネームで登録してたので知っていると思いますが……」
「おうっ! もちろん知ってるぜ! 今後ともよろしくな、みさき!」
うっわー、わかってねえ。マイクロメートル単位でわかってねえよ。敬称は要らんからせめて名字で呼べって言いたいんですよこっちは。そんな超速で距離を詰められても暑苦しくっていやなんす。
「話を戻しますが、天王寺さんは死んでからこっちに来たんですか?」
「オレのことはヒロトでかまわねえぜ! そう、おれは死んでからこっちに生まれ変わったけど、みさきは違うのか?」
うーん、相変わらずこの距離の詰め方が苦手過ぎる。まあ気にしすぎても話が進まん。詰められたらこちらがバックステップしながら会話を進めよう。
離れた席に座っているミリーちゃんからは「なんだこの妙に馴れ馴れしい男は」という感じの視線が送られてきている。どうやらカガ君に続く第二の敵認定がされかかっているようだ。かまわんぞ、その冷たい視線でこの暑苦しい男を凍らせてくれ。
「いえ、わたしは生きたままこちらに来ましたね」
「そんなことができたんだな! セイギネス様でも魂をこっちに送るのが精一杯だって言ってたのに、みさきはすげえんだな!」
いや、別にわたしがすごいわけじゃなくて、だるっだるのスウェットを着た性格が悪そうな女神モドキに強制的に送り込まれたんです。付け加えると、こっちの神様には邪神扱いされてました。
「邪神だって!? ジャークダーみたいなやつが他にもいたのか!」
いやそんな勝手に盛り上がられても知らんし。そもそも人間そのものにあんま関心なさそうだったから、そのジャークダーってやつとはだいぶ違う気がしますよ。
「そうだな。たしかにジャークダーは人間を絶滅させることに異様に執着してた。冷静に考えるとぜんぜん違うものかもしれない……」
そうなんすよー。なのでわたしもそっち側の熱血領域とはぜんぜん関係ない存在なんす。ところで、天王寺さんはなんで武術大会なんかに出てたんです?
「もちろんこの世界にはびこる邪悪、魔王たちを倒すためさ! 王国軍に加わって悪を滅ぼすんだ!」
ほあー、それはご立派な心がけで。
「それから、いまみさきに教えてもらった女の邪神ってのも倒さないとな!」
倒してもらえるのならたいへん結構なんですが、たぶんそれはかなりのハードモードだと思います。
「ああ、こちらにいらっしゃいましたか。高町様、ヒロト様」
そこへいかにも小役人といった風体の男が口を挟んできた。現場の混乱が落ち着いてきたので、関係者を探し歩いていたようだ。だいぶ駆け回ったようで、額から汗が流れ落ちている。
爽やかイケメンと話していてもこれ以上得るものはなさそうだし、役人さんにも悪いから素直に闘技場へ戻ることにした。
「はあ?」
わけのわからない質問に、思わず間抜けな返事をしてしまう。
いまわたしがいるのは闘技場にほど近い酒場の一角だ。テーブルの反対側には爽やかイケメンが座っている。瘴気領域の主はきっちり仕留められたし、混乱する現場に付き合うのは面倒くさそうなので一旦外へ逃げてきたのだ。
ミリーちゃんとリッテちゃんは少し離れた席で冷たい飲み物を飲んで休んでいる。あの戦車の中は狭い上にほとんど密閉されているので、かなり暑かったようだ。
現場が落ち着いたら事情聴取だのなんだのがあるだろうし、一服してから闘技場に戻るつもりだった。そこへ、この爽やかイケメンがついてきたのである。
わたしのセーラー鎧モードも解けていたが、爽やかイケメンの方もあの変身ヒーローモードが解除されている。止血のためなのか、頭にはバンダナのようなものが乱暴に巻かれていた。
セーラー服君はスリープモードだが、会話に差し支えはない。お互い日本語で話しているから……というわけではなく、わたしがメガネちゃんたちからもらったミニドラム缶ロボ型自動翻訳セットを身に着けているからだ。
わたしたちの会話は、日本語ではなくこちらの言葉で交わされている。
「まさか、ジャークダーを知らないのか? みさきも日本で戦うヒーローのひとりだったんだろ?」
「はあ?」
またしても噛み合わない質問に間抜けな返事をしてしまう。そもそも、ジャークダーってなんなんだよ。
「ジャークダーはジャークダーだろ。世界中で悪事を働く悪の秘密結社で、正義の女神セイギネス様がやっつけようとしてたんだ」
いや、さっぱりわからねえっす。ちょっと整理して教えてください。
噛み合わないところが多々あったが、話を整理するとこのヒロトという男は地球では戦隊ヒーローのリーダーをやっていて、ジャークダーという組織と日々死闘を繰り広げていたらしい。
そして、いよいよ最終決戦というときに敵の大幹部と刺し違えになり、正義の女神セイギネスなる存在のはからいでこちらの世界に転生してきたそうなのだ。なお、こちらの世界に生を受けてから20年の歳月が経っているそうだ。
うーむ、わからん。わからんが、このヒロトという人物がわたしと同じ地球から来たわけではない……というのは間違いないと思う。わたしがいた日本には、変身ヒーローも悪の秘密結社も存在しなかった……はずだ。
つまり、地球と似たような別の異世界があって、そこからこの世界にやってきたという可能性が高いと思う。二度あることは三度あると言うし、世界がわたしがいた地球と、いまいるこっちのふたつだけ、と考える方がむしろ不自然だろう。
「えっと、とりあえず下の名前で呼び合うのもちょっとアレなんで、フルネームを教えてもらえます?」
「なんだよ水臭いな。オレとみさきはもう宿敵だってのによ。だが、ちゃんと名乗ってなかったのは悪かった。オレの名前は天王寺英雄人ってんだ。英雄の人って書いてヒロト、カッコいいだろ?」
うわー、響きは普通だったけど漢字を合わせるとキラキラネームだ。学校の先生とか、「えいゆうじん? ひでおと?」みたいに困ってたんじゃないだろうか。
「わたしは高町みさきです。武術大会でもフルネームで登録してたので知っていると思いますが……」
「おうっ! もちろん知ってるぜ! 今後ともよろしくな、みさき!」
うっわー、わかってねえ。マイクロメートル単位でわかってねえよ。敬称は要らんからせめて名字で呼べって言いたいんですよこっちは。そんな超速で距離を詰められても暑苦しくっていやなんす。
「話を戻しますが、天王寺さんは死んでからこっちに来たんですか?」
「オレのことはヒロトでかまわねえぜ! そう、おれは死んでからこっちに生まれ変わったけど、みさきは違うのか?」
うーん、相変わらずこの距離の詰め方が苦手過ぎる。まあ気にしすぎても話が進まん。詰められたらこちらがバックステップしながら会話を進めよう。
離れた席に座っているミリーちゃんからは「なんだこの妙に馴れ馴れしい男は」という感じの視線が送られてきている。どうやらカガ君に続く第二の敵認定がされかかっているようだ。かまわんぞ、その冷たい視線でこの暑苦しい男を凍らせてくれ。
「いえ、わたしは生きたままこちらに来ましたね」
「そんなことができたんだな! セイギネス様でも魂をこっちに送るのが精一杯だって言ってたのに、みさきはすげえんだな!」
いや、別にわたしがすごいわけじゃなくて、だるっだるのスウェットを着た性格が悪そうな女神モドキに強制的に送り込まれたんです。付け加えると、こっちの神様には邪神扱いされてました。
「邪神だって!? ジャークダーみたいなやつが他にもいたのか!」
いやそんな勝手に盛り上がられても知らんし。そもそも人間そのものにあんま関心なさそうだったから、そのジャークダーってやつとはだいぶ違う気がしますよ。
「そうだな。たしかにジャークダーは人間を絶滅させることに異様に執着してた。冷静に考えるとぜんぜん違うものかもしれない……」
そうなんすよー。なのでわたしもそっち側の熱血領域とはぜんぜん関係ない存在なんす。ところで、天王寺さんはなんで武術大会なんかに出てたんです?
「もちろんこの世界にはびこる邪悪、魔王たちを倒すためさ! 王国軍に加わって悪を滅ぼすんだ!」
ほあー、それはご立派な心がけで。
「それから、いまみさきに教えてもらった女の邪神ってのも倒さないとな!」
倒してもらえるのならたいへん結構なんですが、たぶんそれはかなりのハードモードだと思います。
「ああ、こちらにいらっしゃいましたか。高町様、ヒロト様」
そこへいかにも小役人といった風体の男が口を挟んできた。現場の混乱が落ち着いてきたので、関係者を探し歩いていたようだ。だいぶ駆け回ったようで、額から汗が流れ落ちている。
爽やかイケメンと話していてもこれ以上得るものはなさそうだし、役人さんにも悪いから素直に闘技場へ戻ることにした。
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