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猫のいる年越し
猫のいる年越し
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「やだ、ひっく、タマ、かえる!」
「は?!始まったばっかだぞ?!場所取り大変だったじゃないか」
「やだもん、はなみ、うるさいもん!」
「は・な・び、な。はぁ、分かった。ほら、タマ、手ぇ繋げ」
うっうっとタマの泣き声が背後から聞こえる。人だかりを避けながら、ユウゲンは公園の出口へと向かった。頭上では鮮やかな花火がにぎやかな音を立て空を染めている。
歓声が上がる度に自分の手を握る小さな手にぎゅっと力が籠った。
「ユウゲンっ、こわ、いっ」
「音がうるさすぎるのか…そうだな、耳を塞げば少しはましか?」
周りを見渡せば子供でも花火を見て喜んでいる。年越しの花火を見るために、無理やり昼寝をさせ、夕飯後に眠そうに船をこぐタマを何とか起こしたのに、まさか花火の音が苦手だったとは。
猫だからしょうがないのか?とユウゲンは頭をひねった。
ユウゲンがタマを拾って初めての年越しである。これからもこうやってお互いの知らないことを発見していくのだろう。
「どうした、タマ?歩けないのか?」
「ううう、だっこ」
「はぁ?足は動くだろ?それに家まであと2分だ、そのくらい頑張れよ」
「ミミ、こうやると、ユウゲンのてぇ、つなげないもん。だっこ!」
空に花火の大輪が咲き、盛大な拍手があがった。花火大会も終わりに近づいているようだ。
タマは真剣にユウゲンに訴えていた。大きな瞳が涙に濡れ、上目遣いで自分より背の高いユウゲンを見上げている。
カラフルでキラキラしているものは好きだが、大きな音は嫌いだ。”としこし”と言われても何だか分からないし、眠いのになんで起きていなくてはいけなかったのかも良く理解はしていなかった。
眠すぎてよく分からないが今はただ、耳を塞いで家に帰りたい。冷え切った尻尾と耳を撫でてもらって、毛布にくるまってぎゅっとしてもらいたかった。
「ユウゲン、だっこ」
んっ、と伸ばされたタマの両腕と潤んだ瞳を交互に見つめて、ユウゲンはため息をついた。この瞳に弱い。先ほどまで大泣きしていた少年の頬はリンゴのように色づいていた。
タマには知らないことがたくさんある。そんなタマでも知っていることはあった。
「しょうがないな、ほら」
優しいユウゲンはため息をついてから、タマが頼んだことをしてくれる。いつもそうだけど今回もそうだったと胸をなでおろした。
「来年、どうするかな。花火観んのは伝統行事なんだぞ」
「はなみ?」
「花火。”び”だ。そう、来年も同じだぞ。公園に行かなくても、家からでも音が聞こえるもんなぁ」
やだっ、とユウゲンの胸に顔を埋めたタマが言った。そう言われても、年末の花火は近くで上がる。嫌でも音が聞こえる距離なのだ。
「うーん…あ、ヘッドフォン買うか。それなら、お前も花火見れるよな。音が嫌いなんだもんな」
「みれる?ドッカーンしない?タマ、うるさいのやだけど、みる!」
「花火自体は観たいのか。それなら今度買い物行くとき見に行こう。猫獣人ってヘッドフォンつけられるのか?」
「しらないっ!ユウゲン、かえったらココア、のむ?」
そうこうしているうちに、新年を迎えたようだ。
翌年、タマは獣人の耳に合った特別なヘッドフォンを付けて花火を観ることになるのだが、それは少し先の話。もちろん、そのヘッドフォンを探すのにユウゲンが店から店へと走り回り、タマが縦に首を振るモノを見つけるまで数か月を費やしたのは言うまでもない。
【終わり】
「は?!始まったばっかだぞ?!場所取り大変だったじゃないか」
「やだもん、はなみ、うるさいもん!」
「は・な・び、な。はぁ、分かった。ほら、タマ、手ぇ繋げ」
うっうっとタマの泣き声が背後から聞こえる。人だかりを避けながら、ユウゲンは公園の出口へと向かった。頭上では鮮やかな花火がにぎやかな音を立て空を染めている。
歓声が上がる度に自分の手を握る小さな手にぎゅっと力が籠った。
「ユウゲンっ、こわ、いっ」
「音がうるさすぎるのか…そうだな、耳を塞げば少しはましか?」
周りを見渡せば子供でも花火を見て喜んでいる。年越しの花火を見るために、無理やり昼寝をさせ、夕飯後に眠そうに船をこぐタマを何とか起こしたのに、まさか花火の音が苦手だったとは。
猫だからしょうがないのか?とユウゲンは頭をひねった。
ユウゲンがタマを拾って初めての年越しである。これからもこうやってお互いの知らないことを発見していくのだろう。
「どうした、タマ?歩けないのか?」
「ううう、だっこ」
「はぁ?足は動くだろ?それに家まであと2分だ、そのくらい頑張れよ」
「ミミ、こうやると、ユウゲンのてぇ、つなげないもん。だっこ!」
空に花火の大輪が咲き、盛大な拍手があがった。花火大会も終わりに近づいているようだ。
タマは真剣にユウゲンに訴えていた。大きな瞳が涙に濡れ、上目遣いで自分より背の高いユウゲンを見上げている。
カラフルでキラキラしているものは好きだが、大きな音は嫌いだ。”としこし”と言われても何だか分からないし、眠いのになんで起きていなくてはいけなかったのかも良く理解はしていなかった。
眠すぎてよく分からないが今はただ、耳を塞いで家に帰りたい。冷え切った尻尾と耳を撫でてもらって、毛布にくるまってぎゅっとしてもらいたかった。
「ユウゲン、だっこ」
んっ、と伸ばされたタマの両腕と潤んだ瞳を交互に見つめて、ユウゲンはため息をついた。この瞳に弱い。先ほどまで大泣きしていた少年の頬はリンゴのように色づいていた。
タマには知らないことがたくさんある。そんなタマでも知っていることはあった。
「しょうがないな、ほら」
優しいユウゲンはため息をついてから、タマが頼んだことをしてくれる。いつもそうだけど今回もそうだったと胸をなでおろした。
「来年、どうするかな。花火観んのは伝統行事なんだぞ」
「はなみ?」
「花火。”び”だ。そう、来年も同じだぞ。公園に行かなくても、家からでも音が聞こえるもんなぁ」
やだっ、とユウゲンの胸に顔を埋めたタマが言った。そう言われても、年末の花火は近くで上がる。嫌でも音が聞こえる距離なのだ。
「うーん…あ、ヘッドフォン買うか。それなら、お前も花火見れるよな。音が嫌いなんだもんな」
「みれる?ドッカーンしない?タマ、うるさいのやだけど、みる!」
「花火自体は観たいのか。それなら今度買い物行くとき見に行こう。猫獣人ってヘッドフォンつけられるのか?」
「しらないっ!ユウゲン、かえったらココア、のむ?」
そうこうしているうちに、新年を迎えたようだ。
翌年、タマは獣人の耳に合った特別なヘッドフォンを付けて花火を観ることになるのだが、それは少し先の話。もちろん、そのヘッドフォンを探すのにユウゲンが店から店へと走り回り、タマが縦に首を振るモノを見つけるまで数か月を費やしたのは言うまでもない。
【終わり】
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