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猫のいるクリスマス
第1話 クリスマス前
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「猫は生クリーム食べれんのか?」
「ユウゲン、おなかすいた!」
「タマ、お前!なんでトイレットペーパーまみれになってんだよ?!」
スマートフォンに夢中になっていたユウゲンが頭を上げると、紙くずでグルグルになったタマが姿を現した。それはまるで安上がりなミイラのようで、季節外れな仮装大会に出たらチヤホヤされそうなほど愛らしかった。
「だってぇ、これおもしろいもん」
猫獣人の少年には三角の耳が生えている。怒られていると分かりながらも、トイレでの遊びは楽しかった。ツンツンと突くとコロコロっと落ちてくるペーパーに夢中になり気づいたら何分も経っていたのだ。
思い出しただけで、タマの尻尾がゆらゆらと揺れた。
「タマ、生クリーム食べれるか?」
「くりいむ?」
「ああ、ショートケーキに乗ってるだろ?」
「わかんない」
ぷいっと後ろを向くとタマは自分の尻尾を掴んで座った。ユウゲンはいつもタマに優しい。ご飯をくれるし、歯磨きもしてくれる。噛ませて!とお願いすれば、仕方ないな、と言って腕を貸してくれるのだ。
だけど、そんなユウゲンも時々タマに意地悪をする。難しい言葉を言われても分からなくて悲しくなって尻尾と耳がしゅんっとするというのに、ユウゲンは時々訳の分からない質問をしてくるのだ。
「ターマー。怒ってんのか?」
「だって、くりいむわからないもん!」
「分からないなら、一緒に覚えていけばいいって前に言っただろ?」
「ちがうもん!ユウゲンはタマにいじわるだもん!」
大声を上げて少年は泣き出した。ひくひくと喉が鳴り、言葉にならない声がタマの小さな口から洩れる。大きめのTシャツに隠れる小さな肩が上下し、いつもは元気な耳がしょんぼりと下を向いていた。
大事になった、とユウゲンは頭を抱えた。
こうなるとタマはなかなか機嫌を直してくれないのだ。前回は、シーチキンとかつお節を交互に出して、それでも泣き止まないタマをユウゲンがぎゅっと抱き上げた。子供体温がじんわりとユウゲンの胸を温め、泣き疲れくーくーと寝息を立て始めたタマは、次に目覚ますと泣いていたことなど丸っきり忘れていたのだ。
「タマ、クリームはな美味しいんだぞ」
「くりいむはたべるもの?」
「ああ、タマでも食べれるやつを見つけたぞ、ほら」
ユウゲンのスマートフォンには美味しそうなショートケーキが映っていた。ケーキも美味しそうだがその上に乗っている苺もツヤツヤでよだれが出るほど。
「ユウゲン、うでちょーだい?」
「なんでだよ。今はケーキの話してただろ?これ、食べたいか?クリスマスに買ってくるから」
「タマ、くりうます、しらないもん」
ユウゲンの胸に抱き着いたタマはぐりぐりと額をこすりつけた。今日は難しい言葉がたくさん出てくる。どれもこれも路地裏で生活していた時には聞かなかった言葉ばかり。
「クリスマスはな……」
ガシガシと二の腕を噛みだしたタマをユウゲンが止めることはなかった。タマの牙はまだ小さくてチクチクする。噛まれすぎれば痛いが、これも愛情表現だとすれば可愛いものだ。
ユウゲンの膝に座りながら、タマはクリスマスについて教わったのだった。
「ユウゲン、おなかすいた!」
「タマ、お前!なんでトイレットペーパーまみれになってんだよ?!」
スマートフォンに夢中になっていたユウゲンが頭を上げると、紙くずでグルグルになったタマが姿を現した。それはまるで安上がりなミイラのようで、季節外れな仮装大会に出たらチヤホヤされそうなほど愛らしかった。
「だってぇ、これおもしろいもん」
猫獣人の少年には三角の耳が生えている。怒られていると分かりながらも、トイレでの遊びは楽しかった。ツンツンと突くとコロコロっと落ちてくるペーパーに夢中になり気づいたら何分も経っていたのだ。
思い出しただけで、タマの尻尾がゆらゆらと揺れた。
「タマ、生クリーム食べれるか?」
「くりいむ?」
「ああ、ショートケーキに乗ってるだろ?」
「わかんない」
ぷいっと後ろを向くとタマは自分の尻尾を掴んで座った。ユウゲンはいつもタマに優しい。ご飯をくれるし、歯磨きもしてくれる。噛ませて!とお願いすれば、仕方ないな、と言って腕を貸してくれるのだ。
だけど、そんなユウゲンも時々タマに意地悪をする。難しい言葉を言われても分からなくて悲しくなって尻尾と耳がしゅんっとするというのに、ユウゲンは時々訳の分からない質問をしてくるのだ。
「ターマー。怒ってんのか?」
「だって、くりいむわからないもん!」
「分からないなら、一緒に覚えていけばいいって前に言っただろ?」
「ちがうもん!ユウゲンはタマにいじわるだもん!」
大声を上げて少年は泣き出した。ひくひくと喉が鳴り、言葉にならない声がタマの小さな口から洩れる。大きめのTシャツに隠れる小さな肩が上下し、いつもは元気な耳がしょんぼりと下を向いていた。
大事になった、とユウゲンは頭を抱えた。
こうなるとタマはなかなか機嫌を直してくれないのだ。前回は、シーチキンとかつお節を交互に出して、それでも泣き止まないタマをユウゲンがぎゅっと抱き上げた。子供体温がじんわりとユウゲンの胸を温め、泣き疲れくーくーと寝息を立て始めたタマは、次に目覚ますと泣いていたことなど丸っきり忘れていたのだ。
「タマ、クリームはな美味しいんだぞ」
「くりいむはたべるもの?」
「ああ、タマでも食べれるやつを見つけたぞ、ほら」
ユウゲンのスマートフォンには美味しそうなショートケーキが映っていた。ケーキも美味しそうだがその上に乗っている苺もツヤツヤでよだれが出るほど。
「ユウゲン、うでちょーだい?」
「なんでだよ。今はケーキの話してただろ?これ、食べたいか?クリスマスに買ってくるから」
「タマ、くりうます、しらないもん」
ユウゲンの胸に抱き着いたタマはぐりぐりと額をこすりつけた。今日は難しい言葉がたくさん出てくる。どれもこれも路地裏で生活していた時には聞かなかった言葉ばかり。
「クリスマスはな……」
ガシガシと二の腕を噛みだしたタマをユウゲンが止めることはなかった。タマの牙はまだ小さくてチクチクする。噛まれすぎれば痛いが、これも愛情表現だとすれば可愛いものだ。
ユウゲンの膝に座りながら、タマはクリスマスについて教わったのだった。
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