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第114話 ショーンの友人
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「サイ、薬が効いてきたんですかね?」
静かな寝息を立てるケンを見つめ、横に立っていたサイに視線をやると頭を上下に振った。
「良かったですね。これであとは大人しく休んでいれば元気になるはずです」
「忙しいところ、お世話になりました」
「え!だ、大丈夫ですよ。僕、今日お休みなんで」
サイは、若い。
確か、18くらいだったはず。
明るく笑うと茶色い瞳が弧を描く。
船員たちの弟分のようなサイだが、ワイワイとみんなの輪に混ざるより、静かに一人で絵を描いていることが多い子だ。
かといって、人付き合いが苦手だというわけでもないようだが。
今まで仕事以外では深くかかわってこなかった。仕事、と言ってもサイは、ケンたちと一緒に厨房で働いているから、ほぼかかわりがなかったと言って等しい。
「ケンは、いつも元気だから、こう風邪をひかれると心配ですよね」
「ええ……私も必要以上に取り乱してしまいました」
「ふふ!ショーンさんも人間ってことですね!」
「え?」
何のことだ、と頭を傾げると、慌てふためいた表情でサイが両手を振り出す。
「わ、悪い意味じゃなくて!ほら、ショーンさんは、何でも表情変えずに成し遂げてしまう超人だって船員の中じゃ評判だから……あ、ほめてますよ!」
超人なわけがない。私は私の出来ることを毎日やっているだけで。
「ありがとうございます。私だけでは船は動きませんから。皆さんが協力してくれるからこそ、私が仕事できるんですよ」
「ショーンさんは、えっと……その……」
「なんですか?」
言いづらそうに口をもごもごと動かすサイはもう明るく笑っていなかった。困ったように眉間にしわを寄せ足下を眺めている。
「っと、に、ニールさんのことなんですけど」
「ニール、ですか?」
「あ、だ、大丈夫です、気にしないでください。そうだ、僕、絵を描き途中だったんだ!すみません、これで失礼しますね」
何が何だか分からないうちに、バタバタとサイは部屋を去ってしまった。
お辞儀をして出ていく姿はいつもより焦っているようで、扉を開けるのに手こずっていた。
「なんだったんでしょうか……」
その疑問に答えてくれる人間はこの部屋にいない。
ニールに関する質問だったのだろうか。それなら本人に聞くのが一番なはずだ。私に聞いたところで、他の船員が知ってる以上に詳しい情報はない。
確かに、長い間一緒に働いていて、一番近い存在だとは思うが。
だからと言って、ニールの趣味は何だとか、好きな食べ物は?とか聞かれてもはっきりと答えられる自信はない。
「友人、のはずなんですけどね……」
このくらいの距離感がなぜかちょうど良いのだ。
静かな寝息を立てるケンを見つめ、横に立っていたサイに視線をやると頭を上下に振った。
「良かったですね。これであとは大人しく休んでいれば元気になるはずです」
「忙しいところ、お世話になりました」
「え!だ、大丈夫ですよ。僕、今日お休みなんで」
サイは、若い。
確か、18くらいだったはず。
明るく笑うと茶色い瞳が弧を描く。
船員たちの弟分のようなサイだが、ワイワイとみんなの輪に混ざるより、静かに一人で絵を描いていることが多い子だ。
かといって、人付き合いが苦手だというわけでもないようだが。
今まで仕事以外では深くかかわってこなかった。仕事、と言ってもサイは、ケンたちと一緒に厨房で働いているから、ほぼかかわりがなかったと言って等しい。
「ケンは、いつも元気だから、こう風邪をひかれると心配ですよね」
「ええ……私も必要以上に取り乱してしまいました」
「ふふ!ショーンさんも人間ってことですね!」
「え?」
何のことだ、と頭を傾げると、慌てふためいた表情でサイが両手を振り出す。
「わ、悪い意味じゃなくて!ほら、ショーンさんは、何でも表情変えずに成し遂げてしまう超人だって船員の中じゃ評判だから……あ、ほめてますよ!」
超人なわけがない。私は私の出来ることを毎日やっているだけで。
「ありがとうございます。私だけでは船は動きませんから。皆さんが協力してくれるからこそ、私が仕事できるんですよ」
「ショーンさんは、えっと……その……」
「なんですか?」
言いづらそうに口をもごもごと動かすサイはもう明るく笑っていなかった。困ったように眉間にしわを寄せ足下を眺めている。
「っと、に、ニールさんのことなんですけど」
「ニール、ですか?」
「あ、だ、大丈夫です、気にしないでください。そうだ、僕、絵を描き途中だったんだ!すみません、これで失礼しますね」
何が何だか分からないうちに、バタバタとサイは部屋を去ってしまった。
お辞儀をして出ていく姿はいつもより焦っているようで、扉を開けるのに手こずっていた。
「なんだったんでしょうか……」
その疑問に答えてくれる人間はこの部屋にいない。
ニールに関する質問だったのだろうか。それなら本人に聞くのが一番なはずだ。私に聞いたところで、他の船員が知ってる以上に詳しい情報はない。
確かに、長い間一緒に働いていて、一番近い存在だとは思うが。
だからと言って、ニールの趣味は何だとか、好きな食べ物は?とか聞かれてもはっきりと答えられる自信はない。
「友人、のはずなんですけどね……」
このくらいの距離感がなぜかちょうど良いのだ。
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