運命の乗船

綿天モグ

文字の大きさ
上 下
113 / 125

第113話 ニールの謝罪

しおりを挟む
「ボク、スキ?」

 そんなの当たり前に決まっている。アサだって俺がどんなに好きなのか知っているはずだ。

 それをわざわざ確認させるようなことになったのは100%俺のせいだ。

「もちろんだ」
「ン?ワカ、ラナイ」
「俺はアサ、お前のことが好きだ。何よりも好きだ。絶対よそ見なんてしない」

 涙に濡れた頬は真っ赤に染まっていて、瞼は腫れて痛々しい。いつもきれいに結われた髪も少し乱れてバレッタがずれ落ちている。

「スキ?」
「好きだ。好きに決まってる」
「サイ、スキ?」
「好きじゃない!」
「ナイ?」

 いつもより震えた声色を乗せてアサは俺の目を見つめた。言葉が通じれば、簡単に説明できたのだろう。いや、言っていることが分かったって、心が通じなければ意味はない。要するに信じてもらえなければ元も子もないのだ。

「お前以外は好きじゃない。絶対だ。信じてくれ」

 後ろめたいことをしたわけじゃないのに、心が焦り胸が締まる。
 どうしたらいいんだ。


「アサ」

 真っすぐ手を伸ばすとアサが頬を寄せた。
 悲しそうで悔しそうな表情に俺の頭が痛む。わざとやったわけじゃないが、アサを悲しませたのは俺だ。

「ニール……」
「俺は、」
「スキ」
「ああ」


 真っ赤になった瞳はいつも以上に濡れていて、漆黒の綺麗な瞳がゆらゆらと揺れていた。

「悪かった」
「ン……」
「許してくれ」
「……」
「ごめん」

 俺の胸に顔を埋めたアサから返事は聞こえない。不安に包まれ俺はアサの髪に触れた。

「駄目か?」
「……マダ、ダメ」

 ぐりぐりと顔をこすりつけるとアサは小声でそう呟いた。

 自分の目で嫌なことを見てしまったんだ。分かっていたってすぐに何もなかったことにはできないだろう。

 例えば、逆にアサが他のやつに抱き着いているところを俺が目撃したら……考えただけでも頭に来るな。この野郎。

 布越しに伝わる体温はいつもより高い。それだけアサを泣かしてしまったかと思うと胸が痛んだ。



「アサ、好きだ……」
「ン……」

 そこから続いたのは静けさだけだった。

 指先でアサの髪を弄り、たまに顔を出す項を撫でながら、ずれ落ちかけているバレッタを外しベッドサイドに置いた。
 何も言わず、顔も合わせてくれないアサの体温を感じて、自分の行動を後悔して、どう挽回しようかと頭を巡らせる。

 

 この時俺は、熱にうなされているケンやその横で慌てているショーン、それにサイと交わした約束のことはすっかり忘れていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

神獣の花嫁

綾里 ハスミ
BL
 親に酷い扱いを受けて育った主人公と、角が欠けていたゆえに不吉と言われて育った神獣の二人が出会って恋をする話。 <角欠けの神獣×幸薄い主人公>

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

つまりは相思相愛

nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。 限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。 とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。 最初からR表現です、ご注意ください。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...